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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

満月の日ノベル

「君を愛するつもりはない」と言った夫が心変わりをしまして

掲載日:2026/05/03

お読みいただきありがとうございます。


救いのない話です。閲覧は自己責任でお願いします。

 仲の悪い家があった。お互い侯爵家という国の中枢を担う立場でありながらいがみ合っていて、痺れを切らしたのは王家だった。

 だから、お互いの家の今年十八歳になる子どもたちを強制的に結婚させることにさせた。


 私――シェリルにとって最大の不幸は、女であるがゆえに向こうの家への嫁入りを命じられたことだった。

 なにが両家の安寧だと鼻で笑う。敵の巣窟に一人で向かわねばならない方が、圧倒的に不利であろうに。


 両親と義兄は酷く憤り悲しんでくれた。特に小さい頃から私に甘く優しい義兄は、王家に対し不敬となることをブツブツ呟いていたくらいだ。


 嫁いだ日。私と夫となった人の住居は離れにあった。義母が私が本館にいるのを嫌がったらしい。

 嫌で嫌で仕方ないのに夫を部屋で粛々と待つ私の姿を、彼は嘲笑した。そんなに自分に媚びたいのかと。


「良いか、君を愛するつもりはない。王命なため断れなかったが、この結婚は満三年をもって終わらせる」

「はい、かしこまりました」

 

 安心した。白い結婚なら三年もすれば正式に離婚できるが、彼も同じ意見かは分からなかったから。

 

「おい、ここにサインしろ」

「はい」

 用意周到なことに、私に三年後ゴネられるとでも思ったのか離婚届を差し出してきた。彼のサインはもう入っている。


 私はサラサラとサインをしてから、ふと思いついた。


「もう一枚書きませんか? それでお互いで管理するんです」

「……ふん、まぁ別に構わないが」


 一枚は彼の下に。もう一枚は私の下に。二枚の離婚届を二人は分け合った。

 私はニコと人好きのする笑みを浮かべる。


「不束者ですが、よろしくお願いしますね」


 ペンダントの中身を使わなくて済んだのは僥倖だった。


 美しい顔で微笑めば、彼が目を眇めた。


◇◇◇


 朝。夫がすでにいない冷たい布団を撫でていれば、侍女が一人やって来る。

 顔を洗うために桶に張られた水に指を入れれば冷たく、春で良かったと素知らぬ顔で使った。


「シェリル様。そのような華美な服装、セフラン家の品位を損ないます。こちらのドレスを」


 家から持ってきたドレスは却下され、真っ黒なドレスを提示された。

 大人しく微笑む。


「えぇ、わかったわ。私が恥をかかぬよう慮ってくれたのね。ありがとう」


 陰りのない笑みに狼狽えたのは侍女の方だった。


「……い、いえ」


 ぞんざいな口を叩きながらも、手つきは柔らかく髪に通す櫛は痛くない。


「ありがとう。そう言えば、貴女の名前は?」

「エレナです」

「そう、エレナね。覚えたわ」


 仲良くなれそうだと思った。



 黒い服に着替えた私は食堂へ向かう。そこには彼の姿はなく、私のご飯と思しきものがひっそり並んでいた。

 パンとスープに顔を綻ばせる。


「旦那様はお忙しい方ですので、別々にとのことでした」

「残念ね。けど分かったわ」


 席につき早速いただく。使用人たちは、時折私を皮肉るように笑いながら壁際に立っている。

 

 そんなことを気にせずスープを一匙すくって飲めば、口の中に広がる美味しいコンソメの味に舌鼓を打った。


「……あら、とっても美味しいわ。お野菜もよく煮込まれていて、苦労して作ってくれたのね。……エレナ、後でシェフの皆様にお礼を言って貰えるかしら? ほら、私が急に行ったら驚かせてしまうから」

