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滞在先での会話と一時


それぞれ招かれた先――博麗神社、霧雨魔法店、紅魔館、そして冥界や守矢神社など――で、彼らは一晩を過ごすこととなった。


焚き火を囲んで語らう者もいれば、静かな茶会に招かれた者もいる。

日常の些細な話から、これまでの任務で得た経験談、互いの世界にまつわる雑談まで、話題は尽きない。

日頃から多くの出来事を経験してきた彼らの言葉には、重みと同時にユーモアがあり、どの語り口も興味深く、どこか心に残るものばかりだった。


幻想郷の住人たちは、その一つひとつに耳を傾け、時に驚き、時に笑いながら、静かで温かな夜を共に過ごしたのである。


夜が更け、風がやさしく木々を揺らすころ。幻想郷の空には星々が瞬き、外の世界から訪れた者たちと住人たちは、それぞれの場所で静かな時間を分かち合っていた。


博麗神社では、霊夢が湯を沸かしながら言う。

「ねえ、あなた。外の世界って、本当に忙しいのね。こっちは毎日同じように見えて、案外いろんなことがあるけど……あなたたちの話を聞いてると、世界って広いって思うのよ」


朝田三佐は穏やかな笑みを浮かべ、湯呑みを手に答えた。

「ええ、広くて、騒がしくて、けれど……守るべきものは、どこにあっても変わらないと、私は思っています」


霧雨魔法店では、魔理沙が椅子にふんぞり返りながら言った。

「なあ、あんた。戦いってやつも、魔法と似てる気がするよ。勝つだけじゃ意味がない。守りたいもんがあって初めて、本気になれるんだろ?」


アレン少佐は帽子の鍔を軽く指で押さえ、少し照れたように笑った。

「……そうですね。魔理沙さんのおっしゃる通りかもしれません。僕たちが武器を取る理由は、勝つためではなく、守るためですから」


紅魔館では、ナイジェル中佐とスターリング少佐が咲夜に丁寧に礼を述べ、静かな広間にて紅茶を楽しんでいた。

レミリアが嬉しそうに言う。

「あなたたちは、騎士のようだわ。武力だけじゃなく、誇りと矜持がある」


スターリング少佐は控えめに笑い、ナイジェル中佐が代わって答える。

「恐縮です、お嬢様。我々はただ、与えられた任務を誠実に果たしているだけです」


「それが一番難しくて、一番尊いことよ」と咲夜が添えると、誰ともなく静かに頷く声が重なった。


そしてそれぞれの夜が、優しく、確かに流れていく。

戦いを越えてやってきた者たちと、幻想郷に生きる者たち――その交流は確かな絆となって、静かに、しかし確かに積み重ねられていった。



守矢神社では、山の静けさと夜風の涼しさが心地よく、山森一佐と神奈子、諏訪子、早苗が縁側に並んで腰を下ろしていた。


「あなたの話……震災の時のこと、すごく印象に残りました」

そう言ったのは早苗だった。真っ直ぐな瞳で山森一佐を見つめている。


「ありがとうございます。あの時、自衛官として何ができたか、自問自答の日々でした」

山森は空を見上げながら答える。「ですが、あの経験が教えてくれたのです。力とは、誰かを助けるためにあるものだと」


諏訪子がぽつりとつぶやく。「あんた、強いな。でも……優しい」


神奈子は深く頷いた。「幻想郷には、そういう"強さ"を持つ人間が、必要なのかもしれないわね」


一方、地霊殿では、シュルツ中佐がこいしとさとりの姉妹と対話していた。

「あなたの言葉には嘘がない。心の底から語っているのが伝わってくる」

さとりの言葉に、シュルツ中佐は静かにうなずく。


「過去を悔い、反省し、それでも歩む。それが私たち兵士の、せめてもの誠意だと思っております」


「だから、あなたはここに招かれたのよ」とこいしが笑い、さとりもうなずいた。


天界では、パク大尉と比那名居天子が並んで座っていた。

彼はこれまでの任務や葛藤、韓国という国で軍人として背負ってきたものを淡々と語る。


「……私は決して英雄などではありません。ただ、使命があった。守るべき人々がいた。それだけです」


天子はふっと口元を緩めた。「ふうん、偉ぶらないところ、ちょっと気に入ったかも」


地獄では、ニコ中佐が四季映姫と対峙していた。彼の表情は真剣そのもので、彼女に静かに問いかける。


