―番外編―
番外編です。
棗が死去してからの話、
途中からは第十六話の
途中からの棗です。
「唯衣ーっ」
「ふはぁ、久しぶりですわねぇ、舞ちゃん」
「そだね、元気だった??」
「そりゃあねぇ!舞ちゃん笑顔良すぎだよ!!」
「そりゃもつろんもつろん」
「えー、もつろんって何さ」
「まぁいいわ!!優ちゃん待とうよ!!」
「そだね」
棗と死別してから時がたって、
今あたし達は大学1年生。
唯衣や、優ちゃんとはバラバラになっちゃったけれど、
会おうと思えば会えるんだ。
けれど大学生って事で時間も無いし…
っていうことで、今日は集まる事になりました。
相変わらず大人っぽくも色っぽくも無いよね、って周りから言われるけれど…
それで良いんだ。
ほら、死んだ人は年をとらないって言うじゃん。
それと同じであたしも棗に言われた「餓鬼」のままでいたいの。
あ、やっぱ「幼い」ままでいいや。
「優ちゃーんっ」
「優ちゃん!」
「舞ちゃん、唯衣ちゃん!!」
唯衣はちょっと色っぽいっていうか…
で、優ちゃんはちょっと大人っぽくなった。
皆成長したなぁ、と。
棗の出血が多かったのは、やっぱり白血病だったから。
死別してから色々とあって、逮捕とか何だかとあって大変だった。
でもやっぱり警察もその傷で臓器に触れていないのに死ぬのはおかしい、
って事で調べたらやっぱり病気だって。そしらら白血病だって。
それでも棗はあたしと同じで自由が好きだから、
病院とかにいかなかったんだろうな。
白血病の状態…??多分あの時はもう吐き血はしてる時期だって。
もしかして棗はもう自分の「死」に気づいていたのかもしれない。
それでも何時もとかわらず…
なったこと無いからわからないけど…
やっぱり辛いだろうし…
「死」が近づいてるって…
怖いよね
棗と死別するあの日。
あたしは絶対忘れない。
あたしの頭の中で毎日…
何回も
何十回も
リピートされるの。
「愛してるよ」
そういって棗はあたしの頭に手を置いて、
グッて引っ張って…
最初で最後のキスをした。
最初で、最後のキス。
あの時、「死なないで」何ては言おうとはしなかった。
そしたら棗が心配しちゃうから。
あたしは安心して逝かせてあげたかった。
でも
あたし…「あたしも愛してるよ」って言ってあげなかった。
でも後悔はしていない。
毎日なっちゃんに言ってるから。
仏壇の前だけど。
そこで「大好きだよ」って言っているから。
絶対あたしの思いは伝わってるって信じているから。
棗が永遠に開かない瞼を閉じて…
赤い液体では無い。
透明で
綺麗な雫が棗の永遠に閉ざされた瞼から一筋、
棗の頬を静かに静かに伝った。
唯衣は、その涙は“有難う”って意味と、“愛してる”って意味が
込められているんだよ、って言ってくれた。
“もっと一緒にいたかった”ってのは無かったと思う。
棗はある日、
人間は同じ幸せを味わったらそれで良いんだよって言ってくれた。
寿命が短い人は、長く生きた人の分の幸せを味わうってことなんだ。
って。
じゃぁ棗は…幸せだったのかな。
唯衣も優ちゃんも幸せだったんだよって言ってくれている。
もう過去は変えられない。
信じるしかないんだよね。世界が別なんだから。
でもあたしは今、幸せです。
「ふー…」
帰宅。
時間はもう12:00だ。
そういえばあの棚なんだっけ??
それはリビングの窓の左側にある棚。
棗が死去してから1度も…
パカっと開けてみる。
すると何かが落ちてきた。
―手紙??
それは何も書き記してない白い裏の封筒。
表にしてみると
鉛筆で
“舞へ”
と、ただそれだけ書いてある。
中には1枚の便箋が入っていた。
ちょっとした胸騒ぎがした。
もしかして棗から??