「かしこまりました」


 気づけば食堂は静けさに包まれていた。


 私はニコニコと食べ続け、完食し部屋へと帰る。


 そして部屋に帰れば、エレナに使用人たちの名前や趣味嗜好をまとめたリストを作ってほしいとお願いした。

 彼女の顔にピリリと緊張が走る。


「……一体なにに使うのですか?」

「普通に名前を覚えたいのよ。この屋敷で暮らしていく中で、名前を知らないと不便でしょう?」


 小首を傾げれば、彼女の緊張はふっと解けた。

 粛々と頭を垂れる。


「かしこまりました、三日ほど時間をください」

「あらあら、沢山の使用人の方がいるのに三日で良いの? エレナは仕事が早いのね」

「勿体なきお言葉です」


 エレナはそれから一日でリストを作ってきた。



 朝起きてぬるま湯で顔を洗い、エレナとあの日以来増えた侍女たちに支度を手伝ってもらう。

 一人で朝ごはんを美味しい美味しいと食べれば、そこからは自由時間。


 屋敷の中を散歩して、使用人に挨拶をする。

 最初は義務的だった使用人も、名前を呼びながら挨拶をすれば笑みを浮かべて心からの挨拶を返してくれるようになった。


「――あら、マックス。一人でその荷物は大変よ、貸してちょうだい」

 この屋敷で一番高齢の執事が何冊もの本を抱えながらふらふらと歩いている。

 思わず手を貸そうとすれば、あっという間にエレナたちに仕事を取られてしまった。


 行き場の失った手を胸に当て、私は頬を少しだけ膨らませる。


「もう、皆で本を全部取ってしまうなんて」

「こんな重いものを持たせる訳には行きませんから。少しここでお待ちいただけますか? 図書室に置いてきますから」

「えぇ、ありがとう」


 マックスと二人きりになれば、彼は目を細めた。


「旦那様は本当に良い方を奥様に貰われましたね。私は嬉しいですよ」

「本当? そう言ってもらえると嬉しいわ」


 こんな風に、使用人の皆と仲を深めていくのにさしたる時間はかからなかった。

 

 嫁いでから一週間経って、ご飯が豪華になっていた。

 柔らかく焼かれた鴨のローストにはオレンジソースがかけられ、パンは籠に山盛りになっている。スープは湯気を立てていて、その他にも沢山の料理が広いテーブルを埋め尽くさん勢いで並んでいた。

