求めて止まない恋
***BL*** イカロスの翼、、、知ってる?
ハッピーエンド
ギリシャ神話の「イカロスの翼」を知ってる?鳥の羽を蝋で固め、身体に付けて空を飛ぶんだ。もっと高く、もっと高くと太陽を目指す。太陽に手が届きそうになると、蝋が溶けて羽は剥がれ、イカロスは落下してしまう、、、そんな話し、、、。
僕は、彼が好きだった。
隣に住む、幼馴染。
小さい頃は知らなかった。
彼は所謂、御曹司。
でも、彼の母親も僕の母さんと変わらない、普通の人だった。
ただ、彼が僕の家に遊びに来る時は、彼の家の裏手にある、小さなボロボロの柵の間から出て来るものだから、僕はすっかり騙されていた。
僕が彼の家に遊びに行く事は無かった。いつも彼が僕の家に迎えに来て、夕方まで外で遊んでいたし、雨の日は僕の家で遊んでいた。
中学に上がる前に、彼は僕に
「海外に行くんだ、、、」
と言った。
その頃には、僕は彼が好きだった。
「高校卒業する頃、戻って来るから」
「大学はこっちなの?」
「うん、家から通える所にする。絶対」
小学校の卒業式の翌日には、彼は外国に行ってしまった。
彼がいなくなってから、僕は彼の引っ越し先の住所を聞けば良かったのにと、後悔した。
僕は、いつも彼が出入りしていた裏口の前に立つ。腰までの高さの柵の間から、彼はいつも出て来た。
今まで気付かなかったけど、此処って出入り口なのかな?
子供が一人、身体を横にして通れるだけの隙間。無理矢理幅を広げた様になっている。
待って、、、本当の入り口は何処?
僕は、彼の家に沿って歩く。暫く行くとどっしりとした塀が現れ、何処までも続いている。
塀に触れながら歩き、角を曲がる。
随分先に大きな門が有った。凄い豪邸だ、、、。
僕は門の前まで歩き、眺めた。表札には、黒くて艶々した文字で、彼の苗字が書いてあった。習字の太筆で書いた様な立派な文字。
僕の友達が大金持ちの子供だって、初めて知った。
*****
「え?あんた知らなかったの?」
と母さんがびっくりした。
「だって、貴志くんはいつも裏から出て来るし、、、」
「まぁ、そうね。御曹司って分かったら、あんた離れて行きそうだもんね」
「友達もみんな知ってたのかな?」
「知ってるんじゃない?幼稚園の頃は、貴志くんいじめられてたから」
「いじめられてたの?」
「やっかみよ、やっかみ。格好良くて、優しくて、勉強も運動も出来る。その上、お金持ちで、女の子はみんな貴志くんと結婚したがるから、男の子は気に入らなかったのよ。でも、貴志くんは気にしないし、皆んなに普通に接していたから、自然といじめも無くなったわよ」
、、、なんか想像出来るな、、、。
「あ、でも、一度だけ、幼稚園でキレた事が有ったわ。あんたがいじめられた時。あの時は凄かったらしいわよ」
「貴志くんが?」
「そうよ。あの頃から貴志くんは、あんたの事好きだったからねぇ。でも、その一回だけよ。貴志くんは、本当に手の掛からない良い子だったわ」
「貴志くんのお母さんも、一緒に外国に行ったんでしょ?」
「そうよ。一人では行かせられないからね」
「じゃあ、貴志くんの連絡先なんて分からないよね」
「、、、そうねぇ、、、」
**********
本当は、貴志くんの連絡先は聞いていた。だけど、貴志くんと美紗さんに、守には内緒にして欲しいとお願いされたのだ。
もし、守から連絡が有ったら、貴志くんは守に会いたくなってしまうから。