そんな期待交じりの。
恐る恐る何もはられてもいない封筒を開ける。
封筒と同じ色の便箋が入っている。
広げてみると封筒と同じように鉛筆で文字が書いてある。
模様も何も無い。唯一あるのは横線。
心臓が鳴っているのがわかる。
あの世では心臓の音は聞こえるのだろうか??
あたしは鉛筆の文字を見つめた。
“舞へ
舞に手紙書くの初めてだけど。
最初で最後の手紙だけど。
多分今俺はこの世にはいないと思う。
寂しい思いさせてゴメン。
俺、病気だと思う。だから俺の死因は
殺害されたか病気だろーなー。
ガキん頃から俺の嫁になりたいって。
何か馬鹿らしくて顔がにやける。
んっとね。
今まであんがと。幸せだった。
舞がいたからだと思う。
今思い出すと何時も何所でも俺の隣に舞が居た。
本当に幸せだった。
愛してる。
by棗”
読み終わった頃には手紙が濡れていた。
ポツポツと、黒い染みができていた。
それは雨のようにまだ降り続く。
ボヤボヤとよく見えない。
だけど頭の中に、しっかりと字が焼きついていた。
目をこすって、封筒の中をもう1回確かめた。
何か紙が入っていた。
写真だ。
封筒の中に手を突っ込んで取ると…
画質が悪い、小学2年のころの写真。
棗が虐待されていたころの画像。
でもそこにいた棗は―
微笑んでいた―
写真を裏にしてみると
“愛してる”
只そう書いてあった。
「舞、家でまってろ」
「え?」
「良いから。」
「御前は死ぬんだよ??棗ちゃん。」
分かってるって。
それで舞が生き延びるんならいーよ。
もうちょっとこの世界に居たかったけれど。
まぁいいや。幸せだったしさ。
「嫌だ!!あたしが死ぬ!!!棗は生きてよ!!!」
俺は生きるの??御前が死んでも俺、すぐ追いかけるよ??
でも死ぬななんて言ったってな…
聞くわけ無いか。
じゃぁ…
舞のトコに行こう。
でも下手したら俺は死ぬ。
だから言っておこう。
今俺が確実に言える事
嘘じゃなくて、そんで約束みたいなのじゃないヤツ。
すぐ行くからとかそんなの行けるかどうか分かんない。
今俺が確実に言える事―
「好きな奴殺されて俺が生き延びるのかよ」
あぁ…泣かせちゃったか。
言わないほうが良かったかな
今となっちゃもう遅い。
畜生
時間がネェ。
このままだったら…
2人、此処で殺されるのがオチ
それじゃぁ俺と違って
まだまだ命がある舞に…
そんなんダメだ。
行け。
舞がこのエリアから出て行く。
走れ。
とにかく此処からでてけ。
後ろ振り向くなよ。
「さてと。舞ちゃんも行った事だし。よおし。」
「俺の事殺したら御前、舞に手出すなよ」
「あぁ。約束するさ」
約束…
もう人間とか信じられないんだよな
嫌、そんなの昔の話。
今…
今は…
舞が居るから。
舞に出会わなければ多分…
人を信じるって事が俺、知らなかったかもしれない。
「準備おーけー?」
「おーけー」
棗が言ったと同時に棗に向かってナイフが音を出す。
棗も負けずにとベルトからナイフを取り出す。
ちょっとくらい抵抗しないと舞にあえないじゃん。
ちょっと御前にゃくたばってもらいますよ。
まぁ俺もすぐ死ぬから良いさ。
できるだけ足とか腕とかに傷つくれよ?
大量出血で死ねると思うから。
何十分も刃物がぶつかる音が響く。
あぁ。やべぇ。疲れた…
もう此処までか…
ナイフ飛ばすか??
でも殺人で死にたくネェなぁ。
舞に会いたい
ヒュッ
棗がナイフを飛ばす。
あぁ。頼む。怯んでくれ。
怯むだけで良いから。
腕…腕に当たれ
グサッ
あー。何か良い音したなー。
ん??悪趣味か??
まぁ良いや。これでお相子だよなぁ?
傷…まぁ浅いな。
抜くか??
