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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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動く星

 コガさんは天体観測を趣味にしているそうだが、時々思いもよらないものが見えるらしい。その一つを教えてもらった。


「天体観測が出来る場所も減ってきましたね。おかげで光りに溢れる場所じゃ見えたもんじゃないですよ。仕方ないから望遠鏡を乗せて田舎まで車を飛ばすんですけどね」


 長い休みが必要なので、それほど頻繁には出来ないが、楽しいことは楽しいらしい。たまに有休を金曜や月曜につけて三連休にすれば見に行く時間くらい確保できるのだそうだ。


 アレはまだ慣れてない頃、田舎に行ったときの話です。当時は新しい星を見つけてやるなんて意気込んでたなあ……若気の至りって言うかね。まあとにかくそんな熱気に溢れた時代もあったのさ。今じゃすっかり情熱も枯れちゃったけどね。そのときはゴールデンウィークに連休を挟んで大型連休にして田舎に泊まり込んで空を見ていたんだ。


 ちょうど良い場所があったんだ、星を見るには便利な場所で、今でも他にいくところがなければ使うんだけど少し遠いのが難点かな。そのときはそこで空を見ていたんだ。


『あれ?』


 少しレンズを覗いた後、目を離してまた覗くと星の位置が変わってたんですよ。少し考えれば分かるんですけど、恒星は太陽以外何光年以上離れているんですよ、そんな突然動くようなものじゃないはずなんですよね。それでそんなものを見つけたとあっては新しい天体を見つけたどころの騒ぎじゃないんですよ。それで左右に揺れるその星を必死に見ていたんです。


 突然その光が強烈に明るくなりました。望遠鏡から目を離してその星の方を見ると、もう肉眼でも見えたんですよ。それは星などではなく、火球でした。白く輝く火球がフラフラ揺れながら飛んでいるんです。人魂という考えも浮かんで、怖さも忘れてみていると、こちらに近寄ったり離れたりしているんです。まるで宇宙にひかれているのに、地球に必死にしがみついているようでした。


 その引っ張り合いは空の方が勝ったらしく、人魂は空の向こうに消えていきました。一応消えていった方を望遠鏡で確認したんですが、いくら倍率や方向を変えてもそれが見えることはありませんでした。せっかくのゴールデンウィークだったんですけど、それを見てからすぐ宿に帰り、明日出て行くし、料金は満額払うと言って荷物をまとめました。


 翌日、車に荷物を載せて帰ろうと駐車場を出て車を走らせていると、町内に救急車とパトカーが止まっているのが見えたんです。そこで『ああ、昨日の人は残れなかったんだな』って思いながら帰りました。


 新聞も売っていましたが、それを見る気にはなれませんでした。結局、誰が亡くなったのかは分かりませんが、俺が一人を見送ったんだなって思ってました。


 ただ……それでも天体観測はやめられないんですよねえ……人の性っていうのは何とも罪深いものでしょうね。


 そう言って彼は話を終えた。なお、今でも天体観測は続けているそうだが、以前ほどの情熱は失われつつあるそうだ。

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