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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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家の声

 イシカワさんは子供の頃、祖父母と同居していた。その頃はいろいろと確執もあったそうだが、そのことは霊体験とは関係無いそうだ。


「付喪神とか言いますけど……あるものなんですねえ」


 そう言うイシカワさんは何とも寂しそうな顔をした。


 いやね、小学生だった頃の話なんですが、祖父母が同居するって事になったんです。その前にいろいろ揉めたそうですが、同居で決まったので二人を田舎の実家から呼ぼうということになったんです。


 当時はよく分かりませんでしたが、実家はいかにも古い家って感じでした。ボロいっていうか、歴史を感じるような家でしたね。その家はもう住む人がいなくなるので取り壊すってことで決まったんです。


 それで祖父母が引っ越してきてしばらくしてから取り壊しを始めることになったんです。それでそのときに父に『お前もついてこい』って言われたんですよ。取り壊しに立ち会えなんて言われてもそんなに思い入れなんて無いので困ったんですが、父の言うことは絶対みたいな感じだったので有無を言わさず連れて行かれたんです。


 そうして取り壊しの時に父と車に乗って田舎にある祖父母の家だったところに行ったんです。見た感じはただの古い家って感じでしたね。古民家なんて言葉もありますが、アレはそんな上品なものと謂うより古い家にしか見えませんでした。


 そこにはもう解体業者が来ていて、随分と乱暴な取り壊しが始まったんです。当時はそういうものだと思っていたんですが……たぶん父は格安の『そういう』業者に頼んだんでしょうね、私たちに挨拶したらいきなりユンボで崩しにかかったんです。今は家の取り壊しにしたって分別とかがあるようですが、あの時の取り壊しにそんなものは全く無かったですよ。


 そのときに誰かがすすり泣く声が聞こえたんです。周囲を見回してみたんですが、泣いている人など誰も居ません。誰が泣いたんだろうと思いながら取り壊されていく家を見ていると、次第に泣く声が悲鳴に変わっていったんですよ。金切り声というか、とにかく痛みを感じているような人が出す悲鳴のように聞こえました。


 でも取り壊されるにしたがって少しずつ小さくなっていきました。家が崩された頃にはもう声が聞こえませんでした。


 帰りの車の中で父にあの場で誰か泣いていなかったか聞いたんです。そうすると……


「ああ、お前はおばあちゃん似だもんな」


 とだけ言われて説明も何も無かったんです。でも家に帰ると祖母が『そうか、あの家にも悪いことをしたねえ』って言うんですよ。『なんのこと?』って聞くと『なに、気にしなくていいよ、私も長いことあの家に住んでいたってだけさね』と言われたんです。そこであの悲鳴は家のものだったんだなって分かりました。家には悪いことしたなって思いますけど、それから二人が鬼籍に入るまで表面上は仲良く出来ていましたよ。


 思うんですけどね、心っていうのは立派なものに宿るんじゃなく、いかに思い入れがあるかだと思うんですよ。きっとあの時の祖母は家に結構な想いがあったんでしょうね。


 そう言って彼は話を終えた。今ではそこは限界集落になっており、彼の出ていった頃から人口は減る一方だという。彼はそのうち村の悲鳴も聞こえるんじゃないかと恐れているらしい。

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