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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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目に染み渡る

 ムウさんは事務員なのだが、ある日彼女が職場で体験したことだそうだ。


「あの日はなかなかの繁忙期でした。だからほとんどの時間PCの画面を見ながら、時々バカみたいにも字の小さい書類を処理していたんです」


 なんでそんな書類が多いのかはさておき、とにかくその日一日はほとんどPCのディスプレイをにらみつけるのが仕事だった。


 上に人員の補充を頼んでもそこは田舎ゆえ人材がいない。そのため一部の人に少し面倒なことが集中していた。ひどい職場だったのだけれど、辞めても知り合いと話すかぎりここら辺は変わらないよといわれている。どこへ行っても大して変わらないハードワークを課せられるならあえて転職という手間をかけるのも嫌だ。


 そんなどうしようもない理由で仕方なく勤務を続けていた。


 年末など書類が大量に来るときはいちいち対応が面倒なのだが、最近ではPDFで書類が送られてくることも多い。手書きや判子は減ったが、それで楽になるとは限らない。結局、PDFの開き方が分からないからと、追加でそれらの内容をチェックして印刷する作業が入った。


 ペーパーレスってなんだろうと思うが、理想と現実は違う、そのくらいのことは分かるのだ。諦め半分に処理をしていたのだが、流石に日が落ちつつある頃には目がかすんできた。画面がよく見えないので視線をあげ少し遠くを見た。しかし今日はひどいようで、そのくらいのストレッチでは解消しないほど目が疲れていた。


 そこでデスクの引き出しを開けて中に入っている目薬を一個取りだした。何個か目がつらいときに使うものをストックしているが、その中で一番値段の高いものを選んだ。とはいえ、中の目薬さえはっきり見えないのでぼんやりと色だけでこれだろうと判断してとりだし、それを目に垂らした。


 じわーっと液体が目の中に広がっていき、疲労感が多少はやわらいだ。目を閉じたまま、軽くマッサージをして目を開けるとなんとか作業が出来る程度にはなっている。休みを取ればいいと言うのは身も蓋もない正論だが、代わりの人が居ないのだから仕方ない。バイトだってシフトを変わってくれる人の余裕くらい残すだろうにと理不尽だと思いながら目薬を机の中に戻そうとした。


 そこでカタッと小さな音がした。それはどうやら手の中から聞こえてきたようだ。目薬のケースから音? そう思いながら目に近づけて目薬をじっと見た。すると白い何かが入っていた。しばし目を閉じてから再び見ると中に入っていたのはおそらく目薬の成分だったであろう結晶状の何かだった。


 確かにこの目薬は最後の手段的に取って置いたもので中身の確認はしていない。だから乾燥しきってしまうことは十分あり得るのだが……


 今、確かに自分はこの目薬をさしたのだ。あの時垂れてきた液体は一体なんだったのか?


「こんな話です。幽霊も何も出てきませんが、確かに私は目薬を目に入れたはずなんですよね。アレは一体なんだったのかは未だに分からないんですよ」


 彼女はそう言って話を終えた。それから彼女は目薬を買うとき出来るかぎり小分けになっているものを買うようにしているそうだ。

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