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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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面の予言

「霊……とは少し違うのですけど、実家に昔奇妙なものがあったんですよ」


 そう語るヤマダさんは苦々しい顔をして言う。


 実家は結構古いんですが、昔その奥に面が飾ってあったんですよ。無表情の面だったんですが、それを見せられたあと、祖父が教えてくれたんです。


『あの面が怒ると良いことがある。笑っている時は気をつけろよ』


 そう言っていたのだが、その理由はそのとき教えてくれなかった。ただ、時々こっそり奥の間に忍び込んでいると、ある冬、その面がニコニコと柔和な笑みを浮かべているのを見た。祖父に言わない方がいいと直感して自分の中だけで抱え込んだ。


 後日、姉が両親に泣きついているのを見た。当時は何故か分からなかったが、後になってあの時は受験に失敗して浪人が決まったので泣きついたのだと聞いた。それであの面が怖くなってしまった。


 それからしばし後、自分の受験もあったんですが、結果が出る前にその部屋を覗いたんです。アレが禍々しいものだとは分かっていたのですが、結果を知りたくて我慢が出来なかったわけです。その部屋に入った瞬間冷気が流れ込んできたような気がしました。その部屋を怖々覗くと、面が入り口に向けて怒りの表情をしていたんです。それを見て『ああ、上手くいったんだ』と思ったんですよ。


 本当にそのときの受験は上手くいって、記念受験だと言われていたところに受かったんですよ。随分都合が良いなとは思いました。


 それで大学に入るので実家を出ることになったんですが、その前に祖父が部屋に呼んだんですよ。それでなんだろうと思って部屋に行くと、祖父は珍しく真剣な顔でこちらを見ながら言うんです。


『あの面のこと、気になっとるんじゃろう?』


 私は頷くしかありませんでした。なぜ良いことが起きるのに悪意のある表情を向けるのか気になったからです。


『あの面はな、ワシのオヤジが巻き上げたんじゃよ』


 祖父は軽い口調で噂話を話すような愉快そうな表情でそう言いました。


『ワシのオヤジは地主でな、まあ敗戦で巻き上げられたんじゃが随分と土地を持っておったもんよ。それで一軒食い詰めておった家があってな、オヤジは米はいいから金品をよこせと結構な金額を巻き上げおった。ワシは愉快じゃったよ、その家の子供が嫌いだったからのう。そのときに奪った品の一つがあの面じゃ。その一家は戦後引っ越していったが大層ウチを恨んでおったよ。じゃからウチが成功するのが気に食わんのじゃろう。良いことがあるとお前が見たように怒りの表情をするんじゃよ』


 なんとも後味の悪い話だった。まさかあの面が強奪にも近い方法で奪い取った品だったとは。しかしこのことは墓まで持っていこうと覚悟をして家を出ました。


 それで大学を卒業して実家に戻りました。それからしばし普通に務め人をしていたんですがふと思いだしあの部屋を覗いてみようという気になったんですよ。アレだけ怖いというのによくやると思いますよ。


 覗いた部屋にはゲラゲラと聞こえてきそうなほど愉快そうな表情をした面がありました。何が楽しいんだと思っているとその面はついに耐えられなくなったのか砕けて塵になりました。そこで思いだしたんですよ、『ああ、今日は爺さんの命日だった』ってね。


 話はそれで終わるのだそうだが、その面を奪われた家族が何故そんな呪物めいたものを持っていたのか、何故あんなただの面にしか見えないものをわざわざ曾祖父が奪ったのかは分からないままになったそうだ。

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