無表情の顔でたっている棗
前には腕にグッサリとナイフが刺さった不良。
叫び声をあげてもがいている。
「じゃぁな。俺ちゃんと朝までには死んでおくからさ」
―――
ガチャ
あー。何か痛い…
舞 ちゃんと帰ってきてるかなー
そこに急いで舞がくる。
「巻き込んでゴメンな」
舞の瞳からまた涙が出てくる。
あたたー。また泣かせちゃった。
まぁ顔みれたから良いや。
「ゴメンね、ゴメン。よかった、無事で・・・ゴメン」
嫌 良いんだけどさ。
御前がいなくてもいても俺は死ぬ運命だったんだしさー。
あーいってー。
靴脱ぐのメンドイんだけど。
あーいてぇよ。
土足じゃだめですか?
とりあえず自分の部屋にでも行くか。
やっぱ出血多いなー。
まぁ良いけどさ。
此処で目閉じたら…寝れるな。
寝れるって言うか寝てパタン
なんっつーかな。
死ぬのが怖くない。
もう役目果たせたし。
運命だしな。
でもやっぱ最後に1度
舞を見たい。
「舞・・・来てくれない??」
「うん、うんッ」
んおー?こいつぁー俺が怪我してることに
まだ気づいてないんだ。
ずい分と鈍感だねー、お嬢様。
月…
眩しーな。
舞の目が変わる。
おおう。気づいたかい??
んまぁ気づこうがどうでも良いんだけれどね。
「な・・・つめ??」
「大丈夫」
何か腹がうずうずする。
ゲホッ
あー。なんだ。血か。
畜生、苦しい。
おまけに頭がガンガンする。
あれか??血無くなってきたからか。
まぁ良いさ。
「棗っ、棗!!」
もうダメか…
人間って崩れやすいな。
でも
崩れても崩れても
踏まれても踏まれても
それで何かが生まれるならば
それで何かが生き延びるならば
崩れたって 踏まれたって
良いんじゃないか??
嗚呼 意識が朦朧としやがる。
「舞・・・」
舞がしゃがみこむ。
棗は背後のベットに寄りかかり、足を伸ばす。
しゃーないか…
「お願いがあんの。」
「うん、何個でも叶えてあげるから、何でも言って・・・」
コイツも俺がもう限界に近い事には気づいているだろう。
だから言えるうちに言おう。
「・・・ずっと笑ってて」
俺みたいに表情なくなんないように。
女なんだし、こんな馬鹿でも愛嬌があるように。
ずっと馬鹿みたいに
ずっとアホみたいに誰かと馬鹿話してろよ。
俺も御前と馬鹿話しときゃー良かったな。
「・・・わかったよ」
あぁ…安心した。
これで俺の本当の役目は終わった。
痛い
今頃になって無茶苦茶痛くなってきやがった。
畜生
ゲホッゴホッ
棗が咽る。
「棗、棗ぇぇぇっ・・・」
そんな謝るなって。
馬鹿かよ御前は。
まぁ馬鹿だから仕方ないなー。
バーカ
「俺は御前を守りたかっただけだから御前は悪くない」
分かんないけど
体が勝手に動いた。
何時の間にか体が仰向けになっていて
口が勝手に開いて
「愛してるよ」
俺は何時の間にか、勝手にそう呟いて
舞の姿最後に見れて良かった。
安心したよ
そんなこと思ってたら微笑む事が出来た。
んで
何時の間にか俺の右手は
舞の頭の上にあって
残りの力を振り絞って
口付けをしたんだよな
あー。良かった。
何か幸せだな
死ぬのに幸せって俺本当に脳ぶち壊れた??
なぁ神様??
見てんだろ??
何で人間をそう簡単に壊すの??
壊れやすいよな、人間て。
ものすごい細かい機械が入ってるのに。
ものすごい細かいプログラムが入っているのに。
御前が必死に作ったんだろ??何でそう簡単に壊すんだよ??
でも俺はこれでよかった。
もう生きていようとは思わない。
充分幸せだったから
俺の頭に残っているのは
愛しい舞の姿だった―
Really, it ended.
これで本当の終わりです。
今まで有難うございました。