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第71章『語られる言葉』


幻想郷の空は、少し早い夜の帳に包まれようとしていた。

その静寂の中、紫の屋敷の扉が、音もなく開く。


マクファーソン准将は、躊躇うことなくその中へと足を踏み入れた。

背筋を伸ばし、鋭くも澄んだ眼差しで屋敷の奥に進む。


待っていたのは、八雲紫――境界を司る賢者。


「あなたを呼んだのは、他でもないわ」

その声は、厳しさと優雅さを兼ね備えた響きを持っていた。


マクファーソンは帽子を外し、一礼した。

「理由は、想像がつきます。ですが……言葉で確かめたい」


紫はわずかに微笑む。そして二人は、深い対話へと沈んでいった。


一方その頃、霧雨魔理沙は自宅の一角に、アレン少佐を招いていた。


「……なあ、アレン。あんたたちは……何のために戦ってるんだ?」


その問いは、飾り気のない、だが本気の声だった。


アレンはその目を見つめ、答える前に息をついた。


「自分は……人を守るために、戦ってる。だけど、戦いの意味は常に問い直してるよ。魔理沙、君たちの姿を見て、それをより強く思ったんだ」


木造の家の中で、小さな焚き火の明かりが二人の影を壁に落とす。


華扇の屋敷には、ラミレス大尉の姿があった。


「君はまだ若い……だがその瞳は、戦場を知る者のそれだわ」


華扇の静かな語りかけに、ラミレスは少し照れながらも、真剣に頷いた。


「自分の任務は終わらない。でも、俺はこの場所を見て思ったんだ。戦わない強さも、あるんじゃないかって思います」


二人の間には、戦と平和を巡る対話が始まっていた。


守屋神社では、山森一佐が静かに語っていた。


「……災害の現場で、私は人の命がどれだけ脆いものかを知った。だからこそ、戦わないで済む道を、模索したいんです」


神奈子や諏訪子、そして早苗が静かに耳を傾ける。


「あなたの言葉には力があるわ。だけど、それは暴力じゃない。信じられる力よ」


博麗神社では、霊夢と朝田三佐が向かい合っていた。


「ねえ、朝田さん。あなたはどうして自衛官になったの?」


「――誰かを守るって、言葉じゃないんです。日々の選択の積み重ねです。……霊夢さんは、何のために戦いますか?」


霊夢は、言葉に詰まりながらも、静かに頷いた。


地霊殿では、シュルツ中佐がさとりとその妹・こいしに向き合っていた。


「私の心を読めるなら、見てください。……私は、あの日、罪を見逃さなかった。だからこそ、ここに来た意味がある」


さとりは、目を閉じて彼の心を“読む”。


「――あなたは、まだ過去と向き合い続けているのね。でも、それがあなたの“正義”なんでしょう」


天界では、比那名居天子のもとに、韓国軍のパク大尉が訪れていた。


「あなたは退屈を嫌うと言ったけど……私は、退屈な平和が一番だと思うんです」


「ふーん……あなたみたいな軍人がそんなこと言うなんてね。気に入ったわよ、その皮肉」


二人の笑いが、少しだけ、天界の空気を柔らかくした。


萃香たちのもとには、護衛艦「きりさめ」の鬼頭艦長と伊吹副長が招かれていた。


「おい艦長、ここの酒、強くないっすか……?」


「そう簡単に酔ってたまるか。伊吹、これも外交のうちだぞ」


伊吹萃香はケラケラと笑いながら、鬼頭に徳利を差し出す。


「ねえ、あんたたちは鉄の船でやってきたんだってね。その船で、誰を守ってるの?」


鬼頭はその問いに、静かに杯を置いた。


「……全てだ。日本の民も、同盟の仲間も。そして……今は、この幻想郷もだ」



【紅魔館 応接間】

午後の紅茶の香りが静かに立ち上る中、紅魔館の応接間に、軍人らしからぬ落ち着いた雰囲気が流れていた。


赤い瞳を細め、レミリア・スカーレットは優雅に微笑んだ。


レミリア:「あなた方、お呼びしてよかったわ。……紅魔館を襲ったあの連中に、迅速に対応してくれて本当に感謝しているの」


ナイジェル中佐:「いえ、お嬢さん。我々は任務を全うしたまでのことです。貴女がたのような方々に“感謝”されるのは、少々面映ゆいですね」


レミリア:「ふふ……やっぱり素敵ね。あなた方、どことなく“騎士道”に通じるものがあるわ。命を懸けて誰かを守るその姿勢、あれはまさに“誉れ高き盾”よ」


スターリング少佐:「騎士道、ですか……我々のような兵士に、そんなお上品な言葉は似合わないかもしれませんよ」


十六夜咲夜(優雅に微笑みながら):「いいえ、少佐。その謙虚さこそが、騎士の心に最も通じるものではありませんか? 誇りを掲げつつ、誇らずに在る――それが、真に強い者の姿だと私は思います」


