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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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万が一の時

 オムロさんは自賠責など法律で加入が義務づけられている保険以外一切入っていない。子供の頃にいろいろあったので保険が嫌いなのだそうだ。


「いやね、ガキの頃に保険のセールスが来ましてね、アレには参りましたよ」


 当時のことなどそれほど詳しく覚えていないのだが、その件だけははっきり覚えているらしい。未だにあの営業が言ったことを覚えているそうだ。


 なんていうか……セールスが来たんですが、そのとき来たのはすごくしつこい人だったんですよ。母も父も追い払いたかったんですが、一応その営業の人は町内の人なので無碍にも出来ないんですよ。


 それで仕方なく話を聞いている振りをしていたようですが、その営業が『何かあった時にお子さんに残しておけるものが……』『万が一の時収入が途絶えず』とか不安を延々と煽っていたんですよ。当時は分かりませんでしたが、今にして思うと結構なゴリ押しだなって思いますよ。


 こちらがいくらのらりくらりとかわしていても話を続けるので仕方なくオヤジが出てきてきっぱり断ったんですよ。そうしたら恨みがましい目をしながらそのセールスは引き下がって出て行ったんです。玄関をバタンと力を入れて閉めている、結構な失礼さでしたね。


 それでいったん終わったと思ったんですけどね、はっきり言っちゃうとムカついたんですよ。それは父母も同じで、近所に住んでいない人だったらすぐに追い出してたのにって愚痴ってましたよ。


 それからなんですが、何かとトラブルに見舞われたんですよ。軽い交通事故だったり、レントゲンを撮ったら影が映っていると言われたり。どちらも問題があるようなことでは無かったんですがね……


 酷いのだと俺が交通事故に遭ったりもしましたよ。と、大げさに言ってもたかだか交差点で横についた自動車に擦られたくらい何ですけど、なんだか偶然にしてはどう考えてもおかしいくらい頻発したんです。


 俺は今でもあの保険野郎が何かやっていたんだと思いますよ。アレを断ってから急に万が一のことが頻発するんですからね。そりゃ二三回起きるくらいなら偶然で済ませますが、年単位で大量に起きると流石に勘ぐりますよ。


 でも、その営業の人、成績がすぐれなかったのか二年後くらいに町から越していったんですよ。その途端事故や病気みたいなことが嘘のように無くなりましたからね。あの営業が引っ越したタイミングと一致しているんですよ? 関連付けるなって言う方が無理じゃ無いですか?


 そんなわけで、今ではすっかり保険嫌いになったんですよ。なんなら法律で決まってなければ自賠責や社会保険だって抜けたいくらいですからね、人の不安を煽る商売はどうにも好きになれませんね。俺だっていずれは病気になったり死んだりするんでしょうけど、そんな時にいくらかお金をもらったところで嬉しいですかね? 俺にはどうしてもそう思えないんですよ。


 そう言って彼の話は終わった。彼は生命保険の営業が会社に来ると腹立たしいのでついつい塩対応をしてしまうそうだ。万が一の時がやって来た時にそれを受け入れる覚悟はあるというのは彼の談だ。

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