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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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配信と選挙

 アキさんは配信アプリを使用して配信をしていた。当時は出来るだけ安くあげようとしたのだが、そのせいで怖い目に遭ったそうだ。


「やっぱり配信ガチ勢がスマホだけでなんとかしようとするのはよくないですね」


 そう言った彼女は、配信を初めてした頃はスマホアプリにスマホのマイクを使用して配信をしていた。


「せめてオーディオインターフェース位は挟むべきでしたね……」


 苦々しくそう言って彼女は話を始めた。


 その頃は配信を普通にしていたんです。スマホを前に置いて視聴者に受けのいい話を探してリスナーが増えたら離さないようにして、そこそこの人数を集めるようになったんですよ。


 そうしてある程度続けていたら配信の時に投げられるギフトだけで、何とか贅沢をしなければ生活が出来るようにはなったんです。


 それで専業になるか悩んでいた頃に事件が起きたんですよ。その日も普通に日中配信をしていたんですけど……選挙期間だったのをすっかり忘れていたんです。気を抜いたとき突然選挙カーが候補者の名前を叫びながら近くを走り去っていったんです。うるさいなあと思ってからコメントを見て慌てて配信を切ったんです。忘れてました、小選挙区の候補者の名前が出たと言うことはおおよその住所が割り出せるんですよね……


 怖くはなったんですが、幸いそのときはそれなりに大勢住んでいる都市部に住んでいたので、候補者からおおよその場所が分かってもそれ以上の特定は出来なかったんです。一応エゴサもしたんですけど、おおよそどこの都市に住んでいるか位のことしか見つかりませんでした。だからセーフだと思ったんです。


 思えばあの時にしっかり防音室でも用意するべきだったのかもしれませんね。危ないところでしたよ。


 ただ、私は危機感が足りなかったんです。そのままスマホのみでの配信を続けたんです。


 冬が近づいてきた頃の夜のことでした。いつも通り配信をしていたのですけどそのとき拍子木の音がしたんですよ。『ひのよーじん』といいながらカチッカチと音を立てながら注意をして回っているようでした。そう言えば火事の多い季節だななんて呑気に考えていたんですけど、その日の配信を終えて朝になったとき、玄関のドアポストにチラシのようなものが入っていたんです。


 それを引き抜いて読んですぐ引っ越しを決意しましたよ。『見つけた』って書いてあるんです。そこで昨日の火の用心の言葉が思い出されたんです。地区でそんなことをしているなんて全く聞いていなかったんです。協力も頼まれたことが無いのに誰が勝手にやったのか……考えてみるとスマホを持ったまま歩いていたんだと思います。配信に乗ったタイミングから位置を推測したんでしょう。


 そこから急いで引っ越しをして、PCを買いました。きちんと防音の行き届いたマンションを借りて、その中に簡易の防音材を貼って配信をするように変えました。おかげで今のところ特定はされていないんですよ。何か起きたときのために指はミュートボタンに常に乗せるようになっちゃいましたけどね。


 そう言って彼女は微笑んだ。なお、この話は彼女の位置を推測されないよう多量の嘘が混じっている。

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