マクファーソン准将の言葉
静寂の中、マクファーソン准将が一歩前へ出る。
彼の目は、霊夢たち、そして綿月姉妹や妖怪の代表者たち一人一人を見据えていた。
「我々を――100%信用して欲しいとは、言わない」
その第一声に、場がわずかにざわめく。
だが准将は静かに、言葉を紡ぎ続けた。
「それは依存に他ならない。
100%の信用とは、裏を返せば“自らの判断を放棄する”ことになる。
そして依存は、いつか必ず失望をもたらす。
人も、国家も、完璧ではない。
だからこそ――我々は求めない。
盲目的な信頼など」
言葉は冷静で、しかしその奥には、深い誠意があった。
「だから私は願う。
あなた方自身が、あなた方自身の“力”を持ってほしい。
我々は、それを手伝いたい。共に歩むために。
その力とは、“武力”だけではない。
知識であり、判断であり、誇りであり、覚悟だ」
霊夢たちは真剣なまなざしで准将を見つめている。
早苗が小さく、息を呑んだ。
「だが――」
マクファーソン准将は言葉を切り、ふっと微笑んだ。
「それでも、ある程度は……信用してもらいたい。
その“ある程度”とは……60%。
完全ではなくても、六割の信頼があれば、共に前に進めると私は信じている。
60%の信頼で、互いに支え合い、背中を預けられる関係があるならば――
それで十分なんだ」
霊夢は静かにうなずいた。
「100も0もいらない……60で、十分……か」
その言葉は、幻想郷の少女たちにとって、新しい概念だった。
依存ではない信頼、そして互いの力を認め合い、高め合うこと。
綿月依姫が、そっと呟く。
「それは……軍人としてではなく、“一人の人間”としての言葉ですね」
魔理沙はふっと笑った。
「ああ、気に入ったぜ、その“60%”ってやつ」
さとりは深く息を吐きながら、視線を遠くに向けた。
「……なら、私たちも応える番ね。私たち自身の、60%の覚悟で」
幻想郷の空はどこまでも青く、
その下で確かに、新しい信頼の芽が生まれている
マクファーソン准将の言葉が静かに場を包む。
その声には、演説ではない、「魂からの叫び」があった。
「百年……それが短いのか、長いのかはわからない」
「だが、前に進めるのであれば、それは“進歩”だ。価値がある」
霊夢は、目を細める。
今まで幾度となく“力”を見てきた。だがそれは、いつも“奪う力”だった。
――けれど、目の前の男が語るのは違った。
“守る力”を、静かに、しかし強く信じていた。
「我々は、“誰もが納得する答え”を見つけるまで戦い続ける。
そのために、“心”がある」
華扇の瞳がわずかに潤む。
それは、過去に見た幾多の矛盾や争い、非情な現実に晒されながら、
なおも「諦めない」と言い切る者だけが持つまっすぐな光。
「……でも、“心”だけじゃ何もできないこともある」
「だからこそ、“力”を蓄える。そして、“守る”」
魔理沙は黙って、しかしどこか誇らしげに頷いた。
守るための力。信じるための力。それは、彼女の信念とも重なるものだった。
そして、綿月依姫がゆっくりと前に出る。
今まで慎重な観察者だった彼女の声が、凛と響いた。
「地上の者がここまで覚悟を語るとは、正直思っていなかった」
「だが……その信念、その覚悟。受け止めたわ。私たち月の民も、
もう“高みから見ているだけ”ではいけないのかもしれない」
紫もまた、扇をゆっくりと閉じた。
「信じるに値するかどうかは……心の在り方次第ね。
あなたの言葉に、私は“光”を見た気がするわ」
その場を包んだのは、静寂――そして、敬意。
マクファーソン准将の言葉は、幻想郷に“重さ”を残した。
それは武器でも威圧でもない、真っすぐな“心”の重さだった。
そして、霊夢が小さく呟く。
「……私も、守りたい。
