敬意を払うこと
マクファーソン准将は言葉を選びながら、しかし力強く語った。
「ここにいる皆さんに、言いたいことがある。
我々は確かに“部外者”だ。幻想郷からすれば、突然現れた、得体の知れない“軍”かもしれない。
だが――」
准将は一歩前に出て、制帽を静かに取り、胸に当てる。
「ここにいるのは、過去と向き合い、覚悟を背負い、
それでも立ち上がった兵士たちだ。
どうか、それだけは……忘れないでほしい」
その瞬間、静寂が空気を包んだ。
アレン少佐が背筋を正し、声を張る。
「マクファーソン准将に――敬礼!!」
ピシッ!!
一糸乱れぬ敬礼が、空間に響いた。
アメリカ軍、フランス軍、ドイツ軍、韓国軍、自衛隊――
肌の色も言語も違う兵士たちが、すべての違いを越え、
一人の指揮官に敬意を示していた。
その敬礼は、命令による儀礼ではなかった。
彼らが「信頼する者」へ向けた、真実の敬意だった。
そして――その光景を見つめていた霊夢たち。
霊夢は、拳をぎゅっと握りしめていた。
感情が胸を打ち、言葉にならない。
ただ、自分が「知らなかったこと」が、こんなにも多かったことに、驚いていた。
「軍人ってのは……怖いもんだって、そう思ってた。
でも、あなたたちは――泣いて、苦しんで、それでも人を守るために動いてるんだね」
霊夢の声は、震えていた。
魔理沙は黙って帽子を目深にかぶり直し、
小さく笑って言った。
「へえ、マジメなヤツらじゃんか。ちょっと……見直したぜ」
早苗は目を潤ませ、
「私たちと、何も変わらない……いえ、むしろ……」
そう呟いて、俯いた。
依姫は静かに歩み寄り、帽子を取ったマクファーソンの前で姿勢を正した。
「……幻想郷は、長い間“外”の痛みを知らなかった。
でも今、私たちはあなたたちの“重さ”を知った。
どうかこれからは、“敵”ではなく、“共に歩む者”として、向き合っていただけますか」
准将は黙って頷いた。
幻想郷と“外の世界”――
その間に確かにあった深い溝に、
初めて「橋」がかかりはじめていた。