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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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何を言っても……

 タナカさんの家系は大層仲が悪かったという。兄弟姉妹でよくここまで憎み合える物だと思うほどの仲の悪さだった。とはいえ、祖父母が生きていた頃はまだブレーキが効いていた。しかし祖父が病気で倒れ亡くなった頃から雲行きが怪しくなり、祖母が亡くなった時点でタガが外れたように互いを罵り合うようになった。


 そしてタナカ家のエミコさんは言う。


「まだ祖父母の前ではなんとか取り繕っていたんですが、多分アレが本性なんでしょうね」


 そしてエミコさんが家を出るきっかけになったことがあると言う。


 祖父母が亡くなったってことで、ご想像の通り相続争いが起きたんですよ。そりゃもう酷いもんでしたよ、つかみ合いに発展して、あげくには警察を呼ぼうかなんて真面目に考えるような状態でした。なんとか暴力沙汰は避けられたんですが、暴言はどこまでも続きました。


 何度目の話し合いだったのかも忘れましたが、そのときは特に酷かったんです。そっと部屋の隅で『酷いもんだなあ……』って思いながら眺めてました。そこで轟音が鳴ったんですよ。


 流石に全員止まって音源を探しました。外の方から聞こえたらしいと、襖を開けると、ガラス越しに木にたぶん雷が落ちたんでしょう、引き裂かれていました。どうしてそんなに背の高くない柿の木に落ちたのかは分かりませんでしたが、その木は祖父が大切にしていたので流石にこれで争いは、一旦その場で解散になったんですよ。


 これで争いは終わるかと思ってたんですが……まあ私が甘かったですね。さっさと遺産から柿の木を片付ける費用を出して庭から取り去ってしまったんですよ。もういない人だからって思い入れのあるものにそこまでするかって思ったんですけどね……


 まあ終わんなかったですね、救いようが無いですよ。すぐにまた話し合いという名の喧嘩同然のことが始まりました。どこまでこの人達は争うんだろうかと呆れながら見物していましたよ。


 何を言っても無駄だなって思い諦めました。それである日なんですが、部屋の中で話し合っていると、雨音がし始めたかと思えば轟音になって来ました。私はガラスから外を見るとウチの敷地内だけが豪雨になってるんですよ。余所はすっかり晴れているんですがね。


 悲しいのかなって思いましたが、私はもううんざりしていたので実家を離れることにしました。あんなのに付き合っていたらキリが無いですよ、何時まで経っても何が起きても争ってるんじゃないでしょうか。何を言っても無駄だと諦めて上京するとスッキリしましたよ。


 実家から遺産がどうのの手紙は届くのでロクに見もせず捨てていますよ。どうせお金のことしか書いてないんでしょうしね。


 なによりあんな超常現象のようなことが相続争いの場で起きても気にせず争っている人たちと付き合いたいとは思いませんから。もう関係も無いですし、好きなように争ってくれって感じですよ。


 そう言ってエミコさんは呆れた顔をしていた。謝礼を渡して、私たちは別れたのだが彼女が別れ際に『ホント度し難い』と言っていたのが忘れられなかった。

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