貴志くんは御曹司でも、次男だった。上に長男と長女がいる。
彼は、小学生の低学年の頃から守の事が好きで、ずっと両親を説得していた。まずは、美紗さんを懐柔したのだ。
彼女は小さな子供の戯言と思い、大きくなれば女の子と婚約するだろうと思っていた。でも、それは大きな間違いだった。
貴志くんは守しか見ていなかった。
低学年から塾に行き出した彼は、父親にも守と結婚したいと話したらしい。美紗さんが教えてくれた。
父親は、中学受験をして、国内で一番偏差値の高い大学に入れば好きにして良いと言った。
美紗さん同様、子供の戯言だと思ったのだ。
放課後、一時間だけ守と遊ぶと、彼は毎日塾に通った。成績は彼の頑張りで、全国でも3位以内に常に入っていたらしい。
有名中学も難しく無いだろうと言われ、5年生になる頃、婚約の話しが出た。勿論お相手も上流階級のお嬢様だった。
貴志くんは話しが違うと本気で怒ったらしい。
「今まで頑張って来たのは、守と一緒になる為だ、守と一緒になれないなら、もう二度と勉強はしない
っ!」
と荒れに荒れた。
父親は、仕方が無いと留学の話しを出した。六年間海外で勉強し、国内トップの大学に上位で入学するならと持ち掛けた。
つまり、六年離れれば、流石に気持ちも変わるだろうと言う事だ。
その頃には、美紗さんは貴志くんを応援していた。だから、海外に着いて行き、身の回りの世話を買って出たのだ。
守には淋しい思いをさせてしまうけれど、連絡先を教える訳には行かなかった。
**********
中学一年の秋、貴志くんのお母さんから写真が届いた。
誕生日の写真だった。
久しぶりに見る貴志くんはちょっと大人っぽく感じる。
会いたいなぁ、、、。
僕はずっと貴志くんの事ばかり考えていた。
毎日一緒にいたんだもん、もう、身体の一部みたいに仲良しだったのに、、、。
急に離れ離れになって、僕は毎日淋しかった。
会いたくて会いたくて、夢でも良いから出て来て欲しかった。
でも、貴志くんが夢に出て来る事は無かった。
*****
中学生になってから、悪い夢ばかり見る様になっていた。
そして、昨日の夢は一番怖かった。
僕に翼が生えて、天上を目指している。そこに、貴志くんがいるからだ。
それなのに、僕は貴志くんに会う事も出来ず、力尽きて落下する。思いっきり伸ばした腕は宙を切る。落ちている最中で身体がビクッ!と反応し、目が覚めた、、、。
貴志くんに会いたい、、、。
僕は毎晩淋しくて泣いた。
中学校では、みんな知り合いだったからまだ良かったけど、高校生になると知り合いが一人も居なかった。
中学で帰宅部だった僕は、当然高校でも帰宅部だった。
高校一年生も終わる頃、貴志くんを思い出す回数は少なくなっていた。
久し振りにあの夢を見る。落下する夢、、、。
夢の中で夢だと分かるのに、僕は天上に手を伸ばし続ける。
貴志くんっ!
夢の中で叫びながら、目が覚める。
貴志くんが帰って来るまで、後二年、、、
******
高校二年の冬前、、、。
大学受験が本格的に始まるのは、二年の夏からと言われている。
僕は、まぁまぁの成績で、、、なんて、嘘です。
中の下位の高校で、中の下位の成績です。
だから、受験勉強もみんなより早く始めないといけないのに、なかなか手に付かなかった。
こんな寒い日は、ふと貴志くんを思い出す。
今頃、何してるのかな、、、。
「只今、、、」
玄関に他所行きの靴が有った。保険屋さんでも来てるのかな?
