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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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健康のために

 サトーさんが健康診断であまりよくない数値を受けたことから話は始まる。


「恥ずかしい話ですが肥満の問題があると言われまして……そんなことは言われなくても分かってはいるのですが、無視するには検査結果が少々不味いことになっていると言われたんです」


 運動は好きではないし、毎日満腹まで食べていた。太るというのも分かるのだが、ストレスがたまる以上仕方ないと思っていた。そんなことを言ったら会社が仕事の量を減らしてでもくれるというのか? 冷静に考えて見ろ、現実というものをこの医師は知らないのだろうか? 自分の勤めている会社が社員の健康に気をつかってくれるほどお優しいものではないと知っている。


 とはいえ、糖尿病を始めとして生活習慣病のリスクは小学校の頃から口を酸っぱくして教えられたものだ。なんというか、あそこまで恐怖を煽る教え方をされ続けて無視をするのはあまりに怖い。実体がどうであれ、少なくともそう教えられたのだ、別に体調が悪かろうと自覚症状はない、だが数字として出てしまった以上無視は出来ない。


 昔は割とよくある病気に恐怖感を植え付けていると思えてならないのだが、それでも小さい頃に曾祖父が糖尿病だったのは知っている。そのときは糖尿病という名前自体は知らなかったが、体調があまりにも悪いということははっきり覚えている。かなり苦しんでいた様子は知っていたが、それが具体的に糖尿病だと聞いたのは後になってからだ。


 そういうわけなので仕方なくではあるが軽い運動から始め、食事制限も無理のないくらいにすることにした。


 運動は単純に近所のスポーツジムで軽い運動を始めた。週一程度だが、やらないよりはマシだと言われた。不思議と運動をした後プロテインを飲むとなかなか空腹感が紛れた。ただ、プロテインを飲むだけだと単純に食事量が増える。プロテインにもカロリーはあるのだ、食事量を増やすとまたケチがつくかもしれない。


 そこで仕方なく朝食に丼物を食べていた食生活を、せめて一食だけでもと思いクッキー状の栄養食にすることにした。これもたくさん食べると意味は無いのだが、鉄の意志で我慢して、一食分だけを食べることにした。そうして気が付いたのだが、こういった栄養食には思ったより種類があることに気がついた。普段はこんなもの味気ないのだろうと決めつけていたのだが、栄養食品売り場には様々な種類の味や食感があった。


 いろいろなものを買っては食べてみて、一つお気に入りの物ができた。それはショートブレッドの中にカリカリとした食感があり、香ばしい匂いが漂う美味しいものだった。


 朝食をそれに置き換えてから体重はかなり下がってきた。いい感じに健康になってきたなと思い、その生活を続けようと思っていた。


 しかし、それに体が慣れてきた頃、その商品が突然売り場から姿を消した。他より美味しかったので店員に売り切れたのかと尋ねたのだが、理由は不明だが入荷が滞っていると聞いた。


 納得はいかないものの、売れ筋に適当に切り替えた。しかしなんだかしっくりこない、あの食感と香ばしさがないと物足りないのだ。


 そんなことを続けているとジムをサボる回数が増えてしまった。これはよくないと思っていたし、朝食に満足感がなくなったせいで一食分では足りなくなった。


 当然そんなことになれば落ちていた体重も元に戻ってくる。次の健康診断が憂鬱だなと思っていると、ドラッグストアに寄ったときあの製品が再び入荷しているのを見つけた。当然だがこれを買い、今度は売り場から消えても困らないように一気に複数個買い溜めをした。


 翌朝、朝食にそれを食べたのだが、全くの別物だった。香ばしさもカリカリ感も一切無い、ごく平凡な栄養食に成り下がっていたのだ。何故突然味が変わったのか? コストダウンのせいだろうかなどと思っていたのだが、ある日ネットを検索していると、動画サイトで人間が肉を食べるのは環境によくないという良くあるアジテーションが行われていた。ただ、その動画投稿者が他と違ったのは、『代わりに野菜を食え』という主張ではなく『これからは昆虫食の時代だ』と主張していたことだ。


 確信は何も無い。ただ不気味だというだけのことで根拠なんて求められても困る。ただ、それ以降朝食はパンとご飯を少し多めに食べるように切り替えた。おかげで体重の減りはやや遅くなっていったが、コメなら安心という信頼感には代えがたかった。


「私、来週健康診断なんですよね。また医師に文句を言われないといいんですがねえ」


 そう憂鬱そうに言うサトーさんに、私はなんと声をかけるべきかは分からなかった。

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