4. 隣の席の男の子がかっこよくなった件について
おかしいです。
隣の席の太郎くんがかっこよくなっています。
太郎くんはとても不思議な人です。
真面目に授業を受けているかと思えば、目を開けたまま寝ていて、真剣にノートを取っているかと思えば、ノートの端に自作の歌詞? みたいなものを書いていたり。
休み時間は誰とも話すことなく机で寝ていて、お昼休みはどこかに消えます。
だけど、誰とも群れずに自分を取り繕わない彼は私にとって魅力があり、実は少しだけそんな彼に心が惹かれています。
私、蛍ケ野ほのかは緊張しいなので、男の人と話すことができません。
そんな私でも、太郎くんとだけはありのままの私で話すことができます。
優しい対応をされたとかではありませんが......逆に彼らしい対応をしてくれることがとっても嬉しいのです。
1日に1回は太郎くんと話すことが私の楽しみです。
私にも女の子の友達がいない訳ではないのですが......、実はちょっぴり青春しています。
太郎くん、絶対小説とか好きだと思います。読んでいるところは見たことないですが。
できれば同じ文芸部に入ってほしいなって思っていて......、勇気を出して誘おうとは思っているのですが、全然話題を出せずにいます。
今日も太郎くんと話せるかな。今日はどんな寝癖だろう。いつも顔洗ってきてるのかな。
今朝もそんな思いを抱きながら登校しました。
だけど、様子がおかしいのです。
太郎くんが、かっこよくなっているのです。
顔というか、ふとした仕草というか、雰囲気というか、もう全てにおいて別人レベルです。
教室に入ってきた時は、誰もが彼を太郎くんと気付きませんでした。
私の隣の席に座った彼は、見違えるほどに清潔感のある青年になっており、なんと初めて彼からおはようの挨拶をされたのです。
しかも、目を見てです。初めて目が合いました。
その目も今までにないぐらいに開いていました。
クラス中が騒ついていましたが、どうやら彼は気づいていません。
私もドキドキが止まらずに、彼の方を見ることすらできませんでした。
授業中、太郎くんがこっそり話しかけてきました。
急な出来事に、私はつい思いっきり目を逸らしてしまいました。嫌な思いをさせてしまっていたらどうしましょう......。
だって、真剣な眼差しで授業を受ける太郎くんが、あまりにもかっこよすぎるから......。反則です。
そういえば、なんて言っていたんでしょう。
すみません、言葉が耳に入ってきませんでした。
太郎くんと私は同じ世界で過ごしている仲間なのかなって、勝手に心を許していましたが、どうやら私の思い違いでした。
本当の彼はこんなにもかっこよくて、今にもたくさんの友人に囲まれそうな人だったのです。
かく言う私は、変わることができずに臆病な人間のままです。
本当にこのままでいいのかな。
太郎くんが遠くに行ってもいいの?
......それは、嫌だ。
私も勇気を出して変わらなきゃ。
それでもかっこよくなった太郎くんに釣り合うとは微塵も思っていませんが、せめて普通にお話ができる存在にはなりたい。
頑張ったら、明るくなって、可愛くなったら、褒めてくれるかな?
太郎くんに可愛いって言われたら......。
だめです、想像だけで顔が茹で上がりそうになりました。
太郎くん、急にギャップを出してきて、かっこよくなってずるいです。
見ててください、私ももっと自分に自信を持って、太郎くんと仲良くなってみせます。
そうすれば、自分のことも好きになれますでしょうか。
太郎くん、私、太郎くんの友達になれますか。
明日はきっと、私からおはようって挨拶しますね。