第一章「始まりの時間(トキ)」
この物語が、皆さんの心に届けばいいなと思います。どうぞ、応援のほど、よろしくお願いします。
12月24日
クリスマスイブ
今夜も明るく照らされた町、東京。
様々なイルミネーションが明滅しながら、光輝いている。
さながら、ライトアップされた宝石店のようだ。
イルミネーションが立ち並ぶ並木道を歩いていくと、大きな広場に突き当たる。そこには、20メートルはあるであろう、クリスマスツリーと、何組ものカップルがその夜を照らしていた。
僕は今、クリスマスツリーの前で、呆然と立ち尽くしている。
隣にはだれも居ない。さっきまでいたのだが。
右の頬が熱い。なぜ、熱いのか解らなかった。いや、解りたくないのだろう。
「ごめんな…」
痛みを紛らわすために、誰もいない隣に、謝った。
…痛みが増しただけだった。
周りのカップル達が、指を指しながら何事か囁いている。
まぁ、当然だろう。さっきまで一緒にいた人が、怒声を上げて、どこかへ行けば。
カップル達にじろじろみられていても、立ち去る気にならなかった。
というより、視界に入らなかったから、気にもならなかったのだ。
それに、体が動かない。
今になって、悲しみの金縛りが掛かりはじめた。
悲しみは慰めという言葉を知らないかのように、深く、胸をえぐった。
「……………」
肩を震わせながら、涙の一粒が零れ落ちた。ひらひら舞う灰色の粉雪が積もった地面を薄く溶かした。
周りの同情という空気が、より一層濃くなった。
居たたまれなくなったのもある。
ただ、それだけじゃない。
「まだ、間に合う」
心の中のなにかがそう呟いた。
走り出した。泣きながら。
そうだ、まだ間に合う。
那覇空港行きの便は、8時発だ。
ここから、羽田空港まで、近くの駅に乗れば行けるはずだ。そうすれば、彼女居る。きっと。
今から行けば間に合う。
クリスマスツリーに来た道とは真逆の方向に走り出した。並木道を駆け抜ける。人が多いせいか、途中、何度も肩がぶつかった。謝る暇はない。肩がぶつかる度に怒鳴られたり、舌打ちされた。
それでも、止まらない。いや、止まれない。
遠くで大通りが見えた。
多分、日光街道だろう。
そして僕は。
ただ、走る。
並木道から抜け出し、近くの自転車を停めた公園に向かう。
カチャという鈍い音を立てて鍵が開いた。
立ち止まらない。全速力で自転車のペダルを廻した。
自分でも、もの凄いスピードを出してるのが分かる。
彼は、駅まで全速力を出した。必死でベルを鳴らしながら走る。