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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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動きません

 アズミさんはガジェットオタクで、ジャンク品をいろいろな店舗で買い、それが動くか検証してカメラで撮影しながら分解をしたりしている。男女比は偏っていたが、SNSでの需要はそれなりにあった。


「怖いというか不思議というか、そんな経験です」


 ただ、その日行ったリサイクルショップはいまいち面白いものが無い。ハズレだなぁ……とは思いながらいっそどうしようもないジャンクを買ってパーツ取りでもしようかなどと考えながら家電品のコーナーを諦めPCコーナーに行ってみた。こちらは確かにまともなものを売っている。極めて普通の中古品だ。バッテリーは年式なりに死にかかっているようなものがほとんどだが、動かそうと思えばそれなりに動くだろうなというものしか無い。


 もっとキワモノが欲しかったのだが、いたって普通の、普通に不具合が出たり、普通に年式の古いものだったりと、撮影しても何の面白みもないものが並んでいる。


 そんなものの検証動画なんて上げようものなら『でしょうね』という言葉が浮かぶに決まっている。どう考えても壊れているものはつまらない。かと言ってただ古くなってスペックが追いつかないものを取り上げても面白くない。


 更に悪いのは、そのショップは極めて良心的だった。年式も偽りなく表記してあって動かないものはきちんと動かないと書かれ、正直な状態が書かれていた。せめて大嘘が書かれているならその証拠を撮影してスペックの検証をし、こんな粗悪品を売っていたとネタに出来る。ここまで正直に書かれているとネタにすら出来ない。


 そこそこの距離を運転してジャンク品を漁りに来たのにこの成果では困る。仕方ないのでPCコーナーは諦めスマホコーナーに向かった。始めに行かなかったのはかなりの昔と違ってスマホは面白い壊れ方をしたものが少ないということだ。原因不明のハードウェア破損の修理をするとそれなりに見られるのだが、スマホだと普通に壊れたんだなというものが多いし、基本的に分解する工具を持っていない人が多いので興味を持たれることが少ない。


 PCと違い、スマホで動画を見ている人はスマホしか持っていない場合分解することはPCに比べて少ない。当然の話だし、最近の売り方では割賦で購入して規定の期間分割料金を払って返却する場合が増えている。つまり中古ショップに回ってくるのは大抵面白みのないものだ。


 気落ちしながら向かったスマホコーナーで中古の年代なりのスペックのものが並んでいるのを見てため息を吐く。こんなもの誰に需要があるんだろう? 分解して面白い要素があまり無い。


 ただ、一つ興味を惹かれたものがあった。それは最近出た機種で、スペックも販売価格も高いので今の時期に売っているのはおかしいものだった。その説明欄には『画面が光ってすぐ消えます』と説明があり、当然ジャンクの無保証だった。


 これはいいかも知れない。最新機種は分解しているのがそれ専門のレビューサイトなどくらいしか無い。個人で買って分解して動画にしようという物好きは少ないので需要がありそうだ。思わぬ掘り出し物を見つけてホクホク顔で一万円もしない壊れた最新機種を買い、家に帰った。


 まず状態通りかの確認のため、少し電源に繋いでからボタンを長押しした。一瞬白く画面が光ってすぐに消えて落ちる。なる程やはり故障しているようだ。承知の上だし、むしろ壊れていてくれないと撮れ高が無い。


 カメラとマイクをセットしてから撮影の準備をしている間にスマホを専用の器具で熱する。このシリーズは熱で溶けるボンドで気密性を保っているのでバラす前の加熱が必要になる。


 いい感じにスマホが温まったところでカメラを撮影モードにしてスマホを机に置く。専用ねじを特殊ドライバーで外し、無くさないよう入れ物に入れてディスプレイ部分を吸着してゆっくりと剥がしていく。ボンドは溶けているはずだが慎重にやる必要はあった。


 ただ、その心配は全くの杞憂で、中身は予想外のものだった。


「なにこれ……?」


 中身はおそらく鉛であろう板がテープで底面に固定されていた。詐欺商品だったと思いながら、どこで買ったんだろ? これだから正規店で買わないとダメなんだよねと思う。始めに買った人も詐欺商品を掴まされて気の毒に、そう思いディスプレイの方を見て自分でも変な顔をした。そこには一枚の梵字のようなものが書かれたお札が貼ってあった。


 普通の詐欺商品なら重さだけ誤魔化しておけば良いはずだし、わざわざこんなものを貼り付ける意味が分からない。部品を根こそぎ取った後のガワを売るにしても、お札を貼る意味が……そこで気が付いた。さっき少し充電器に繋いだとき、電源ボタンを押すと一瞬光ったはず。アレは一体……?


 念のため、元通りに……と言っても詐欺商品だが……その通りに組み直して、今度は充電ケーブルを挿したまま電源ボタンを押してみた。しかし何度やっても光ることは無い。あの一瞬光った現象はなんだったのだろう。それを撮影しなかったことは後悔しかない。


「あのお札、不気味だったのですぐに丸めて捨てちゃったんですけど、今にして思えばアレの検証もした方が良かったですねえ」


 そう語るアズミさんは、私から謝礼を受け取ると某電気街の方へ歩いて行った。

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