僕はリビングに顔を出して挨拶をする。
「今晩は」
後ろ姿に声を掛け、自分の部屋に行こうとすると
「守っ?!」
とその人は振り向いた。
めちゃくちゃ格好良い、、、
「貴志くん?」
ガタガタと椅子を引き、僕に近寄る。身長が凄く伸びていた。
「守!只今っ!」
と言いながら抱き締める。
うーわ、、、めちゃ良い匂いする、、、
「会いたかった!」
よく見ると、大きなスーツケースが有った。
*****
母さんが僕の部屋に布団を敷いてくれる。
晩御飯を食べ、日本の小さなお風呂に入ると、貴志くんは嬉しそうに僕のベッドに座った。
「僕もお風呂入って来るよ」
そう言うと、彼はにっこり笑った。
変なの、ずっと会えなくて、声も姿も違うのに、貴志くんは昔のままみたいだった。時間がグンっ!と巻き戻ったみたいで不思議だ。
お風呂に入りながら「でも、帰って来るの早く無い?」と考えた。
髪をタオルで擦りながら部屋に戻ると、貴志くんは僕のベッドで寝ている。
聞きたい事や話したい事がいっぱい有ったのに、、、。
貴志くんの髪はまだ、濡れていた。ドライヤーの場所を教えなかったから、タオルで拭いただけだった。
「貴志くん、髪、乾かすよ」
「ん、、、」
と言って、身体を起こす。
「下に座って」
寝惚けながら移動した。僕はドライヤーを準備して、ベッドに座り彼の髪を乾かした。
僕と同じシャンプーの匂い、、、
髪の芯まで乾かして
「はい、お終い」
と言うと、彼はモソモソとベッドに上がる。僕と壁の間に横たわりウトウトし始めた。
僕は自分の髪を乾かす。
ふと、彼が御曹司だと言う事を思い出した。
昔と全然変わらないのに、、、そう思った途端、彼の存在が遠くなる。
*****
太陽に手を伸ばしたイカロス。
欲しい物が手に入らず、落ちて行く、、、。
僕はイカロスみたいだ。貴志くんが好きで好きで堪らないのに、彼は手に入らない、、、。
そもそも男同士だし、、、。
横で眠る彼の寝顔を見る。綺麗な顔だな、、、。
一年早く帰って来たのは、何でだろう、、、。お見合いでも有るのかな?
*****
貴志くんに僕のベッドを取られてしまったから、僕は床に敷いた布団で寝た。
それなのに、いつの間にか貴志くんは僕の横で寝ていた。、、、て、言うかさ、抱き締められてるんだけど、、、。
背が伸びた貴志くんは重たい。何とか、彼の腕から抜け出そうとしてもダメだった。
「お早う」
と嬉しそうに言われた。、、、困る。
「ねぇ、昨日家に帰って無いの?日本に帰って来るの早かったね」
「うん、早く帰りたくて頑張った。守に会いたくて、空港から直接来たんだ」
「大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。早く会いたくて、一番に此処に来たかったから」
本当かな?
その割には一度も連絡してくれなかった、、、
貴志くんは、僕を抱き締めたまま、僕の匂いを嗅ぐ。
布団が狭くて落ちそうだよ。
「あれ?そう言えば、ベッドで寝てたよね?」
「うん、夜中に移動した」
??? 何で?
「貴志くん、来年帰って来る予定じゃ無かった?」
「頑張って飛級して卒業したから」
「飛級っ?!」
「一日でも早く帰って来たかった、、、」
貴志くんが凄くて、遠くに感じた。
**********
俺が早く帰って来たら、守は喜んでくれると思ったのに、少し違った。
「守、嬉しく無い?」
え、、、真逆と思うけど
「彼女いる、、、とか?」
「僕に彼女なんて出来ないよ」
「どうして?」
守は優しいから、俺が女ならすぐ付き合うよ?
