第五話
優から舞への電話。
「棗が大人に絡まれた」
舞は棗を助けに行く。
舞と棗は一体・・・!?
「おぉ?おねーちゃん。可愛いねー。どうしたの?」
人を馬鹿にするような言い方。
ムカついたけど相手にしない。
今は棗を助けることが優先だ。
あたしは目をきょろきょろさせる。
棗ッッ
不良達の真ん中にあたしの中学の制服を着ている男子が居る。
「棗ッッッッ!!!!!!」
ぐったりしている。
痣だらけだ。
頭から血がでている。
流血だ。
あたしは棗に駆け寄った。
いや、駆け寄ろうとした。
「おぃおぃ。ねぇちゃんシカトしないでよね。可愛いっていってるのに」
「離してよ!」
ほかの不良達があたしを囲む。
棗はぐったりしているから起き上がることも不可能だろう。
気を失っている様子だ。
あたしは不良の間から棗を見ていた。
―――棗
お願い 逃げて
気 取り戻して
とにかく此処から棗と逃げなきゃ。
あたしのことを掴んでいる不良の手にかみついた。
「ってぇぇ!!!コイツ!!!」
「キャァッ!!」
不良が手を上げる。
良く見ると手にナイフを持っている。
ナイフがキラリと輝く。
棗、助けて!!!
自分はどうでもいいなんて思ったけどやっぱり死にたくない。
棗と一緒にいたい。
「ゲホッ」
不良が手を止める。
カラン
乾いた音を立ててナイフがあたしの足元に落ちた。
とっさにナイフを拾い上げる。
何が起こったのか分からないまま上を向く。
「来るなっつったじゃん。」
棗だ。
棗の足元にはさっきの不良が倒れている。
棗が助けてくれた。
「これで御前助けるようだな。」
さっきまで時間が止まっていたのか、残りの不良達が襲ってくる。
棗も気を取り戻して1人1人倒していく。
あたしは棗の喧嘩なんて馬路かで見たこと無かったから怖かった。
震えていた。
怒鳴り声と人の体に拳が当たる音、叫び声
叫び声を作ってるのは棗。
棗は今でも流血していて地面には血が垂れ落ちる。
それでも棗はしっかりと立って
何時倒れるのかも分からない
何時死ぬのかも分からない
そんな状況で
只一人、あたしを救うために――
震えながらペタンと座っているあたしに
「舞!何ボゲっとしてんだよ!逃げるぞ!」
と 急いで喋りかける。
残り10人くらいの不良の半分は怯えて逃げようとしている。
あとの半分はまだやる気だ。
棗が走ってこっちまで来る。
すわっているあたしの手を握って引っ張った。
手を繋いだ。
あたしもつられて急いで立ち上がり棗と走った。
棗の手は冷たかった。
でも後姿、かっこよかった。
「此処まで来りゃもう来ないな。」
今まで棗の後ろ姿に見とれて後ろ見なかったけど、もう来ないようだ。
「大丈夫か?」
「う・・・ウン・・・」
棗が流血していたのを思い出した。
「棗、頭・・・」
いつの間にか泣いていた。
泣きやすいって本当に嫌だなぁ・・・
「んぁ、ヘーキ」
「駄目だよ!貧血おこしちゃうじゃん!」
「ヘイキだっつの」
棗は征服のシャツをビリビリと引きちぎって頭に縛った。
「行こ。風邪引く。」
「うん・・・」
でもすぐにシャツは赤く染まった。
「痛くない・・・?」
「慣れてるから。」
まだあたしは小刻みに震えていた。
「寒い?」
「違う・・・」
「泣くなよ。」
「仕方ないじゃんッッ」
「俺が泣かした見たいじゃん。」
「棗が泣かせたんだよ!!」
「泣くな。ブス」
「それ女に言う!?」
そんなこと言いながら棗はまだ手を繋いでくれる。
「言うね。」
「酷ッッ!!」
「だから泣くと余計ブスになんだよ ドブス」
「何よイケメン!!」
「それって反抗してないな。」
「だって棗に悪いところ無いんだもん」
「さっきまで泣いてたカラスがもう怒った」
「え・・・?」
本当だ。棗と怒鳴りあってたら何時の間にか泣き止んでいた。
棗って不思議なパワー持ってるね。
でも棗笑ってくれないね。
分かる?好きな人が笑ってくれない気持ち
切ないんだよ。
「今日家まで送っていくから。」
「ぇ。あ。有難う・・・」
「御前ん家行くの何年振りだ・・・」
「お父さんが死んで以来だから・・・んー・・・」
「計算嫌」
「あたしもww」
お父さんのお葬式の日、棗が家に来てくれた。
線香を炊きに来てくれたんじゃなくて、あたしを慰めに。
嬉しかった。
「此処曲がるんだっけ?」
「うわ。忘れたの?」
「しゃーないじゃん」
「幼馴染なのに?!」
「何年も行ってないし。」
「酷ッッッ」
「御前優と性格に過ぎ」
「何処が?」
「餓鬼」
「・・・ガキ 幼いっていってよね!」
「餓鬼のほうが文字数少ないじゃん」
「と、いいますと?」
「言うのがメンドイ。」
「うわー!!最低やぁぁぁッッ!!」
「痛いっつの」
「この野郎!このヤロー!!!」
そう言いながらわざと青痣のところをポカポカ殴る。
でも内心笑っていた。
楽しかった。
棗は最低じゃない。
でも照れ隠ししなきゃ
あたしが棗のこと
「好きだ」って事
ばれちゃうもん
「でも御前に仮できたな。」
ポカポカと叩いているあたしを他所にポツリと呟く。
「ぇ?」
「聞き返すなよ、タルイじゃん」
「・・・」
「仮はちゃんと返すから。」
「ブァーーカ」
「御前よりは頭良いと思う」
仰る通りです。
全く・・・
「んじゃね。」
何時の間にか家についていた。
「うん。お大事に」
「馬鹿なんだから風邪ひかないと思うけど御前もね。」
「酷ッッッ!!!」
棗は踵を返した。
このとき、棗がちょっとだけ微笑んだような気がした。
――――――――
帰ったらお母さんに怒られた。
でも棗を救えたから嬉しかった。
仮なんて返さなくても良い。
棗がそばに居てくれるだけで良い。
今思うと棗とさっき話していたとき
あれが馬鹿話だったんだなって。
願い、1つ叶ったね。
ありがとう 棗