 困ってしまった。頬に手を当てる。


「エレナ、その、これはどうしたのかしら? いつもので良かったのだけれど……」

「毎日美味しいとご飯をお食べになる奥様を見て、シェフが張り切りすぎたのです。どうか、お好きなものをお好きな量だけお食べください」


 私を奥様と呼ぶようになったエレナが、でもだってと言う私に首を振る。

 そう言われても、これだけの料理なんて食べ切れない。うーんと悩んでから、私は手を叩いた。


「そうだわ、だったら皆で食べましょう? 屋敷の人を全員呼んで」

「……っ奥様、私たちが奥様と食卓を一緒に囲むなど許されません」

「私が許すわ。それに、一人で食べるのは寂しいのよ。ね、お願い」


 上目遣いにお願いすれば、最初に白旗を上げたのはエレナだった。

 離れで働く使用人と、全員座れるだけの椅子を集めてテーブルにつく。大きなテーブルに丁度収まって、私は賑やかな雰囲気にふふっと笑った。


 久し振りのお喋りしながらの食事はとても楽しかった。

 最近の流行りなんかを教えてもらえば新鮮な発見があり、聞く度に胸が躍る。

 ニコニコ。パンを一口に千切ってから食べていれば、隣に座っていたエレナが突然立ち上がり、頭を下げた。


「あの、エレナどうしたの?」

「――奥様、嫁がれてからの間、大変失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」

「そんなの気にしてないわ、頭を上げて」


 あわあわと困惑していれば、他の使用人もエレナに倣うように立ち頭を下げた。


「「「私たちも申し訳ありませんでした」」」

「もぉ、良いって言ってるでしょう? それに皆さん最初からずっと優しかったわ。私を温かく受け入れてくれてありがとう」

 皆の目にじわりと涙が滲む。


 きっと彼らは義母たちになにか言われていただけに過ぎないのだろう。だって夫と妻の家がいがみ合っていたとして、彼らには関係のない話なのだから。

 だからこそこうして、すぐに私に敬意を払ってくれる。とても仕事に熱心な人たちなのだ。


「これからもよろしくね」

「「「はい、奥様!」」」


 声を揃えて頷く彼らに胸が温かくなった。



 翌日、いつもより丹念に髪を解かされ着飾られて、私は戸惑いながらエレナたちを見上げた。


「エレナ、フィレネー、クロル。どうしたの? 私はいつもの服の方が良かったのだけど……」

「いえいえ、よくお似合いですよ奥様」

「そうですよ」


 ニマーとする三人に目を瞬かせていたが、食堂にいき謎が解けた。

 夫が席についていたのだ。


「使用人たちに君と一緒にご飯を食べろと何度もせっつかれたんだ、使用人ごときが鬱陶しい」


 不満そうに告げるが、来てくれただけで嬉しい。


「まぁ、そうなのですね。とっても嬉しいですわ、旦那様」


 花が綻ぶように笑えば、暫し見つめられた後ふんと顔を背けられる。


 食卓の中央には、キッシュがホールで並んでいた。


「キッシュ……! 昨日シェフのハリスにお願いしたのです、大好きだから食べたいと。一日で作ってくれるなんて、嬉しい」


 夫は目を見開いた。政敵であるはずの妻が屈託なく笑うものだから驚いてしまったのかもしれない、慌てて口元に手を当てる。


「お前はキッシュが好きなのか?」

「あ、はい……。とても好きです。すみません、子どものようにはしゃいでしまいました」

「ふん」


 それ以降会話はなかった。けれど不思議と居心地は悪くない。


 それから彼は毎朝来た。


 朝食の時間は私がほぼ話し、彼は時折相槌を打つだけだった。

 しかし今日の彼は自ら話を切り出した。


「その、宝石は好きか?」

「はい、きれいなものは好きです」

「そ、そうか……」


 一週間経って、ドレス一式と装飾品が届けられた。

 侍女がキャーと歓声を上げる。


「とっても美しいですね、奥様!」

「そうね、素敵だわ」


 緑色のドレスに、ふと夫の瞳を想起した。


 最近では三食全てを共にしている。食事の時間、夫の頬は少し赤くなっていた。


「とても素敵なドレスをありがとうございます」

「喜んでもらえたなら良かった。……今度、そのドレスで一緒に夜会に行かないか?」

「嬉しいですわ」


 当日。ドレスに身を包んだ私に夫は何度も「綺麗だ」と囁いた。

 夜会に出れば、ピッタリと寄り添う私たちに周囲の貴族たちも安心した様子だった。


「今まですまなかった。愛しているシェリル」

「……旦那様。嬉しい、ありがとうございます」


 ドロリとした甘い言葉に私は頬を染め恥じらった。



 義母が私に嫌味を言ってきた日があった。