「我々の罪は、許されるべきではないことは理解しています。ですが、それを背負い、なお向き合おうとする姿勢を……あなたはどう見ますか?」


映姫は厳しい眼差しを一瞬だけ緩めた。


「罪を悔い、責任を果たそうとする者を、私は決して拒みません。それが、裁く者の務めでもあるのです」


そして冥界では、マクファーレン中将が過去の記憶を振り返りつつ、妖夢と幽々子に語っていた。


「イラクで見た現実は、ただの戦争ではなかった。人の愚かさと希望の両方があった。私はその記憶を、忘れません」


妖夢が静かに言う。「その記憶が、あなたを今のあなたにしているんですね」


「ええ、そうです」マクファーレン中将は頷いた。「向き合い、活かす。それが、過去と共に生きるということです」


幽々子はふわりと笑ってつぶやいた。「あなた方が来たから、幻想郷に春が訪れているのかもしれませんね……」


そして夜は明けていく。

互いの違いを越え、心と言葉を交わし合った夜。

それは、幻想郷にとっても、外の世界の者たちにとっても、忘れがたい一夜となった。




静かな夜、魔法の森の一角にあるアリスの館では、柔らかなランプの光が部屋を暖かく照らしていた。マルク大尉は、アリスの招待を受け、そこで一夜を過ごすことになっていた。


アリスは紅茶を差し出しながら静かに口を開いた。


「あなたの語った話、全て聞きましたわ。特に、戦場での判断……その重みと孤独、よく分かります」


マルク大尉は、少し照れくさそうに笑った。


「はは……我ながら、言葉にするのは苦手なんですが。こうして静かな場所で、誰かに聞いてもらえるのは……ありがたいですね」


アリスは彼の視線を受け止めたまま、ゆっくりと頷く。


「あなたのような方が、命令だけで動くのではなく、考え、悩みながらも人々を守ろうとする……私は、そういう兵士こそ、本当に尊い存在だと思います」


マルクは言葉を失いかけたが、少し間を置いて、まっすぐに言った。


「……ありがとうございます。幻想郷に来てから、多くのことを学びました。正しさは一つではない。だからこそ、誠実でありたい。そう思うんです」


「ええ。その気持ち、忘れないでくださいね。幻想郷はあなたたちを受け入れつつあります。あなたのような人の存在が、皆の心に届いているのですから」


窓の外には、静かに霧が漂い、夜の森の気配が時折風に乗って運ばれてくる。


ふたりはそのまま、遅くまで紅茶を飲み交わしながら、言葉少なに夜を過ごした。


その静けさは、どこか心地よく、戦場の喧騒を忘れさせてくれるような優しい時間だった



夜の帳が降りる頃、妖怪の山の宴はすでに賑わいを見せていた。山の深部にある宴会場に、伊吹萃香の呼びかけで集められたのは、鬼頭艦長、伊吹副長、そして萃香や星熊勇儀ら鬼たちだった。


酒樽が山のように積まれ、盃が次々と満たされていく中、鬼頭艦長は慎重な面持ちで盃を手にした。


「この場での交流も任務の一環と理解しておりますが……これは、なかなかの戦場ですね」


そう苦笑を浮かべながら、ぐいと一口。周囲の鬼たちは豪快に笑う。


一方、伊吹副長はすでに顔を赤くしながら、苦しげな声を漏らした。


「本官は……もう、飲めません……っ」


その言葉に萃香が、どん、と手を叩き、笑いながら叫んだ。


「なに言ってるんだい! あんた、伊吹って苗字が一緒なんだろ? だったら飲め飲め! 飲んで語って強くなれ!」


鬼の論理はめちゃくちゃだ。しかし、そこに悪意はなく、ただただ底抜けに明るい空気が流れていた。


伊吹副長は苦笑しながらも、再び盃を手に取る。周囲からは「いいぞ副長!」と歓声が上がった。


鬼頭艦長は、その光景を見ながらふと呟いた。


「戦場ではない、こういう時間が、案外人を強くするのかもしれませんな……」


勇儀が大きく頷きながら酒を注ぎ足す。


「そのとおり。酒と語らいは、力の源さ。あんたたち、強くなるよ。いや、もう十分強いかもしれないけどね!」


酒と笑いと、時折交わされる真面目な言葉。それは不思議な一体感を生み、異なる世界から来た人間と幻想郷の鬼たちの間に、確かな絆のようなものを育てていくのだった。

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