ナイジェルとスターリングは一瞬目を見合わせると、わずかに苦笑しながらうなずいた。


ナイジェル中佐:「……我々にとっては、過分なお言葉です。ですが、貴女方の信頼に応えられたのなら、それ以上の名誉はありません」


レミリア:「なら、もう一度紅茶を淹れてあげるわ。今度は少し濃いめにして……あなた方の心の強さに、乾杯したいの」


スターリング少佐:「――ありがとうございます、レミリアさん。光栄です」


咲夜は静かに一礼し、再び銀のポットを手に立ち上がった。紅魔館の午後は、紅と静寂に包まれたまま、穏やかに流れていく――。



【地獄――閻魔庁 審問の間】

その空間は静寂に満ちていた。

鈍い光に照らされた石畳の上、整然と立つのは、黒き軍服の男――ニコ・ヴァルナス中佐。

その視線の先には、長椅子に座す一人の少女。緑と白の衣を纏い、手には棒秤を携える――四季映姫・ヤマザナドゥ。


ニコ中佐:「……四季閣下。我々の罪が許されるべきものでないことは、既に理解しています」


四季は、無言のまま秤を傾けた。左右どちらにも沈まぬその針に、彼女の沈黙が重なっていく。


ニコ中佐:「けれども、私は――我々は、それを背負い、そして向き合い続ける覚悟があります。

……この姿勢に、意味はあるとお思いでしょうか?」


しばしの間、静寂が支配した。

やがて四季映姫は、ゆっくりと瞳を開いた。


四季映姫:「罪は、消えることはありません。過去に流した血は、誰かの記憶に、永遠に刻まれるものです。

……しかし、それと向き合う者を、私は裁きません。むしろ――その“覚悟”こそが、償いの第一歩となるのです」


ニコ中佐の瞳が、わずかに揺れる。


四季映姫:「あなたが何をしてきたか、私は知っています。

けれど、今ここで問われているのは、“過去の結果”ではなく、“現在の姿勢”なのです。

……あなたが背負い続ける限り、あなたの歩みは罪に縛られながらも、決して無意味ではないでしょう」


ニコ中佐:「……ありがとうございます」


四季はゆっくりと立ち上がり、秤を掲げた。


四季映姫:「裁く者としてではなく、一人の“地上を見守る者”として、あなたに願います。

――どうか、背負ったものを忘れず、それでも前に進んでください」


ニコ中佐は静かに頭を下げる。

彼の軍靴が石畳を踏みしめる音が、再びこの審問の間に響く。

赦しではなく、ただの確認。そして、決意の再確認。


それで十分だった。 



【魔法の森 アリスのアトリエ】

窓から射す柔らかな陽光が、書棚や糸巻き人形の影を机に映していた。

アリス・マーガトロイドは、紅茶を差し出しながら一人の来訪者に向き合う。

座すのは、グレーの制服をまとった欧州系の青年将校――マルク・ヴァイス大尉。


アリス:「……あなたの語った話、全部聞きましたわ。戦場でのこと、そして、あなたが“なぜ今も戦っているのか”という理由も」


マルク大尉は、どこか居心地悪そうに頬をかいた。


マルク大尉:「はは……正直、我ながら情けない話だと思っていたんです。誰かを守れなかった過去、命令を守っても救えなかった人たち……。それでも、“これしかできない”と思って、続けているだけで」


アリスは視線をそらさず、真剣な眼差しで返す。


アリス:「情けなくなんてないわ。むしろ、それほどまでに傷を負いながら、今も剣を捨てずにいるということ――それは、“強さ”よ。誰かの命令ではなく、自分の意思で戦っているのでしょう?」


マルクの肩が僅かに揺れる。


マルク大尉:「……そう、かもしれません。だけど、時々分からなくなるんです。戦う理由を……」


アリス:「だったら、思い出させてあげるわ。幻想郷には、そういう“見失ったもの”をもう一度見つけさせる力があると思っているの。私自身、そうだったから」


しばらくの沈黙の後、マルクは微笑んだ。


マルク大尉:「あなたに呼ばれて、少し緊張していました。……でも、来てよかった。こうして誰かと、まっすぐ話すのは久しぶりです」


アリス(少し照れたように):「……私もそう。戦争の話ばかりでは疲れるもの。だけど、“戦っている心”には、耳を傾ける価値があると思っているの」


窓辺に人形たちが音もなく動き、紅茶の香りが再び満ちていく。

それは一つの対話――“理解”の始まりだった。


【永遠亭 庭園の縁側】

澄んだ風が竹林を揺らし、鳥のさえずりが遠くから聞こえる。

縁側に腰掛けるのは、四人の妖怪――蓬莱山輝夜、藤原妹紅(永琳)、兎のてゐ、そしてイナバ。

そこに招かれたのは、落ち着いた表情で軍服を着た若き将校――リ・テハン少尉。


輝夜が静かに問いかける。


輝夜:「なぜ、あなたは軍に入られたのですか?」


リ・テハン少尉はゆっくりと息を吐き、視線を庭の竹林へ向けた。


リ・テハン少尉:「私が軍に入ったのは、ただ一つの理由です――国を、そして家族を守りたかったからです。

……CIAに入るまでの経緯も、話します。実は私は特殊情報部に志願し、情報収集と対テロ作戦に携わってきました。常に“見えない敵”と戦う覚悟を持っていました」


永琳が眉をひそめるが、好奇心を隠さない。


永琳:「その“見えない敵”とは……?」


リ・テハン少尉は小さく頷く。


リ・テハン少尉:「様々なテロリストや過激派の動向、それに伴う情報戦です。紅魔館襲撃事件にも、ジュアン大尉率いる部隊の一員として参加しました。あの時は……厳しい戦いでしたが、任務を全うしました」