「だって、貴志くんみたいに格好良く無い、、、」
「守は可愛いよ?」
「可愛いって、、、」
「今日の予定は?」
「特に何も」
「じゃあ、俺と一緒に実家に行って!」
「 ? 良いけど?」
「やった!」
俺達は、守の家で朝食を食べてから実家に帰った。
*****
荷物を引きながら、表門から入る。守が緊張していた。俺がそっと手を繋ぐと
「貴志くんの家、初めて入る、、、」
と呟いた。
「大きくて、立派だね、、、」
笑顔が少し歪む。
玄関で荷物を預けると、先に帰宅していた母さんが出迎えてくれた。
「父さんは?」
「お部屋にいらっしゃるわ」
「有難う」
「貴志、頑張って」
俺は守の手を握って、父さんの部屋に行く。
ノックをして返事を待つ。扉の向こうからくぐもった声が聞こえた。
扉を開けて
「只今帰りました」
と部屋に入る。父さんは守を見た。
「まだ、諦めて無いのか、、、」
ため息を吐いた。
「約束、、、守って下さい」
「、、、検討する」
「、、、俺は言われた通り、海外で勉強して来ました。飛級をして、6年の所を5年で帰って来たんだ。約束は守って下さい」
「大学は?」
「自信があります」
「そうか、、、。最後の結果を見てから返事をする」
そう言って、父さんは手元の書類を眺めた。
「お願いします」
と頭を下げて部屋を出る。
扉を閉めると、自分も緊張していた事に気が付いた。隣を見ると守が真っ青な顔をしている。
「守?」
廊下を歩きながら声を掛けると
「ごめん、、、緊張し過ぎて、、、」
と立っていられない様だった。
「俺の部屋に行こう、、、」
「足が、、、」
そう言うと、その場に座り込んでしまった。
「ごめん、ちょっとだけ」
と俯く。
「守、肩に手を回して」
俺は彼を抱き抱えた。
「ちゃんと食べてる?軽過ぎるよ」
気分が悪いのか、俺に寄り掛かりながら目を閉じている。
俺の部屋に行く途中、使用人に声を掛けた。
「悪いけど、部屋にお茶を、、、ホットココアとかある?」
「はい」
「じゃあ、それを」
「畏まりました」
*****
守をベッドに下ろす。
「大丈夫?」
「うん、、、。何か、色々凄くて、びっくりしちゃった、、、」
「守、、、一緒に暮らさない?」
「え?」
扉を叩く音がした。
俺は扉を開けて、トレーを受け取る。
「有難う」
と笑うと、若い使用人は頬を染めた。
「失礼致します」
と扉を閉める。
「守、ココア」
とベッド横のボードに置く。
「美味しそう、、、」
ココアを手に取ると、ゆっくり口を付けた。
「ふふ、、、高級な味がする、、、」
「高級な味って、、、」
「僕さ、貴志くんがこんなにお金持ちって知らなかったんだ、、、。貴志くんの部屋も凄く広いし、お手伝いさんもいるし、、、。僕とは住む世界が違うんだね、、、」
「、、、嫌になった?」
「違う、、、そうじゃ無くて、、、貴志くんが遠く感じるだけ」
「離れてたから?」
「、、、小学校の卒業式の後、貴志くんの家がお金持ちだって知った」
「、、、え、、、」
「それまで、僕は貴志くんの家がこんなに大きいって知らなかったんだよ、、、」
「ごめん」
「、、、貴志くんが海外に行って、全然連絡が取れなくて、偶にお母さんから写真が送られて来たけど、住所が書いて無いから連絡出来なかった、、、。僕はずっと貴志くんに会いたかったけど、貴志くんは違うのかな?って考えたりさ、、、。やっぱり、僕とは住む世界が違うんだって、諦めようとしたり、、、」
「俺、、、守の事、好きなんだ。子供の頃からずっと、、、。それで、父さんに守と結婚したいって言ったんだ。そうしたら、いっぱい勉強して良い大学に入ったら、結婚しても良いって言われた」
「結婚?」
「そう。でも、父さんは信じていなかった。小学校高学年頃、婚約の話が出たんだ。俺は約束が違うと怒った。今まで頑張って来たのに、意味が無いと思ったら、何もかもがどうでも良くなって、暴れたんだよ、、、」
「貴志くんが?」
「、、、うん。そうしたら、海外に留学して国内で一番良い大学に、優秀な成績で入学すれば認めるって言われて」
「それで海外に行ったの?」
「守の母さんには、俺達の連絡先を教えないでくれって頼んだ。、、、だって、そうでもしないと決心が鈍って、守と一緒にいられなくなるから、、、」
「だから、さっき約束って言ってたんだ」
「そう、、、後は、受験して結果を出すだけ」
「、、、やっぱり貴志くんは凄いよ、、、僕なんかじゃ、、、」
「守、、、」
「ずっと不安だったんだ。僕じゃ不釣り合いだなって、、、。僕は小学生の頃から、何にも変わらないのに、写真の中の貴志くんはどんどん大人になって行く。昔から格好良くて、勉強も運動も良く出来たし、女の子にもモテたでしょ?しかも、お家も大きい。僕が貴志くんに追い付きたくても、君は遠くに行ってしまうから、、、」
「じゃ、俺と結婚してくれる?」
「あ、、、」
「ん?」
「か、、、考えさせて、、、」
**********
ごめん、貴志くん、、、。話しが急展開しすぎて、つい「考えさせて」って言っちゃった、、、。
だって、ずっと会って無かったのに、いきなり結婚って、、、。まずは、お付き合いからじゃ無いの?
