第弐話
女嫌いの棗が――
こんなあたしに心を開いてくれる理由
そして―――
棗が涙も笑顔も出せなくなった理由
あたしはお父さんが居ない。
顔も思い出せない。
それはあの日以来・・・
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
あれはあたしが4歳のとき。
お父さんとドライブに、峠に行きました。
都会にすんでるあたしはきれいな緑を見に行くので嬉しかった。楽しかった。
でも
峠のカーブ、左は崖。右から斜線をはみ出した大型トラックがこちらへ近づいてきた。
お父さんはハンドルを切った。
切り過ぎた。
車は左にいきなり方向をかえる。
スローモーションになった。
徐々にガードレールに近づく。
そして
「きゃぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
「舞っ!!!」
車はまっさかさまに落ちる。
でも
お父さんが
まだ幼いあたしをしっかりと抱く。
ガンッッ!!!!!!!!
車は何メートルもある崖から落ち、地面に叩きつけられる。
車内でもあたしは衝撃をうける。
でも感覚がある。
誰かに抱かれている。
恐る恐る目を自分の下にしてみる。
「お父さん・・・?」
お父さんがいた。
お父さんはあの崖から落ちる恐怖の中
シートベルトをいそいで外して
空中のなかあたしをだいて
自分を犠牲にした。
でもお父さんはまだ生きていた。
「・・・ま・・・・い」
私を呼んだ。
お父さんは生きていた。
「お父さん!大丈夫!?」
「大丈・・・夫だよ。舞・・・よ・・くきく・・・んだよ・・・」
お父さんは喋るにつれて肩が上下に大きく動く。
「い・・・いかい・・・?舞はね・・・おりこ・・・うさ・・・んだか・・・ら」
お父さんは途切れ途切れにいった。
けどあたしはしっかりと話を聞こうとした
「舞のすわ・・・ってた・・・助手・・・席の窓・・・あけ・・・てるから・・・
そこから・・・で・・るんだよ・・・?」
「お父さんは?お父さんあの窓からでれないよ?」
「あと・・・で・・・いく・・・から・・・」
「あとでって何時?」
「お・・・とうさんね・・・ちょっとだけおで・・・かけいくから・・・
家にかえ・・・れない・・・んだ」
「何時帰ってくるの?」
「舞が・・・ね・・・おばあちゃ・・・んにな・・・ってから・・・かな・・・」
「分かった!」
「それ・・・と」
「うん」
「舞、愛してるよ。」
「うん。じゃぁ待ってるね」
それからあたしゃ助手席の窓から外にでた。
幸いにも事故だと駆けつけて
警察や救急車が上にいた。
数分後毛むくじゃらのおじさんにだかれて
あたしは病院にいった。
お母さんと会って、話をした。
「お父さん、おでかけいくから、お家に帰ってこれないんだって。舞がおばあちゃんになったら
あいにくるって!!」
お母さんは泣いていた。
この話をしたら泣いた。
でも毎日お父さんと遊んでいたあたしはいつも幼稚園で泣いていた。
そうすると男子が
「また泣いてる!馬鹿じゃねーの?」
「舞ちゃんお父さんいないんだって!あはははは!」
って笑いものにする。
でも棗がすぐ来てくれた。
「お父さんいないから何だよ?居なくたっていいじゃん。馬鹿にすんじゃねぇよ」
そしたら男子が棗に手を出した。
棗は殴られて
殴り返した。
棗は何も知らない先生に怒られた。
あたしは先生に「違う」って言おうとしたけど
勇気が無かった。
棗と違って勇気の無いあたしは
何もできなかった。
このとき棗に
お父さんが居ないって
初めて気づいた。
幼稚園のころからあまり良い奴じゃないって先生から差別されていたから
あたしも近づかないようにしていた。
正直あまり表情の無い棗は好きではなかった。
でもこのとき棗が可愛そうで―――
棗は
自分にも父親いないから舞も一緒なんだ
って言ってくれた。棗とあたしは共通点が一個あった。
棗は自分のことがあたしに少し分かってもらってると思ったんだ。
だからあたしに心を開いてくれたんだ。
優もお母さんいないから。
だから・・・
当時4歳のあたしは「死」なんてしらなくて
その「死」がお父さんに覆いかぶさったなんて事で
余計分からなくなった。
でも棗はあたしの家庭まで分かってくれて
そういう人がいてくれて嬉しかった。
「棗のお嫁さんになる!」
っていっても棗にシカトされたけど
棗はあたしにも、優にも優しくしてくれた。
あとで分かったことだけど
棗は昔お父さんに暴力振られてて
虐待されていた。
ボコボコにされて幼稚園に来る日も少なかった。
来た日は痣だらけで切り傷もあって
先生に聞かれても
「転んだ」
って言って家庭環境のことはさっぱりだった。
面談のときも親と子のいってることは一致。
「転んだ」とか「喧嘩」とか。
先生は棗のこと嫌いだから奥まで聞かなかった。
棗はあの体で耐えて、耐えて。
お父さんばっかりご飯食べて。
棗は自分で余ったご飯を食べていた。
お父さんは太って、最終的に病気でしんだ。
お母さんも虐待していた。
けど棗は
もう泣かなかった。
お母さんは再婚してまた旦那さんと虐待をした。
お母さんはまた病気で死んで
旦那さんはまた再婚して
でも再婚した新しいお母さんは警察に通報した。
旦那さんは警察に捕まった。
このとき棗は小3。
まだやせぎみだった。
食事はなんとなかってた。
でも傷や痣は結構あった。
痛々しかった。
でも治るから良いだろう。
棗が失ったもの。それは
人を信じること
「もう叩いたりしないよ」
って声を掛けられて棗は本物のお父さんを信じた。
でも違った。
「おいおい。本当に信じるなよ」
って。
何度も繰り返されて
棗はついに人を信じられなくなった。
残酷だった。
涙も笑顔もいつのまにか消えていた。
でもあたしや優に心を開いていた。
これが棗があたしや優に心を開いてくれる理由と
棗が涙も笑顔も失った理由です。




