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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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視えるバイトちゃん

 イグチさんはいくらか前のバイト先で、『視える人』が採用されて一日でバックレをされたらしい。そのときのこととその後のことを考えるとあまり笑えない話だそうだ。


「悪い子じゃないんですけどね……見えちゃったなら仕方ないですよね」


 その子はバイトが足りないときに採用されたんですよ。コンビニだったんですが、人不足だったんですよ。言い方は悪いですが、この辺のコンビニには外国から働きに来るか違いますけど、昔の田舎ではそんな人材ほとんど居なかったんですから。


 人材がただでさえ足りないもので、ロクに面接らしい面接もせずに採用したらしいです。とりあえず初日は私が教えることになってその子に教えていたんですよ。


 なかなか覚えのいい子で、私が教えた仕事はすぐにこなせるようになったんです。悪い事じゃないですよね。私も楽になるってことでその子に熱心に教えたんです。その途中でその子がお手洗いに行ったんです。一回くらい構わないかと思って待っていたんですが、なかなか帰ってこないんですよ。


 不安になってトイレの戸を開けたら彼女が手洗い場で青い顔をして手を洗っているんですよ。トイレに困ったお客様が入っていたのかなと思って声を掛けたんですよ。でも彼女は『いえ……』とか『ええ……』とか、突然気の抜けた声しか出さなくなったんです。それから私は業務を教えたんですが、その子はなんていうか……やることはやるんですが顔色が悪かったんです。


 翌日出ると、彼女はもう辞めていたそうです。店長も怒っていましたが、激務だから最近の子は耐えられないんだろうと言ってました。でも私は違うと思うんですよ。その日、トイレ掃除をしたんですが、トイレの中に彼女の気持ちを変える何かがあるのかと思ったんですが、ごく普通のトイレでした。『なんで辞めたんだろう』と思いながら勤務を終えて帰りました。


 数日後のことなんですが、スーパーでたまたま彼女を見かけたんですよ。別に起っていたわけでは無いですけど一声掛けてよと話しかけたんです。そうしたら彼女はビクッと震えてから私のことを見たんです、それからホッとしてイートインで少し話せませんかというので、適当にパンを数個買ってスーパーのイートインに彼女と座ったんです。


「あの……あそこに勤務しているんですよね? その……何もありませんか?」


「なにもって? 何の事? コンビニのことだよね?」


「ええ、あそこのトイレで何か感じませんか?」


 なんとなく彼女の言いたいことが分かった私は直球の質問をしました。


「あなた、あそこで霊でも見たの?」


 私の言葉に彼女は意外にも首を振りました。


「幽霊だったらいくらでもどうにかなったんですけどね、アレは見たくなかったですよ」


 彼女が見たものが何だったのか教えてもらいました。


「コンビニなんですけど、あそこは経営が何回か変わってますよ。前の人たちは経営が上手くいかなかった……いえ、随分無茶を強いられたようですね」


 コンビニがキツいところはキツいと知っていたんですが、彼女は何かを恐れているようでした。


「トイレなんですけどね……あそこに前の経営者の怨念が残っているんですよ。いや、たぶんその人達は生きてますよ。生きているから質が悪いんです。死霊だったらお経の一つでも片付くことがあるんですけど、生きている人の恨みだとはらってもその人が生きているのでまた出てくるだけですからね」


 彼女はそれだけ言って帰っていきました。私はコーヒーを買って身の振り方を考えた末、働くコンビニを変えました。やっぱり気分がよくないですもんね。ただ、見えなくて良かったなと思いましたよ。


 最後に彼女は『少なくとも見えないなら次のコンビニに見える子が居なければ居ないも同然ですからね、そのまま上京の費用を稼いだんです。


 そうして今はここで一人暮らしをしているんですけどね、と彼女は笑いながら言った。

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