「守は、俺の事嫌いなの?」
「嫌いじゃ無いよ?」
「じゃあ、好き?」
「す、、、す、す、す、、、」
顔が赤くなって行くのが分かる。
貴志くんは、ココアを飲み干してカップをボードに置くと、僕の隣りに腰掛けた。
ベッドがギシ、、、と音を立てる。
僕の手からもカップを取り、ボードに置いた。
「ねぇ、、、嫌いじゃ無いなら、好き?」
えええぇ、、、
「キスしたら分かるんじゃない?」
「キッ!、、、」
キスぅ〜、、、?!
「、、、するよ、、、」
と言って、僕の頬に触れる。
「嫌なら、ちゃんと拒んで、、、」
待っ、、、て、顔が、、、近、、、。フワッと唇が触れた。僕はつい瞳を閉じてしまった。
一度唇が離れる。
もう一度触れた、、、。
両手で頬を包みながら、キスをする、、、柔らかい舌が、僕の唇を舐める。
頭がフワフワする、、、。
貴志くんが離れて僕の顔を見た。
「嫌なら拒んでって言ったでしょ?」
「あ、、、」
「とろんとした顔で、、、もっと欲しいの?」
と言いながら近付いて来た。
貴志くんはキスも上手なんだ、、、。
ん、、、?キスが上手?
「待って!貴志くん、何でこんなにキスが上手いのっ?!」
思わず両手で彼を押してしまった。
「え?」
「向こうで彼女がいたとか?、、、いてもおかしく無いか、貴志くんは昔からモテたもん、、、」
「守?」
「彼女いたなら!」
「いないって!」
「、、、」
「いる訳ないでしょ?守と一緒にいる為に頑張ってたんだよ?そんな時間無かったよ、、、」
「本当に?」
「不安になる程、気持ち良かった?」
ぐっ、、、ぐぬぬ、、、
「キスが気持ち良いって事は、守も俺の事、好きな筈だけど?」
そう言って、頬にキスして押し倒された。
**********
当然の様に俺は、好成績で国内一の大学に入学した。飛級したお陰で、守とは学年が違ってしまったけど、一年位大丈夫。
父さんは渋々認めてくれた。
守とはまだ結婚して無いけど、、、。
「守さ、、、大学行きたいの?」
「え、、、」
守は勉強が苦手みたいなんだよな、、、
「無理して大学行かなくてもさ、俺が卒業したら結婚するんだし、、、」
「でも、、、貴志くんも進学したし、、、周りもみんな進学なんだ、、、僕だけ高卒だとやっぱりさ、、、」
んー、、、同じ大学は無理だし、、、。出来れば、俺に永久就職してくれた方が嬉しいんだけど。
「俺が勉強見ようか?」
「え、、、。でも、貴志くんだって大学始まったら忙しいでしょ?」
「バイトしてる訳でも無いし、夜は時間があるよ」
「、、、考えてみるよ、、、」
**********
貴志くんに勉強を見てもらう様になり、僕は益々自信を無くす。
どうしてこんなに違うんだろう、、、。
同じ歳なのに、彼は飛級しちゃうし、大学だって都内の一番良い大学に入学した。
貴志くんは僕の何処が好きなんだろう。
「守?」
「あ、、、うん、、、」
貴志くんからしたら、僕の勉強なんて小学生の宿題みたいに見えるのかな?
