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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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お腹の中で

 サチさんは子供のことで悩みがあるそうだ。


「あまりこういったことを相談するべきではないのかも知れませんが……」


 口調は重く、彼女の現在の悩みは始まった。


 息子がいるんです、その息子が時折変なことをしているんです。本当に馬鹿げているとは思うのですけど……


「どういった話でも構いませんよ、むしろありきたりな話より良いですから」


 私が水を向けると彼女は語る。


 クレヨンを買ったのが悩みの始まりです。今の家は夫の持ち家なので多少の落書きは許そうって話になって買い与えたんです。どうせ床や壁に幼児らしい落書きをするくらいだろうと思っていたんですが……


 息子が書く落書きがおかしいんです。黒いクレヨンで丸を三つ描くんですよ。二つ並んだ丸の中間の下側に一つの丸でセットになっているようなんですが、ええっと……なんて言うんでしたっけ? 人の顔のように視える現象は……


「シミュラクラ現象ですね、三つの丸が規則的に並んでいると人の顔に見えてくるものですね」


 ああそう、それでした。ただ、なんだか息子は顔に見えるものを書いているのではなく、本当にその三つの丸で顔のように扱うんです。丸を描くのが好きだというなら納得いくんですけど、必ず三つをセットにして描くんですよ。しかも、部屋の角とかがあるじゃないですか? ああいったところに丸を描くと壁に沿って曲がるので壁際を避けて落書きをするんですよ。


 それで、目下の悩みなんですが、あるとき息子に聞いたんですよ『どうして丸ばかり描くの?』と聞いたところ『この人達は、ママのお腹の中であったんだ』と言うんです。ゾクッとするじゃないですか。そりゃあお腹の中の記憶がある幼児がいるという話は聞きますよ、でもお腹の中であんな顔に会ったなんてどう考えてもおかしいじゃないですか?


 一応行っておきますけど息子は一人っ子で双子ではないですし、ここ最近に受けた健康診断でも何の異常もないんですよ。


 あまり言いたくはないんですが、あの三つの丸にそっくりだなって思うものがあるんですよ。宇宙人にグレイ型ってあるじゃないですか? あのタコ型じゃない方です。よく見るとその三つの丸は微妙に歪んでいて、一度そう思うとそうとしか視えなくなるんです


 あの子にテレビやスマホは私が居ないときに触らせていないですし、本だって宇宙人が出てくるようなものは無いんです。そもそも文字だって読めないのに一体どうやってあの形を知ったんでしょう? 私の体内にアレがいるのか……あるいは生まれる前に何かの段階で息子が出会ったのか……どちらもあまり想像したくないんです。


 できれば歳を重ねて忘れてくれればいいと思っているんですけど、息子の絵は日ごとに丸が歪んでいくんですよ。始めはコンパスを使ったような真円が三つ並んでいるだけのような感じだったのが、今は丸が楕円になって来つつあるんです。アレがどこまで不気味になるのかは分かりませんが、息子には早く忘れて欲しいと思っているんです。


 彼女はそう言って話を終えた。その後の連絡が無いので息子さんがどうなったかは不明だが、少なくとも日本にUFOが降りてきたというニュースは寡聞にして知らない。

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