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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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祭の起源

 イチモンジさんの住んでいた町では毎年奇妙な祭が開催されていた。その祭に関しての苦い思い出を語ってもらった。


「あれは……幼稚園児だった頃ですかね」


 祭りっていっても子供は準備に参加したりしないんですよ。その祭は大人だけでされるんですよね。今にして思えばなんで子供が参加してはいけないのか疑問に思うべきだったんでしょうがね。


 ああ、でも祭の本番には一人の子供が参加するんですよ、それが俺でしてね……なんか大人が祭の前に準備をウチにしてくれるんですよ。食べ物なんかを持ち寄ってくれたり、中には金一封をもってくる家もありましたね。何でなのか親に聞いたことはあるんですが、そう言うものだからとしか教えられませんでしたね。


 とは言っても当時は幼稚園児のガキですから、喜んで美味しいものを食べながら祭の日を待ってたんですよ。


 それで祭の当日には神輿……といっても中に人が入れる、時代劇で言う籠の方が近いですかね、そう言うものに乗せられたんです。乗せられるときにタイマーも一緒に入れられて、「これが鳴るまで絶対に出るな」とキツく言われて乗せられたんです。


 お祭りだからと疑問に思いませんでしたが、今にして思うと少しおかしいですよねえ、当時は疑問に思わなかったんですけどね。


 それから籠に入ってしばらく外が見えないままに揺られ続けましたよ、怖くないと言えば嘘になりますね、でも揺られているって事は大人が担いでいるって事じゃないですか? そう考えると安心も出来たんですよ。


 ただ、タイマーが鳴ることもなくしばらくするとどこかに神輿は下ろされたようで、しんと静まったまま放置されたんです。心霊的なものなんて感じませんでした。ただ放置されたんだなってなんとなく分かったんですよ。


 そりゃ怖くはなりましたけど、怖いからって逃げ出せませんよ。タイマーが鳴るまでは待てとキツく言われてますからね。しっかり待ちました。


 それからどのくらい経ったんでしょうね、何しろ神輿から外が見えないのでずっと閉じ込められたまま待っていたんですが、ついにタイマーがジリリと鳴ったんです。急いで神輿から出ようとしたら、大人たちの方がすぐに神輿を開けて連れ出してくれたんですよ。


 それから家でご馳走を食べてお祭りは無事終わったんです。何故あんなことをしたのかは聞くなという雰囲気が漂っていたので聞けませんでした。あの由来を始めに聞いたのは小学校を卒業するときでした。父が重い口を開けて祭の由来を話してくれたんです。


「実はな……あの神社の神様が子供を供物として欲していた時期があったらしいんだ。といっても俺の爺さんの代でも話半分の言い伝えだったらしいがな……それで供物役にお前が選ばれたんだ。その……説明しなかったのは悪かったよ。とにかく言い伝えだし別に害はないんだがな、皆気が引けたんだろう、それなりに気をつかってくれたんだ」


「当時はそうなのかと思って納得しました。それと同時にあの神社が少し怖くなって足が遠のいたんです。ただ……話がそれで終われば良かったんですけどね」


 彼の話はもう少し続いた。


「問題は中学に入って俺のばあさんが少し体調を崩したときです。家族で見舞いに行ったんですけど、ばあさんが俺だけを病室に残して他の全員に出て行ってくれと言ったんです。体調を崩していたのによく通る声でそう言ったので、皆逆らうことも出来ず俺だけ病室に残されたんです。それからばあさんが俺が小学生だった頃の体験の本当の意味を教えてくれたんですよ」


 その話は祖母の代で止めようと決められた話だったが、彼が当事者に選ばれたということで伝えておきたかったらしい。お婆さまは非常に悲しそうに言う。


 曰く、あの祭の目的は神様への供物などではないと。実際は所謂『口減らし』のための子供を神輿に乗せて神社に放置し、中に乗っている子供は祭の時に『不慮の事故』で亡くなったことにしていたらしい。だが、だんだんと日本が豊かになるにつれてこんな野蛮な風習はやめようとなったのだが、祖母の子供時代、言い伝えを捏造するようにそれっぽい話が作られたそうだ。


「アンタには悪かったと思ってるよ……すまんねえ、孫をあんな祭に参加させたくはなかったんだよ」


 そのときの祖母は懺悔をするようにそう言った。そして意外なことに先は長くないと言われた祖母だが未だに元気なのだそうだ。ただ、彼によると祖母はあの時死ねばこんなことを背負わなかったんだけどねえと、彼と二人になると時々愚痴ると言う。


 結局、祭の真相は薄まっていくのだろう。この話はどこの地域か書くつもりは無い。全て不明のまま終わらせてしまった方がいい類いの話なのだろう。ただ、彼の町は今少子化に苦心しているという。少子化対策を謳う政治家などもいるらしいが、彼の祖母はそれを苦々しい目で見ているそうだ。彼にはなんとなくこんなことをする町が今更といいたいのだろうと分かってしまうそうだ。


「スッキリしました。どうも一人で知っておくには重い話だったんですよ。ちゃんと残してくださいね」


 私は彼の話をどう扱うか悩んだ末、ほとんどの場所を伏せたままこうして残すことにした。

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