分からない所があっても、「こんな所も分からないの?」と言われるのが怖くて聞けない、、、。
模試の結果も恥ずかしくて、見せたく無い。
四月に、貴志くんの入学式があった。朝、連絡が来て、一緒に写真を撮ろうと言われた。
入学式の為に着たスーツとコートが良く似合っている。
それに比べて僕はと言えば、お洒落のセンスが全く無い子供みたいだった、、、。
ボロボロのスニーカーにジーンズ。シャツの上にトレーナー、、、。
僕は、貴志くんに相応しく無いんじゃないかと思い始めていた。
模試の結果は、相変わらず良く無い。折角貴志くんに教わっているのに、、、。こんな結果、恥ずかしくて見せられないよ。
「そろそろ、模試の結果出たんじゃ無い?」
と言われて、僕の機嫌は悪くなった。
「守?どうしたの?」
優しく言われると、尚更いじけてしまう。
僕の頬にそっと触れ様とする。思わず身体を引いて避けてしまった。
貴志くんの手が、宙で止まる。
「、、、自信が無いんだ、、、」
「うん」
「、、、あんまり勉強は得意じゃ無いし、好きでも無い、、、。やり方も分からないし、、、」
「結果を見られたく無い?」
僕は頷いた。
「見ないと対策も練れないし、、、守の目の前では見ないよ。それなら良い?」
「、、、うん」
僕は鞄の中から模試の結果を出して渡す。
「まだ、3年生になったばかりだから、間に合うよ。大丈夫、、、」
その晩、僕はまた、落下する夢を見た。
*****
待って、貴志くん!行かないで!
夢の中の僕は必死に彼を追う。彼はどんどん空高く行ってしまう。
一所懸命羽を動かし追い掛ける。でも、彼との距離は離れて行くんだ。
お願いっ!置いて行かないで!
思いっきり手を伸ばすけれど、彼の姿は見えない。
落下する僕
ドスンッ!
ベッドの上で、足が弾けて落ちた。
**********
ふーん、現国は得意なんだ。古文漢文は苦手。理科は、まぁまぁ良い。社会は苦手かな?数学と英語は壊滅的、、、。
さて、、、何処から手を付けようか、、、。
*****
「デート?」
「うん、買い物に行きたいんだ」
そう言って、守を本屋に連れて来た。
「こっちとこっち、どっちが好き?」
まずは、英語の参考書と問題集を選ぶ。あんまり簡単過ぎても、難し過ぎてもダメだ。
俺達は時間を掛けて参考書を探す。
「社会は日本史と世界史どっちが好き?」
「どっちも苦手、、、」
そりゃあ、そうだろう、、、。
「どちらかと言えば、どっちが得意?」
「うーん、日本史かな、、、。カタカナの名前とか、見てるだけで覚えるの大変そう」
「じゃ、日本史ね」
「うん、3年生で日本史選択してるから、そっちにする」
「、、、?、、、もしかして、学校で選択科目、他にもある?」
「あるよ。三年生からは文系と理系に分かれるから」
「じゃあ、守が選択した科目教えて」
半日掛けて、じっくり参考書を選んだ。
「ねぇ、こんなに買うの?」
「必要だからね」
「、、、僕、お金持って無い、、、」
一冊一冊値段を見て言う。
「全部で15000円は超えちゃう。英単語しか買えないよ」
「大丈夫。俺が買う」
「でも、、、」
「勉強道具は、買いたいと思った時に買わないと、いざ必要って時に手元に無いと、やる気が遠退いちゃうからね。プレゼントする」
あー、でも、プレッシャーに感じるかな?