 だが丁度私と一緒にお茶を飲んでいた夫が毅然とした態度で言い返し、侍女たちも私を守ってくれた。


 それから義母と義父との住まいを反対にすることになり、私たちは本館に住まいを移した。

 本館で私は微笑みながら皆に接した。


 ――夫と使用人に愛されながら、結婚は三年目を迎えようとしていた。


 私は荷物を纏める。その横でエレナやクロルがおろおろとしていた。


「奥様、本当に離縁されてしまうのですか?」

「寂しいですよぉ」

「ごめんなさいね。でもそういう契約だから」

「もう、旦那様ったら!」


 感情を顕にし怒る彼女たちに眉尻を下げていれば、彼女たちも口をつぐんだ。


「奥様。私たちは奥様の幸せを願っております」

「……ありがとう。この屋敷での日々はとても楽しかったわ」


 心からのお礼を言う。

 我が家から結婚した時に持ってきていた服に身を包む。胸元をボタンで留めた可愛らしい花柄のドレスは私の門出を祝ってくれているようだとも思った。

 鞄に離婚届を入れる。外で待ってもらっている馬車に届けを提出する教会に寄ってから我が家に帰るつもりだ。


 準備が終わったところで夫が呼んでいると執事に言われた。

 彼の執務室に行けば出迎えられる。溢れんばかりの笑みで歓迎された後、そっと腰に手を添えられる。


「シェリル」

「なんでしょうか、旦那様?」

 問えば彼はくっと眉根を寄せた。


「本当に家を出ていくのか……?」

「はい。良くしていただき本当にありがとうございました」


 ペコリと頭を下げる。


「なんで……君が好きなんだ! 出て行かないでくれ!」

「でも……こうして離婚届は書いてしまいましたし……」

「俺はもう燃やした。シェリルも今ここで破り捨ててくれ」


 その圧が怖くて半歩後ろに下がれば、彼の顔からスコンと表情が抜け落ちた。


「……君がそう言うつもりならしょうがない。嫌だと泣いても家に縛り付けてやる」

「や、やめてください……っ」


 抱き上げられ、執務室の隣にある仮眠室のベッドに降ろされる。

 そのまま彼の手が私の胸元に伸ばされた。


 ブチブチッ


 シャツを左右に引っ張られ、ボタンが飛んだ。下着が覗く。

 悲鳴を上げながらやめてくださいと懇願する。


「はは、は……君は俺が何度誘っても頷いてくれず、何度口惜しい想いをしたことか……」


 彼がどんどん迫ってくる。


「いや、いや……。やめて――!」


 叫びながら私は、冷静にペンダントの中身を取り出し彼に投げつけた。すぐにハンカチで口を覆う。

 コツンと小さな玉が額に当たり不思議そうにした後、彼はその玉から吐き出された煙を吸ってすぐにベッドの上に突っ伏した。


「……はぁ、気持ち悪かった」


 彼がしっかりと眠ったことを確認してから、私は胸元が開いているのをわざと閉めず、鞄を持って外に出た。

 涙をはらはら流しながら、怯えきったように走って一直線に馬車に乗り込む。


 急に乗ってきた私にマックスは目を見開いてから、痛ましい姿に瞬時に顔を険しくさせた。

 自身の上着を私にかけてくれる。


「奥様……! どうなさったのでしょうか?」

「だ、旦那様に最後のご挨拶をと思ったら……急にベッドまで連れて行かれて……」


 マックスは私を置いてエレナたちを呼びに行った。


「奥様になんてことを!」

 マックスに道すがら事情を聞いていたのか、大きなカーディガンを着せてくれた彼女たちは目をつり上げている。


「今すぐ抗議をしにいかねば! それに奥様の服も変えませんと……」

 

 拳を握り締める彼女を、顔をふるふると振りながら止めた。


「それより、早く離婚届を提出しに行きたいわ……。旦那様が眠り玉で眠っている内に。私、怖いの……」

「それもそうですね」


 処理はマックスがやると彼は屋敷に残り、代わりにエレナたちが付き添ってくれる。


 ボロボロで泣き腫らした姿で教会に行けば神父たちはすぐに受理してくれ、私は家族の下に帰った。


「お父様、お母様、お義兄様……!」

「シェリル! なぜこんな姿に!」


 家族に抱き着けば、娘の哀れな姿に家族は皆肩を怒らせた。

 シェリルが事の次第を話せば、父は険しい顔つきになる。


「許せない、このことは抗議させていただく」

「旦那様にそうお伝えいたします。奥様……いいえシェリル様、本日はゆっくりとお過ごしください。本当に申しわけありませんでした」

「なぜ貴女たちが謝るの……。それより三人も気をつけて、貴女たちも女の子なんだから」


 エレナ、フィレネー、クロルは頬を緩め、馬車に乗り去っていく。


 侍女に急ぎ着替えさせてもらった私が食堂に行けば、義兄がすぐに出迎えてくれた。


「……それにしても、想定外でしたわ」

 

