第62章:地獄の追撃戦・ヴェルニエフ大将の目論見
「地獄の追撃戦」
オムスク研究所爆破から7分後
薄明かりに包まれた雪原を、アドラーたちが乗るティーグル装甲車が猛スピードで駆け抜けていた。
ベル少尉(運転席):「こっちも限界だ、サスペンションが軋んでる!」
アドラー(助手席):「いいから飛ばせ、追ってくるのは……あれだ!」
背後、Mi-24ハインドが咆哮を上げながら地を舐めるように接近。
更に上空ではKa-52アリゲーターが赤外線で標的を追尾中。
地上からはBTR-82、タイフーン装甲車、さらには装輪式IFVブーメランまでもが参加し、完全包囲網を形成していた。
【オムスク研究所】司令棟
ヴェルニエフ大将はモニター越しに逃走経路を睨んでいた。
隣には冷静沈着な表情を浮かべた戦術士官。
戦術士官:「ティーグルは北西へ向かっています。推定脱出ルート:ウラル山脈南部へ連絡し、封鎖を」
ヴェルニエフ:「ブラックバードとの合流を阻止しろ。Mi-38とKa-60をウラル方面へ。地獄の蓋を開けてやれ」
彼の目は決して諦めていなかった。
ザリヤ1号機の破壊など、想定の範囲だったのだ――。
【地上】ウラル平原—林地帯入口
ロスコフ少佐:「後方、ブーメランが距離を詰めている!対戦車装備は……!」
ベル少尉:「残り1発、RPG-29!発射!」
ティーグルがスピンしながら急旋回、ベルがハッチを開き後部に構え撃つ!
直撃!
ブーメランの左側装輪が爆発、炎を上げて停止。だが他の車両は止まらない。
アドラー:「Mi-24が右から接近、撃ってくるぞ!」
森林帯の間を抜けると、上空からミサイルが降り注ぐ。
ベルがハンドルを切り、かろうじて回避。
【その頃、別区画】研究施設・Bセクター
重い隔壁が開き、闇の中から運び出される巨大なシルエット。
補助照明の光を浴びたそれは、修復中のザリヤ3号機だった。
胸部の冷却装置が赤く光り、未完ながらもその動力コアはまだ稼働可能であることを示していた。
ヴェルニエフ大将(通信越しに):「ふふ……甘いな、CIA。オムスク計画は、まだ始まってもいない」
傍らには、ザリヤの修復責任者であるアカデミー出身の女性科学者――
タチアナ・マリュートカ博士がいた。
タチアナ博士:「3号機、冷却系統の一部は損傷していますが、最低限の起動は可能です。発進準備に入りますか?」
ヴェルニエフ:「進めろ。今度こそ、我々は勝利するのだ」
「脱出限界点」
夜明け前の冷たい風が吹き抜ける、ウラル山脈麓の旧鉱山跡地。
そこが――CIAとの合流ポイント。
ブラックバードは、地形を利用し極超音速に近い低空接近でアドラーたちを回収する手はずだった。
しかし、その地点には既にT-90M戦車3両とBMP-3歩兵戦闘車数両が展開し、坑道入口を封鎖していた。
更にオルラン-10無人偵察機が上空で旋回、逃走経路を可視化していた。
【装甲車内・移動中】
ロスコフ少佐:「……T-90Mまで動員するとはな。どうやら我々、本気で狩られてるようだ」
アドラー:「このままじゃ挟み撃ちだ、坑道へ突っ込むしかない」
ベル少尉:「トンネル内に敵がいない保証はない。狭い空間で戦車に遭遇したら終わりだぞ」
アドラー(通信機に向かって):「こちらアドラー、ブラックバード、応答せよ。予定地点、敵の装甲部隊が展開中。早めの回収を要請する」
ブラックバード通信員(女性の声):「こちらブラックバード、予定通りT-minus 7分で到達。坑道側からの脱出を最優先で」
【坑道入口—交戦】
ティーグル装甲車がスモークを展開しながら突入。
T-90Mが主砲を構える。砲手の動きが見える前に、ロスコフが狙撃銃で撃ち抜いた。
アドラー:「今だ、ベル、アクセル全開だ!」
ティーグルはBMP-3の脇をすり抜け、弾幕の隙を抜けて坑道内部へ滑り込む。
ロシア軍が後を追い、坑道内でも銃撃戦が始まる。
爆音が木霊し、坑道の鉄骨が崩落寸前――だが、その先には――
【坑道出口・脱出ポイント】
朝日が差し込むトンネル出口。
その瞬間、**ブラックバードSR-71**が轟音を立てて着陸、ランディングギアを滑らせ停止した。
ハッチが開き、ステルス装備の特殊部隊員が展開しアドラーたちをカバー。
CIAオペレーター(ヘッドセット):「遅かったな、上へ上がれ、残り時間は45秒!」
ベル少尉:「ようやく来たか……!」