「、、、母さんに後でお金貰うよ」
「、、、じゃあ、俺が買って、守に貸すって言うのは如何?」
「貴志くんには必要無いのに?」
「守が使ったと思ったら、嬉しいけど」
「、、、有難う。大事に使う」
「ふふ、ボロボロになった方が良いけど」
二人でレジに向かった。
結構重たいな、これを持ってデートするのは大変だ、、、。
「荷物、預けようか?」
「預ける?」
「コインロッカーあるよ」
「そうなの?」
「無料で借りれるから」
「へぇ、凄いね」
俺達は荷物をロッカーに入れた。コインロッカーは、100円入れて荷物を預けられる。帰る時に鍵を開けると、100円戻って来る方法だった。
昼飯を食って、午後はゆっくりデートをする。色々な店を二人で回る。
「車の免許取ろうかな、、、」
「車?」
「守も受験勉強してるし、免許あったら二人で遠出も出来るし」
「本気?」
「うん」
いつから教習所に通えるか、調べてみた。
「あ、俺、もう免許取れるんだ、、、。どう思う?」
「格好良いと思う」
「そっか」
格好良いんだ、、、。何だか嬉しい。
**********
僕の成績はなかなか上がらない。周りの皆んなも頑張っているんだから、当然の結果だった。
「大丈夫だよ」
貴志くんが言う。
「守の中で、色々蓄積されているから」
通学の時間はひたすら英単語を覚えた。学校の休み時間も、出来るだけ暗記をメインにやる。覚える事は沢山あった。理科、社会、古文漢文。少しでも飽きたと思ったら教科を変える。
夏休み過ぎても成績は上がらず、たまに勉強が嫌になった。それでも、コツコツ頑張って来た時間を無駄にしたくなくて、ため息を吐きながら単語を覚える。
夏休みには、貴志くんが免許を取り、車で買い物に行った。
参考書が足りなくて、新しいのを買いたかった。
前もって母さんからお金を預かり、20000円を持って行く。
「領収書、貰って来てね」
と言われて
「領収書って、レシート?」
と聞くと
「ま、それでも良いけど」
笑われた。
英語の長文が苦手だったのに、最近、急に文章を
読める様になって来た。知ってる単語が増える度に、楽しくなり、長文読解の問題集が欲しくなった。
貴志くんに話すと、自分の事みたいに喜んでくれる。
「後は、もうちょっと早く読める様になりたいんだ、問題を解くのに時間が掛かり過ぎているから」
僕が貴志くんを見上げながら言うと、優しく微笑んだ。
*****
大学受験は、やっぱりもっと早く始めれば良かった。何校も受験したのに、一校しか受からなかったんだ。でも、都内の大学に合格する事が出来て、何とか大学生になれる。
大学に入学して、落ち着いた頃。貴志くんが家に呼んでくれた。
夕方駅で待ち合わせをして、コンビニで買い物をする。
「え?都内に住む?」
「そ、二人で」
「な、何で?」
「通勤ラッシュ、守には辛いだろ?」
確かに、高校は下り方面に乗っていたから楽だった分、朝の上りの通勤ラッシュは辛い。
「この間、電車の中で気分悪くなった時は、最悪だったけど、、、」
「 ? そんな事有ったの?」
「ん?うん、一度ね」
「やっぱり都内に住もう、、、」
「ラッシュが避けられるなら有難いけど、、、」
「もし、守が痴漢にでも有ったら困るし」
貴志くんがあり得ない事を言い出した。
「僕が痴漢に会う訳無いでしょ?それより家賃とかどれ位掛かるかな、、、」
「如何して会わないって言えるんだよ。満員電車なんだぞ?女の子と勘違いされるかも知れないだろ?」
「勘違いって、、、」
「絶対無いとは言い切れない」
貴志くんの家に着くと、そのまま彼の部屋に行く。玄関で使用人に
「9時に食事を摂るから」
と声を掛けていた。
2階の一番奥の部屋が彼の部屋。