てゐが軽く首をかしげて笑う。


てゐ:「そんなに辛いことばかりじゃ、精神がもちませんよね?」


リ・テハン少尉:「ええ。ですが、それを乗り越えてこそ、守るべきものを守れる。私はそう信じています。だからこそ、ここで皆さんと話し合える機会を大切にしたいのです」


イナバが優しい目を向けて言う。


イナバ:「戦いの中にあっても、真っ直ぐな心を持っているのは素晴らしいことです。私たちも、あなたのような覚悟を理解したいと思っています」


静かな庭園に、言葉の温かさがじんわりと広がる。

リ・テハン少尉の語る過去と決意は、永遠亭の空気に溶け込み、確かな絆の芽吹きを予感させていた。



【冥界・幽々子の屋敷】

静かな冥界の館。窓の外には朧げな霧が立ち込め、どこか神秘的な空気が漂う。

その一室で、マクファーレン中将は落ち着いた表情で幽々子と向き合っている。

マクファーレン中将は、マクファーソン准将が最も信頼する将官の一人であり、同じく歴戦の指揮官だった。

その背中には、決して軽くはない過去が刻まれている。


幽々子は静かに微笑み、言葉を紡いだ。


幽々子:「あなた方がここに来たからこそ、幻想郷に春が訪れているのかもしれませんね」


マクファーレン中将はその言葉に深く頷き、歴史の話を交えながら真摯に語り始める。


マクファーレン中将:「歴史は繰り返すものと言われます。幾度も争いが続き、多くの命が失われてきました。私もその中で、指揮官として多くの決断を迫られてきました。

その決断の重さは、時に心を深く傷つけるものです。しかし、それでも守るべきもののために戦い続けるしかありません」


その時、傍らに控えていた妖夢が口を開いた。


妖夢:「中将様、もしよろしければ、その過去や経験についてお聞かせ願えますでしょうか。私たちは、あなたのような強い心の持ち主から学びたいのです」


マクファーレン中将は一瞬の間を置き、静かに目を細めた。


マクファーレン中将:「……分かりました。私の過去、そして戦いの中で得た教訓を話しましょう。

それが皆さんの力になれるなら、これほど嬉しいことはありません」


冥界の静寂の中、過去の記憶と共に語られる戦いの物語が、淡く灯る希望の光となっていくのだった。



【マクファーレン中将の過去 — イラク戦争】

マクファーレン中将が若かりし頃、彼はイラク戦争に従事しいた。

あの戦地で彼が目にしたものは、決して忘れることのできない光景であり、彼の心に深い影を落とした。


「イラク戦争では、多くの兵士たちが命を落としました。砂漠の乾いた大地には、無数の悲しみが積もっておりました。

私は前線で指揮を執りながらも、そこにいる一人一人の兵士の顔を思い浮かべずにはいられませんでした。

そして、戦争がもたらす破壊の現実――町が瓦礫と化し、無辜の市民が苦しみ、家族が引き裂かれていく様を目の当たりにしたのです」


彼の声には重みと哀しみが滲んでいる。


「戦争は勝利や戦術だけではありません。そこには必ず、人間の痛みと葛藤が伴います。

若い兵士たちが未来を奪われるのを見届けることほど、つらいことはありませんでした。

その経験が、私に『力を持つ者は責任を負わねばならない』という信念を強く刻み込みました」


マクファーレン中将は遠くを見つめるように語り、静かに続けた。


「私は戦いを避けたいと思っております。しかし、もし戦わねばならぬならば、少しでも多くの命を守り、戦争の惨禍を最小限に食い止めるために、最善を尽くす覚悟であります」


冥界の静寂が、彼の言葉の重さを一層際立たせた。


冥界の静かな屋敷で、マクファーレン中将は妖夢に向き合い話し始めた。


「戦場での経験から学んだことは、決して忘れてはならない。そして、その経験と真摯に向き合うことが、今後の指導や判断に生かされるのだと強く感じております。過去から目を背けるのではなく、正面から受け止める覚悟が重要だと思います」


幽々子は切なげな声で応えた。


「あなたもお辛い経験をなされたのですね」


マクファーレン中将は深く頷きながら答えた。


「はい、その通りです。しかし、あの経験があったからこそ、今の私があると信じています。苦い過去を背負いながらも、未来へ歩み続けることが私の責務と心得ております」


幽々子の瞳には優しさと共感の光が宿っていた。



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