 義兄だけに聞こえる声で呟けば、彼も頷いた。


「あぁ。襲われたように見せるはずが、本当に襲われるなんてね。彼らの腐った性根にはほとほと呆れるよ。可愛いシェリルになんて酷いことを……っ」


 憤る彼を宥めながら、私たちは次に行うことを考えていた。


◇◇◇


 社交界にはすぐに今回のスキャンダルが広まり、皆が私を憐れんだ。

 そして騎士団からの尋問で使用人たちが援護してくれたため、セフラン家が社交界から見捨てられるのは早かった。そしてセフラン家で働いていた使用人たちは、彼らの希望で我が家で働くことになった。

 このまま彼らは他家からの信用を失くし没落していくのだろう。あとはそれをゆっくりと眺め続ければ良い。


 元夫は、まだ私が自分を愛していると疑っていないようだということを風の噂で聞いた。


「シェリル」


 部屋に一人でいれば愛おしい人に名前を呼ばれる。


「お義兄、じゃなくてレイン様」

「うん」


 銀髪の美しい彼は頬を緩めた。

 

 彼は自ら養子になることを志願したのだ。

 私の兄を殺したセフラン家を潰すために。


 十年前、兄が乗っていた馬車を引いていた馬が暴走し兄は崖から転落して死んだ。

 調べによると、馬に遅効性の興奮剤が盛られていたらしい。


 悲しみに暮れる私に、いつも兄と一緒に遊んでくれていてその頃両親が他界していた彼が「きっとやったのはセフラン家だ。だから力になるよ」と言った。

 自分を養子に迎えてくれと。彼らを断罪するための証拠集めをすると。


 三年前、私は兄が転落死した日の真実を突き止めようとしていた。だが結婚しろという王命が下された。

 最初は恨んだものだが、これはチャンスだとも思った。


 そして目論見通り事は運んでいった。


「今回のことで王家からも慰謝料をいただいたことだし、これからどうしようか?」

「では、私と結婚してください」


 真っ直ぐ告げれば、彼は目を見開いた。それからじわじわと頬に熱が集まる。


「良いのかい? 僕で……」

「えぇ、勿論です」


 嬉しくて堪らないといった風の彼に、膝の上においでと言われる。

 昔から彼にはこうして膝に載せられていた。兄が注意するのも無視し、私を可愛がり続けてくれた。


「嬉しいな……シェリルと結婚できるなんて」

「だって、ずっとずっと好きでしたもの」

「シェリル……!」


 ガバッと抱きしめられる。彼と隙間なく密着し、肩に顎を乗せている状態だから彼の表情は分からない。けど耳が赤いのは見えて、ふふっと笑う。












 ――私は表情をスッと消した。


 力を抜けば、顔はすんとも動かない。バレないように声だけは甘やかに愛を紡ぐ。


「ふふ、愛していますわ……」


 兄は馬車の事故に遭った。

 そしてレインの両親は毒を飲んで死んだ。


 私は調べていく内に気づいた。裏でレインがセフラン家と手を組んでいたことを。

 なぜこんなことをしたのかと考えれば答えは簡単で。彼は私を愛していたのだ。恐らく、病的に。


 兄と彼の両親は唯一その異常性に気づいていて、私から遠ざけようとしてくれた。

 だからセフラン家を唆して、三人を殺害したのだろう。


 許せなかった。優しい兄を殺した彼が。憎くて憎くて堪らない。

 憎悪の熱で焼かれて死んでしまいそうになる。


『シェリルは世界で一番可愛い妹だよ』

『本当? 嬉しい!』

『お兄ちゃんが守ってやるからな』


 私に花かんむりを載せてくれた兄の優しい笑顔が私を今も突き動かす。

 なぜ、あんなにも優しい人が殺されなければならなかったのだ。己の私欲のために、崖から落ちて死ななければいけなかったのだ。


 あちらへの復讐は遂げたと言っても過言ではないだろう。


「愛してるよ、シェリル」


 次はお前の番だ。

次の満月(5/30)にまたお会いしましょう。

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