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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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お参りと家族

 アヤメさんは昔住んでいた田舎で嫌な思い出があるそうだ。いや、本人が言うには『そうであって欲しくはない』そうだが、偶然で片付けるには怪しい出来事があったそうだ。


「私、おばあちゃんには随分とかわいがられてまして、たった一人の孫だったからですかね。結構いろんなところに連れて行かれたんですよ。近所のスーパーから公園、図書館と田舎なりに揃っている物には大抵一緒に行きました。とはいえ、田舎だからたかだか知れているんですが」


 ある日、祖母に遊びに行こうと誘われた。特にやることもなかったし、はっきり言えば祖母は結構お小遣いをくれるので、喜んで一緒に出かけた。


 ただ、その日連れて行かれたのは町外れにある廃寺で、どうしてそこに連れて行かれたのかは分からなかった。ただ、祖母は熱心に寺でお祈りをしていた。こんな何も無い場所で何に祈っているんだろうと思ったが、祖母がありがたがっているのだから何かあるのだろうと一緒になって手を合わせた。


 いくらかそうしていると、祖母は目を開けて『じゃあ帰ろうか』と言い、自宅に帰った。結局最初から最後まであの寺に人がいた気配は無かった。人は居なくても仏はいるのかもしれない。祈りを捧げるならなんでもいいのかも知れないし、信じているならそれでいいやと気軽に思っていた。


 それから数日後、母親が怪我をした。買い物の帰りに落ち葉で滑って転んだのだが、打ち所が悪く、しばしの入院をすることになった。そうして母親が帰ってきた頃にはなんだか顔色が悪くなっていた。


 両親は気づいていないと思っていたようだが、自分が布団に入った後、隣の部屋で何か相談をしているのが聞こえていた。時折強い語気になるが何を言っているのかはよく分からない。何か難しいことをしようとしていたのだろうが、それを知るよしもなかった。


 それから半年も経たないうちに同じ市内のアパートに両親と一緒に引っ越すことになった。転校もしなくていいのだが、幼い頃にはどうして近くにわざわざ引っ越すのか分からなかった。


 そうして核家族での生活にも慣れた頃、高校生になってしばらくしたとき、母親から『もうそろそろ知っておいていいだろうから』と話を聞かされた。


 曰く、前の家では結構な嫁姑問題が起きており、アヤメさんが祖母に懐いていたのでギリギリ引っ越していなかったが、母親が怪我をしたのをきっかけに引っ越すことを決めたらしい。


「いい、おばあちゃんには言っちゃダメよ?」


 そう言って決定的な出来事を聞かされた。あの転んで怪我をしたとき、母は落ち葉を気をつけて踏んで歩いていたのだが、足払いのようなものを受けて転んだらしい。周りを見ても誰も居ないし誰かがそんなことをできるはずもない、それなのに『チッ……しぶといねえ』という声が聞こえたそうだ。声の主は『分かるでしょ?』とぼかされたが、そこまで実家が揉めていたとは知らなかった。


 ただ、今にして思うと揉めているような出来事はたくさんあった。気が付かなかっただけだろう。


「それだけなんですけど、本当になんとなくですよ? 根拠なんて何もないんですが、母が怪我をする少し前にあの廃寺に行っていたことは話しちゃいけないと思ったんですよ。寺だって必ずいいものを祀っているとは限りませんからね。ただ、祖母がそこまで揉めていたのは意外でした。母が話してくれたのも、そのときは祖母がもうすでに鬼籍に入っていたからでしょう。母が黙っていたように、私も母には黙っていようと思うんですよ」


 これが彼女が体験した出来事だ。全てが憶測で作られた話だが、奇妙な偶然の一致を繋げたくなってしまうのは人間の性なのでは無いだろうか?

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