因果の巡り
「今でも感謝して良いものか悩んでいるんですよ」
カガリさんはそう言って話を聞かせてくれた。それは神の理不尽に対する怒りだった。
「私、若い頃……というか小さい頃ですね、病弱だったんですよ」
いつも咳はしていましたし、熱だってよく出していました。少し悪くなるとすぐ喉が腫れて食べるのが苦痛になるんです。そんな時私の面倒を熱心に見てくれていたのはおじいちゃんだったんです。当時は感謝していましたし、リタイアしている身とはいえ、私に沢山の時間を割いてくれるのは感謝してもしきれませんでした。
すこし物心がつくと『おじいちゃん、風邪がうつったら困るからもういいよ』って言ったんですが、祖父は必ず私が元気になるまで面倒を見てくれていたんです。ただ、冬場に風邪をひいて入院した時におじいちゃんから私が体の弱い原因を教えてもらったんです。
『ワシの親戚の一人が、山で遊んでいる時に蛇を殺しちまった……いや、そんなものじゃないな。真っ白な蛇が居て目立つからという理由でその蛇を玩具代わりにしているうちに死なせちゃったんだ。白い蛇なんて神様の使いだってなのになあ……それでおじいちゃんの父親はまだ若い時に死んだんだ』
そう言ってため息を一つつきました。何であんなことをしたんだろうなあ……そういうわけだからお前の風邪はうつるようなものじゃない、だから安心しろって言われたんです。つまり私の体調不良は呪いのようなものだって言いたかったんでしょうね。
小学校に上がってからも定期的に学校は休みました。勉強についていくのに必死になって、その結果体調を崩し、更に勉強に遅れが……って焦ってたんです。そんな時に祖父が『いいから寝ておけ、じいちゃんが勉強は教えたる』なんて言うんですよ。祖父の時代は戦中戦後で勉強どころじゃなかったような時代のはずなんですけどね。
ただ、それでも学校での成績は並程度でなんとかついていけていました。その結果、中学もなんとかなるかなと思い始めていた頃です、風邪をこじらせて肺炎になったんです、当然入院しましたよ。
そのときは結構危なかったようですね。始めは咳がよく出るくらいで、別にどうってことないって思ってたんですが、数日で一気に悪くなって意識が朦朧としていました。
ただ、一週間……と言うのは後から知ったのですが、それだけ後には退院できるほどに元気になっていました。ただ、そのときになって祖父が亡くなり葬儀も済んでいることを教えられたんです。
それからしばらくは泣いていました。優しかったおじいちゃんが……ってね。それと祖母が私を見る目がなんだか変わったような気がしたんです。始めは祖父の葬儀に出ない不義理な孫とでも思っているのかと思ったんですが、どうも違うらしいんですよ。優しさの混じったような目で見られているような気がするんです。なんでそんな目をするのか聞けなかったんです。それを話してもらったのは私が中学に上がった時のことです。
『ちょっと話しておかんとならんことがあるからばあちゃんの部屋にきんさい』
そう言われてなにを言われるのかとビクビクしながらおばあちゃんの部屋に行きました。恨み言をぶつけられることくらい覚悟の上でした。ただ、そこで聞いたのは祖父の死の話でした。
『じいちゃんはね、アンタが入院した時に「ワシはもう十分生きたけえ孫は助けてくんさい!」って神社にずっと参ってたよ』
私はそれを聞いたおじいちゃんがどれだけ苦しかったか、私は人の命を背負って生きてるんだと思いました。でも続く言葉は違ったんです。
『全く、勝手なものさね、自分の不始末を孫に押しつけておいていざとなったらそんな都合のいいことをいうんやね』
その言葉に私はなんと言っていいのか分かりませんでした。おばあちゃんは私の困惑に気づいたのかその事情を話してくれました。
『神の使いの蛇を殺した親戚が居るって聞いたろ? まあ親戚なんて都合の良い言い方さね。その白い蛇を殺したのはアンタの爺さんなんだよ』
私は大層驚いていたのでしょうが表情が追いつきませんでした。どんな顔をしていたのか想像もつかないです。
『爺さんは『オヤジがワシの身代わりになってくれた』なんて言ってたねえ。そりゃ反省もなにもしてなけりゃ祟るってものさね。それでアンタが風邪をひく度に爺さんは『ワシのせいだ』って言ってねえ、それでも本人に誰がやったのかを誤魔化すんだからズルいもんだよ。だからアンタが爺さんの事を悔やむ必要なんて無いのさ、ただ因果がめぐっただけなんさね』
そう言っておばあちゃんは『父ちゃんと母ちゃんには内緒にしときよ』とイタズラっぽく言いました。
結局、私は助けられたのか分からないんですよ。ただ、なんとなく蛇の居ない場所に行きたくなって都市部に進学したんです。幸い今のところ蛇はしばらく見ていませんね」
そうして彼女は話を終えた。その顔はスッキリしたという表情だった。
「話が出来てよかったです。ずっとこの話を背負って生きてきたんです。唯一知っていたおばあちゃんも随分昔に亡くなりましたからね」
そう言って彼女は別れて去って行った。私はこの世にはどうやっても逃げられないものがあるのだろうと恐怖を少し感じた。しかしとにかく、彼女のおじいさんは責任をきちんと取ったのだから大丈夫だと思いたい。




