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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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枯れ木の理由

 コージさんの実家は山の中の集落にある。最近そこで奇妙なことが起きたそうだ。


「別に後味が悪いって訳じゃないんですが……」


 あれはとある秋のことでした。最近秋って短くなっているような気がするんですが、まあ秋っぽい気候の頃と思ってもらえればいいです。


 秋になると紅葉で山が赤く染まるんですよ。ただ、その年は少し奇妙な事があったんです。


 山はほぼ全部真っ赤になったんですが、一カ所だけすっかり葉の落ちてしまった木が集まった場所があったんですよ。


 それが村の共同墓地でして……ほら、不気味でしょう? でもその年に何かあったわけでもないんですよ。もちろん山の中といっても獣の食害とかでもないです。村の皆がその有様を見て不気味に感じたんです。


 たまたまその辺の木に何か病気が流行ったとか、適当に理由をつけることはできましたけど、墓地の周辺の木なのであまり探ろうという人も居なかったんです、ほら、いかにも不気味じゃないですか?


 一応その墓地を管理している坊さんに来てもらったんですけど、得に何かあるわけでもないし、もし何かあったとしたら、それは寺では無く警察の仕事だって言われたんですよ。つまりは心霊的なものじゃないってことですね。


 それで一安心……とはいきませんよねえ。そりゃ森の一部が枯れただけなら気にしないかも知れませんが、それが墓の周囲だったというだけで不気味さは7割増しくらいになりませんか?


 その不気味な現象は理由を見つけられないまま冬になったんです。その年の冬は少し事件が起きまして、小火が出たんですよ。死者は出なかったんですが、問題は火元です。


 いくら小さい村とはいえ、消防に来てもらってきちんと火元を探してもらったんですよ。そうしたら枯れ葉が火元だって結論が出たんです。乾燥した地域だと風に吹かれた枯れ葉がちょっとした高温が原因で出火することもあるらしいんですが、日本ではとても珍しいということでした。


 そうなると枯れ葉のほとんどが墓の周囲の木から出たものなんで、木を伐採してしまおうとなったんですよ。一応あっさりとその木は倒してしまいました。


 それで、木を刈ってから、きちんと根まで取っておかないとまた生えてくるので、念のため切り株を全部掘り返して完全に取り払うつもりだったんです。


 ただ、木のあったところを掘って皆驚きましたよ。根が均等に伸びず一つの場所に向けて進んで行っていたんです。墓の周囲を囲った木々が墓の方へ向けて根を張っていたんです。そこで村の人が『最近村に死人が出ていなかったな』と言ったんです。木が伸びたのは墓の方で、栄養が断たれたんだとしたら……その栄養源は考えたくないですよね。


 それから村で死者が出てもその墓地には埋葬せず、町の方の共同墓地を確保したそうで、それ以来元墓地の周辺には草一本生えていないそうです。一応解決はしているんですが、あの木々は一体何人の死者を栄養に育ったのか考えると怖くなるんですよ。


 そう言って彼は話を終えた。最近帰省していないので謝礼を使って帰省するつもりだと彼は言っていた。そのため、その墓地が今どうなっているかよかったら教えてほしいと頼んでおいたところ、数日後に殺風景な墓地が写った写真が送られてきた。墓地では草取りをするのが一般的だと思うのだが、その写真に写る墓地には草一本生えていなかった。

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