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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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お供えと好き嫌い

 お盆の時期、ハナさんは実家に帰省をしていた。そろそろ大学も忙しくなってくるので長期の帰省は出来なくなるだろう時期のことだ。


「ウチのおじいちゃんって気難しい人だったんですよ」


 お酒と言えばビールか日本酒、毎晩のように浴びるほど飲んでいたので、素面の時の記憶の方が少ないくらいだ。ただ、現役だった頃は今ではあまり好かれない飲み会で接待をして活躍していたらしい。そのときは我儘を言わず、ウイスキーが出てこようがワインが出てこようが機嫌を変えず飲んでいたらしい。


 そんな人が長生きするかって話ですよ。タバコも結構嗜んでましたからねえ……まああの頃はタバコがまだ安かったので仕方ないとも思うんですけど。


 高校の頃に亡くなっちゃいまして、思い出深い人でしたよ。案外義理堅いですし、厳しかったですけどこちらの道理が通っているならきちんと味方だってしてくれました。


 だから葬儀の時にはそれなりに泣いたんですけどね。


 それでお盆に帰省したんですが、墓参りに行くと言うことなので、私はその前にスーパーに寄って缶ビールの小さい缶を買ってからお墓に向かいました。おじいちゃんが歓迎しているかのように晴天でした。時期が時期だけに晴天なのでそれなりに暑かったんですがね。


 それでビール缶をお供えして、家族もそれぞれ線香などを祀っていきました。私はそれで満足していたんです。


 ただ、帰ると母が仏壇の掃除をしていたんです。そこで私に気づいたのか、『お仏壇に供えるビールが無いから買ってきて』と言われたんですが、お使いにしてもまだビールが変えない年齢だったので、それは無理だって答えたんです。


 そうしたら『何か飲み物を買ってきてくれる、何も無いよりマシでしょ?』と言われ、おじいちゃんへの恩義は感じていたので近所のスーパーまで足を運んで何にしようかと思ったのですが、思い出からおじいちゃんがまだ働いていた頃、朝にコーヒーを一杯飲んでから出ていったのを思いだしたんです。


 たぶん集中力のためのカンフル剤みたいなものなんでしょうが、あれなら良いかと思って缶コーヒーを一本買って帰ったんです。仏壇に供えて、お茶の間でテレビを見ていた母に、『仏壇にお供えしておいたよー!』って言ったら『ありがと』とこちらも見ず返答してきたんです。


 実の親なんだからもう少し関心を持てば良いのにとは思いますけど、そのままその日は終わったんです。翌日には大学のところへ帰るという日に仏壇を拝んでいこうと思ったんですが、缶コーヒーが開いてるんですよ。少し減っているようなので誰かが飲んだのかとも思いましたがそれもおかしいですよね?


 なので母に事情を説明すると、開いている缶を見て、『おじいちゃんはコーヒーをブラックにこだわってたからねえ。よかったらアンタがブラックを買ってきて供えてくれない? たぶんその方があの人も喜ぶでしょ』と言われ、スーパーに走って今度は完全にミルクも砂糖も入っていないブラックコーヒーを買って帰りました。それを仏壇に供えたんですが、大学に帰る前に仏壇を見るとコーヒーは空っぽでした。そっと手を合わせて帰ってきたんですよ。


 それと……謝礼をくださるとのことなので、もうお酒を買える年になりましたし、それで好みに合いそうなお酒でもお供えしようと思っています。


 彼女はそう語ったので、私はそこそこ美味しい日本酒の定価を調べ、少し多めに謝礼を彼女に渡した。

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