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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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金次第

「まあ……懺悔がしたいんでしょうね、聞いてください」


 話をしたいというケイさんはいきなりそう切り出した。それから滔々と語り始める。


「結構な人数を不幸にしたんじゃないかと思っているんですよ」


 それから話は始まる。


 アレは中学二年の秋頃からです。当時は受験なんてそれまで全く気にしていなかったんですが、田舎なので受験できる高校は限られていて、全部落ちたら県外に出るようなところだったんです。


 切羽詰まると人間焦ってくるもので必死になりましたよ。ただ、それまでろくに勉強をしていなかったので思うように進みませんでした。焦るばかりでしたが、普通に考えると中学に入ってすぐ高校を見据えている連中と、ヤバいのが分かり始めてから本気を出すヤツ、どっちが成績が良いかなんて分かりきってますよね。


 当時はその時期から中一の教科書をやり直していたんです。そのくらいには勉強をしていなかったんです。毎日夜遅くまでやっていると気が滅入ってくるんですよ。時々テレビを見ようかという誘惑に駆られたので部屋からテレビは持ち出していました。


 年末年始も勉強漬けのつもりだったんですが、祖父母が家に来まして、『お前も顔くらい出せ』と言われたので渋々向かって挨拶だけしたんですけど、そのときに『ワシらは正月に会えないから今やっておこう』といってポチ袋をくれたんです。二人は正月になるとウチ以外の家族が来るので出迎えが必要だといっていました。だから会いに来てくれたんです。


 部屋に帰って袋を開けると一万円が入っていました。子供なら浮かれる金額なんですが、当時はあまりそういうことを考える余裕が無かったんです。それは机の引き出しにしまって勉強をしていました。


 大晦日になると歌番組を見て要るであろう両親の見ている番組の音がこちらまで流れてきました。当時はやってたのかな? よく覚えていないのですけど、そんな曲が流れてきたんです。


 無視していたんですが日付が変わる頃に父がやって来て『初詣に行くぞ』と言うんです。当時はそんな余裕ないと思ったんですが、たぶん余裕がなくなっているのが分かったから気晴らしに呼んだんでしょうね。


 オヤジの運転する車で少し走ったところにある大きな神社に向かったんです。結構な人数がいましたが、人が多い分時間がかかっている間は思い悩むことはなかったんです。


 で、ようやく賽銭箱の前に出たんですが、そこで使い道のなかった一万円を放り込んで合格祈願をしたんです。『なんとかして高校に合格させてくださいと必死に祈りました。


 それから翌年です。受験のシーズンになったんですが、受けられる私立には落ちて、公立が残るだけだったんです。これで失敗すれば県外が確定する状態でした。


 それで試験を受けたんですが、あちこちから咳の音が聞こえてきて体調が悪そうな人が多かったんです。試験結果は合格だったんですが、受験の翌日に結構な人数がインフルエンザで休んでいるのを見て怖くなりました。何しろ自分と同じところを受験した生徒のみが大勢欠席しているんです。始めから上位の高校を狙っているヤツや、県外上等なヤツは一人もインフルエンザにかかっていないんです。


 そこで嫌でも去年の初詣を思い出したんです。確かに合格したいとはお願いしたんですが……こんな形で叶ってよかったのか悩みましたよ。


「それが私のせいだと思っている件の全てです」


 そう言って話を終えた。彼は今では大学で真面目に勉強をしているらしい。大学の受験で同じことをしないために高校では一年生から必死に勉強をして大学は普通に実力で合格できたが、今でもあの時のことを彼は後悔しているそうだ。

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