墓場の穴
ナルコさんの友人になるケイコさんは熱心な心霊マニアらしい。昔からスピリチュアルからこっくりさんのようなものまで、オカルトっぽいものには一通りかぶれてきたのが彼女らしい。ただ、そのケイコさんにも流石に懲りたことがあるそうだ。
「この話は不完全なんですが、それでもいいんですよね?」
私は頷いて話を促した。
その晩はスマホでゲームをやっていたんですよ。ついつい夜更かしして寝るタイミングを逃したんです。なので零時を回る頃まで暗い部屋でスマホを弄っていました。ええ、うちの親は当時制限を掛けるようなこともしていませんでしたし、Wi-Fiも飛んでいたので通信量を気にせずイベントを周回していたんです。そんな時、ケイコから電話がかかってきたんですよ。
電話に出ると『今すごいところにいるからビデオ通話に切り替えて!』と興奮して言うので、通話からビデオ通話に切り替えたんです。そうすると彼女が暗いどこかに立っている様子が映っていました。
『ね? いよいよ私は来たよ! 何か出るかな?』
そんなことを言われても何処に居るのかすら分からない。『何処に居るの?』と尋ねると『墓場だよ! 後ろに映ってるから分かるでしょ』と言われたのだが、画面が暗すぎて彼女が何処に居るのか分からない。一応本人は墓地にいると主張しているが、それを示す証拠はどこにもない、彼女はまるで写真加工ソフトで切り抜かれ、真っ黒な背景に貼り付けられたかのような様子で立っているのしか見えない。
そこでスマホの輝度などを調整してみたのだが、どうにもはっきりしない。
「ごめん、暗くてよく見えないや」
そう言うと『しょうがないなあ、これで見えるでしょ?』と言ってケイコは手に持っていたLEDライトを自分の後ろの方に向ける。そこで思わず息を呑んだ。真っ暗な場所にいると思ったから、彼女の後ろにはどこまで深いか分からない大きな穴がぽっかりと空いていた。それは明らかに墓地などではなかったし、もっと禍々しいものに見えた。
「ねえ、帰ったほうがいいよ」
忠告したのだが、彼女は聞き入れず『大丈夫だよ、私は場数を踏んでいるからね!』と言って穴に向けて足を踏み出した。落ちる、そう思った瞬間に映像は途切れ通話は終わっていた。何かあったのかと思いかけ直したが繋がらない。
そうして不安な一夜を過ごして、翌日登校するとケイコの姿が見当たらない。遅刻するような子じゃないはずなのに……そう思ってメッセージを送っておいたが既読すらつかない。不安は増したが何も言われないので問題無いのだろうと思い、いや、思い込むようにしてその日を終えた。
そうして日が明けると登校したのだが、今度はしっかりケイコが登校していた。一安心して話を聞こうとすると、『ゴメン、あの話は出来ないんだ。ちょっと昨日はお寺の世話になっててさ』という。誇張して吹聴して回るのが趣味のようなケイコにはとても思えない殊勝な態度だった。
「話は以上です。何があったのか知りたいとも思いませんが、ケイコも話す気はないようなのでお互いこの話題はしていないんですよ、たぶん何かあったんでしょうが、詰問することでもないですしね」
謎の多い話だが、彼女はいたって真面目に言っていた。その墓地の場所を教えてもらえないか頼んでみたが、彼女は『絶対に近づかない方がいいです』と言って結局聞き出せなかった。真相は不明だが、遊び半分で墓地に行くような真似はするべきではないと言うことだろう。




