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怪奇譚集「擬」  作者: にとろ


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幽霊と本

 ナカムラさんはこの話を愉快そうにしてくれた。怪談ではあるが怖くはないそうだ。


「幽霊なのに人間臭さってぬけないものなんですね」


 そう語る彼は本の蒐集家だ。


 本と名の付くものなら何でも集めてるんですよ。文学はもちろん、ライトノベルからゲームの攻略本まで集めてますよ。


 え? ゲームの攻略本を集めてどうするかって? 案外面白いんですよ、昔のゲームの本とか検証してそれを発表する人がほぼ居ませんでしたから、嘘情報が修正もされずずっと残っているんです。まるで歴史の資料みたいなものですよ。ほら、鎌倉幕府だって『いいくに』から『いいはこ』に変わったじゃないですか。


 そういう昔は常識だったものを今の目で見るとなかなか面白くって……それはともかく、今回は別の話でしたね。


 家の中なんですが本棚に本が収まらないんですよ。そうなるとどうなるかといえば、本を床に積み始めるんですよ。いや、家が広い人なら別ですよ? 普通の家なんでスペースを何とか確保しているんですよね。


 床に置いているとシリーズものの管理が大変なんですよ。結構本って重いですし、床に積んでいくにしても、完結したシリーズを下に置いて新作が出るものを積みやすくしたりしているんです。


 それで一応管理していたんですけど、ある日書斎に入ったら違和感に気づいたんです。何かおかしいと思ったら、積んである本のタワーの一つが二つに分かれていたんです。一本が二本になっていたんですよ。その一番上の本を見てみると、長期シリーズのラノベでした。おかしいなとは思ったんですけど、何かの間違いだろうと思ってたんです。


 それから放置していたんですが次第にシリーズが一冊ずつ隣の本の上に積まれていくんです。まるで誰かが読んでいるみたいじゃないですか。部屋に鍵でもつけようかと思ったんですが、無くなったものも無いですし、そこまですることないかなって放置していたんです。


 それからも時々本が動くことはあったんですけどね、大抵シリーズを読み終わったらきちんと本のタワーを元に戻しているんですよ。玄関はきっちり鍵をかけていますし幽霊か何かかなって思うんです。


 根拠ですか? 実は今住んでいるところって事故物件なんですよね。借家で書斎が付くほど大きいのに、相場よりずっと安かったので即決したんですよ。まあ書斎の本棚にも結局本はおさまりきらなかったわけですけど。


 何があったかは知りませんよ、告知事項でしたっけ? 一応読んでもらったと思うんですが、幽霊なんてどうでもいいかなって思って決めちゃいましたから。


 ああ、一応配慮はしているんです。きちんと書斎には読まれるジャンルを考えて子供の霊なんだろうと思って子供向けの本を置いています。始めは絵本を置いていたんですが、イマイチ不評だったのか積んであるラノベの方に手を出していたので私の趣味に合うラノベを買ってその霊らしきものに趣味を押しつけているんですよ。


 本が読まれた跡があると『やった!』ってほくそ笑みますよ、なかなか趣味が合う人って居ませんから、幽霊だって自分の趣味に染め上げていくのは結構楽しいんですよ。


 そう言ってナカムラさんは豪快に笑った。体格がよく筋肉質なのに読書家という何とも変わった人だが、ナカムラさんは引っ越す気は全く無いらしい。

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