私たちのこの場所を、私たち自身の力で、そして――
時には、あなたたちの“力”も、信じていいと思えた」
それは、小さくとも確かな第一歩。
幻想郷と外の世界――その間に、“信じ合うための橋”が、いま架かろうとしていた。
マクファーソン准将の言葉が、静かな熱を帯びて場内に響く。
「私の伝えたいことは……ただ一つだ」
彼の視線が、一人ひとりの目をまっすぐに捉える。
「皆にとって納得できる答えがあるかはわからない」
「それでも、どうか聞いてほしい」
その言葉に、霊夢も思わず身を乗り出す。
「人には、理解し合おうとする――尊い心がある」
「私は、その心を信じている。いつか、この世界が互いを分かり合える日が来ると」
マクファーソン准将は少し微笑み、しかしその眼差しは揺るがない。
「時間はかかるだろう。少なくとも、10年や20年で解決しない課題ばかりだ」
「それでも、若者たちがいる限り、未来はある」
その言葉は、希望の灯火のように幻想郷の空気を満たした。
綿月依姫は目を伏せながらも、その言葉にじっと耳を傾けていた。
紫は小さく頷き、華扇は胸に手を当てていた。
霊夢は心の中で誓う――
「私たちも、守りたい。未来を繋ぐために」
マクファーソン准将の言葉は、幻想郷と外の世界をつなぐ、静かな架け橋となった。
た。
「私が言いたいことは――共に未来を築く覚悟を持とうということだ。過去の傷を背負いながら、それでも進み続ける者たちとして。」
マクファーソン准将が話終わると、基地内に静かな拍手が広がった。
その拍手は、ただの礼賛ではない。指揮官としての彼を称え、共に未来へ歩む覚悟の証だった。
霊夢が小さく呟く。
「…あの人たちなら信じて良いかしら」
依姫は微笑みを浮かべて答えた。
「ええ、まだ地上は変われます」
魔理沙は腕を組みながら頷いた。
「良い言葉だな。まさに指揮官って感じだ」
夕暮れの空が赤く染まり、風が幻想郷の境界を静かに撫でていた。
マクファーソン准将の話が終わり、重くも温かな余韻を残したまま、少女たちは静かにその場を後にした。言葉は多くなかったが、それぞれの胸の内には、確かなものが灯っていた。
「ねえ、マクファーソン准将の下に付いて行く人たちって、かっこいいわよね」
そうぽつりと霊夢が言う。彼女の目は、遠く夕焼けの向こうを見つめていた。
「そうだな。あの人について行く理由が、よく分かる気がするぜ」
魔理沙が頷く。その口調には、いつもの軽さではない、確かな敬意があった。
「誠実で真っ直ぐな言葉、そして心の底からの思い……それが、伝わってきました」
依姫が静かに語る。その表情は柔らかくも、どこか決意を秘めている。
誰もが心のどこかで感じていた。言葉だけではない。あの男の背負ってきた戦い、苦悩、そして希望が、彼の言葉を通じて彼女たちの心に届いていたのだ。
それぞれが立ち止まり、顔を見合わせた。
「私、あの人……あの兵士たちと話がしてみたい」と霊夢が言う。「あの人たちが、何を想って戦っているのか、もっと知りたい」
「私も。話すだけじゃない。本気で向き合って……戦う理由も、生きる意味も……一緒に考えたい」
魔理沙もそれに続くように答える。
依姫は、そっと目を閉じ、静かに息を吐いた。「――心を開いて、対話する勇気。それが、今の幻想郷にこそ必要かもしれませんね」
そして、少女たちは、それぞれが気になった兵士や指揮官の顔を思い浮かべた。
霊夢は朝田三佐の静かな覚悟を思い出し、魔理沙は演習で見せた若き兵士ラミレスの真剣な眼差しを思い出す。依姫の胸には、マクファーソンの言葉が深く刻まれていた。
少女たちは歩き出す。それぞれの場所へ、それぞれの対話へ向かって――
本気で語り合いたい。互いの想いを、過去を、未来を。
それが、希望の始まりになると信じて。