日はまた昇る
宵の口から続いた会話は、夜を越えて、やがて白々とした朝を迎えようとしていた。
紅霧に包まれていたかのような幻想郷の夜も、少しずつその輪郭を現し始める。妖怪の賢者、八雲紫の屋敷の奥深く。蝋燭の灯りがまだほのかに揺れる中で、マクファーソン准将は正面に座る紫を見据えていた。
紫は静かに扇を閉じ、真剣な眼差しを彼に向ける。
「あなたは、この地に来て、何を見て、何を思いましたか?」
マクファーソン准将は目を閉じ、一瞬だけ過ぎた日々を思い返した。霊夢たちとの邂逅、戦闘、対話、そして心を揺さぶられる真実の数々。彼の胸には、既に決して軽くはない決意が宿っていた。
やがて、彼はゆっくりと口を開いた。
「私が今、やるべきことは――この地を破壊から守ることです!」
その声は静かだが、鋼のような決意に満ちていた。
「戦火に巻き込まれてきた人々、そしてこの地に生きる者たち。その両方に敬意を払うなら、我々がすべきは征服でも支配でもない。共に守り抜くことです」
紫は微かに目を見開き、そして少しだけ口元をほころばせた。
「……ええ。ようやく、幻想郷に来た“兵士”が、“守る者”に変わる時が来たのかもしれないわね」
それは宣誓のようでもあり、決意の共有でもあった。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、マクファーソンの肩を照らしていた。新たな一日が始まろうとしている。世界の在り方を巡る対話は終わらない。しかしこの一夜、確かな信念が交わされたことは、幻想郷にとってもまた、ひとつの転機であることに違いなかった。
アレン少佐は魔理沙に深く礼を述べると、静かに基地へ向けて歩み出した。
ラミレス大尉も華扇に感謝の言葉を伝え、同じく基地への道を進む。
また、鬼頭艦長・伊吹副長・マルク大尉、パク大尉、スターリング少佐、ナイジェル中佐、山森一佐、リ・テハン少尉、シュルツ中佐、ニコ中佐達も、それぞれの任務地へ向かい歩みを始めた。
彼女たちはその姿を見送りながら、背中に込められた強い意志と覚悟を確かに感じていた。
やがて彼らの姿は視界から消え、静かに新たな一日が動き始めるのだった。
静かに去っていく背中を見つめながら、彼女たちはそれぞれの想いを胸に抱いていた。
霊夢は静かに言葉をつぶやく。
「みんな、ちゃんと帰ってきてほしいの……」
魔理沙はその言葉に頷きながら、
「戦うってことは、守ることでもあるんだな……」
依姫は深く息をつき、
「誠実に、真っ直ぐに向き合う人たち。だからこそ、私たちも応えなければ」
そんな思いが幻想郷の朝の空気に溶け込んでいく。
彼らの戦いはまだ続く。
しかし、共に語り合い、理解し合ったこの時間が、確かな力となって未来を照らしていくのだ。
日が昇り、幻想郷の空が青く澄み渡る中、彼女たちは静かにそれぞれの思いを抱いていた。
霊夢は胸に手を当ててつぶやく。
「彼らが無事でありますように……」
魔理沙は少し照れくさそうに笑いながら言った。
「ま、あいつらならきっと大丈夫だ。強いからな」
依姫は穏やかな表情で空を見上げ、
「誠実に、真っ直ぐに生きる人たちの背中は、本当に美しいわね」
それぞれの胸に刻まれた言葉と覚悟は、これからの長い日々を支える光となる。
そして、彼らが去ったあとも幻想郷は静かに息づき、日常がゆっくりと流れていくのだった。