扉を開けて
「どうぞ」
と言われると、癖で
「お邪魔します」
と言ってしまう。
グイッと腕を引かれ、びっくりしている間に壁が目の前にあった。
「ね、満員電車って身動き出来ないでしょ?」
彼が僕の背後から、身体を押し付ける。
「貴志くん?」
壁と彼の身体に圧迫されて苦しい、、、。
背の高い彼は、僕を挟む様にして、壁に両手を付いた。
え?逃げられない、、、しゃがむ?無理だ、脚の間に片足を差し込まれた。
「な、何してるの?」
「満員電車ごっこ、、、」
と言って僕の頭に頬を擦り付ける。
「耳、赤いね」
と言って、カプリと口に含む。
「ちょっ!、、、と」
壁に付いていた手が、そっと僕の身体を撫でる。ダメだ、身体がモゾモゾしちゃう。
「アイスッ!アイス溶けちゃうよ?!」
ピクリと反応して、彼は僕の髪にキスをする。
「、、、アイスなんて、買わなければ良かった」
と言いながら身体を離す。
ベッド横のボードに買い物袋を置き、アイスを取り出す。
「はい」
と渡され、ベッドに腰掛けた。貴志くんも自分のアイスを取り出してゴミを捨てる。
「ゴミ、頂戴」
僕のゴミも捨てて貰った。少し溶け始めている。ソフトクリームの表面を舐める。
さっきの事を思い出して、ちょっと恥ずかしくなった。
「ね、キスしたい」
「え?今?」
「だって、守のアイスの食べ方、エロいんだもん」
「 ? 」
ん?エロい?
貴志くんの顔が近付いて来る。あ、、、と思った瞬間、そっと口を割って舌が入って来た。
アイスで冷たくなっている。
不安定な体勢のまま、彼はキスをする。身体を支えたいのに、右手にアイスを持っているから、キスがし辛い。彼はそっと僕から離れると
「続きは食べ終わってから」
と笑った。口に出されて言われると、凄く恥ずかしいから辞めて欲しい、、、。それなのに、期待してしまう自分。
彼は棒アイスを食べ終わると、ゴミを捨てて僕を待つ。食べ辛い、、、。
チュッ、と頬にキスをされた。
「早く」
と言う。早く食べろって事?
もう一度頬にキスをされそうになり、身構えた。
ペロ
と頬を舐める。最後の一口を食べると彼は
「守、、、」
と名前を呼んで僕を押し倒した。
ドアをノックする音。
「貴志様、お食事の支度が整いました」
「分かった」
と言うと、彼は残念そうに僕にのし掛かり、体重を預けて
「タイミング悪、、、」
と呟いた。
*****
夏前に都内に引っ越した。
家は貴志くんの家が持っていたマンション。
家賃も光熱費も心配ない。
貴志くんは自転車を買い、大学まで自転車で通う。
僕は数駅だけ電車。凄く有り難かった。
そう言えば、よく見ていた落下する夢。最近は見なくなったな、、、。
「守?」
ベッドの中で、名前を呼ばれる。
「何?」
「良かった、、、いた、、、」
「如何したの?」
「偶に、守がいるか心配になる」
と言いながら、僕を後ろから抱き締めた腕に力を込める。
「急に海外に引っ越した時、、、毎晩不安だった、、、」
少し、呼吸がゆっくりだ。半分寝てるのかな?
「守が俺から離れて行ったら如何しよう、、、とか、、、」
僕の匂いを嗅いでる、、、
「好きな人が出来たり、恋人が居たら如何しようって、、、不安だった、、、」
僕は向きを変えて、貴志くんに抱き付く
「本当はずっと一緒に居たかったから、淋しかったよ、、、」
貴志くんの香りは、凄く気持ち良い、、、。僕は、彼の頬にキスをした。
「守、、、大好き、、、愛してるから、、、」
「僕も、貴志、、、の事、、、愛してる」
彼の顔をそっと見たら、嬉しそうに微笑んでいた。
僕が淋しかった時、彼もずっと淋しかったのかな、、、?そう思うとちょっと嬉しかった。
空飛ぶ夢、見たいです