アドラーたちは機内へ飛び乗る。ロスコフが最後に振り返ると、坑道内にはT-90Mのシルエットが迫ってきていた。
ロスコフ少佐:「さらばだ、地獄の番犬ども……」
【上空・ブラックバード内】
離陸と同時にエンジンが過給圧を増大、超高速でロシア軍の射線外へ。
Mi-28とKa-52が追尾するも、速度差で撒き切る。
アドラーは汗に濡れた顔で座席にもたれながら、幻想郷の地図データを見つめた。
アドラー:「……ザリヤは破壊されたと思っていた。でも違う。奴らは、まだ何かを隠している」
ロスコフ少佐:「ああ……オムスク計画はまだ、"始まってすらいない"んだろうな」
【オムスク研究所・極秘格納庫】
そこでは、損傷したはずのザリヤ1号機が再起動プログラムの進捗率を示していた。
表示はこう告げていた:
再起動フェーズ4/6:進捗率 67%
そして、その画面を見つめるヴェルニエフ大将の瞳は、冷たく光っていた。
【上空・シベリア領空境界線付近】
ブラックバードはウラル山地を抜け、低空超音速飛行で西へ向かっていた。
だが――ロシア防空軍からの迎撃が始まった。
ヴェルニエフ大将(通信):「空軍指令本部、ザリヤ研究区域上空にて未確認機が脱出。コード・アトラスを発令せよ。MiG-31を即時発進させろ」
【空軍基地・滑走路】
警戒態勢レベル3。MiG-31BM “フォックスハウンド” 2機、緊急発進。
双発のターボジェットエンジンが唸りを上げる。
機首のZaslon-AMレーダーが広範囲で索敵を開始し、高高度へ急上昇。
【ブラックバード機内】
パイロット1(コールサイン:スレッジ):「機影確認、MiG-31が2機、上空から追ってくる!」
パイロット2(コールサイン:ナイト):「高度8万フィート、速度マッハ2.3超。こっちはまだマッハ1.9、抜かれるぞ」
アドラー:「MiG-31……か。速度ならブラックバードでも張れるが、ミサイル持ちだ」
ベル少尉:「撃たれたら終わりだ』
【MiG-31側コクピット】
パイロット(ロシア語):「対象はSR機、速度上昇中、ミサイルロック可能圏に接近する」
【R-37M長距離空対空ミサイル、発射準備完了】
【ブラックバード機内・カウンタープラン】
ナイト:「ECM(電子妨害)起動、フレア展開準備」
スレッジ:「もう一つある、"回避航路ケープ・ゼロ"を使う。山岳地帯の乱気流に飛び込む」
アドラー:「正気か、そこは航空機の墓場と呼ばれている」
スレッジ:「奴らのレーダー誘導ミサイルよりマシだ!」
【迎撃戦開始】
MiG-31のR-37Mが発射され、2発の超長距離ミサイルが一直線にブラックバードを追跡。
だが、ブラックバードはその瞬間、**急加速とスロープ・ダイブ(滑降機動)**を実行。
スレッジ:「対流層境界面に突っ込むぞ、機体にしがみついてろ!」
機体はマッハ2.5へ到達し、低空乱気流地帯に突入――。
ミサイルは追尾精度を失い、カウンターメジャー(ECM/フレア)と乱流によって逸脱。
ナイト:「ミサイル回避、機体損傷なし!」
スレッジ:「MiG-31が追いきれてない。これで撒ける!」
【追跡中止】
MiG-31のパイロットが本部へ通信。
パイロット:「目標機は低空山岳地帯へ。レーダーロスト。追尾不能、任務中止を要請」
地上指令:「了解、帰投せよ」
【ブラックバード機内・安堵】
ベル少尉:「……やっと撒いたぞ」
アドラー:「この飛行機を造った奴らに感謝するよ」
ロスコフ少佐:「だが、これは始まりに過ぎん。我々は“あの地”に戻らねばならん。幻想郷へ――」
【カリーニングラード軍事区画・深夜】
ヴェルニエフ大将は静かに立っていた。
その背後にはザリヤ3号機の残骸――ではなく、
修復がほぼ完了した装置本体が、厳重な梱包のもとに陸送準備を終えていた。
ヴェルニエフ:「……あえて大々的に輸送を公表しろ。CIAには確実に嗅ぎつけさせるように」
ザカリン少佐:「あえて、ですか?」
ヴェルニエフ:「奴らの関心をカリーニングラードに引きつける。だが、起動はさせない。数ヶ月は“眠らせる”」
ザカリンは頷くが、その裏に潜む思惑を測りかねていた。
【モスクワ・軍情報庁 特別会議室】
対外情報庁(SVR)、FSB、GRUの幹部たちが集う。
ヴェルニエフ:「次なる一手を打つ。幻想郷を完全に制圧せずとも、“混乱させる”には十分だ」
部下が次々とスライドを映す。
武器商人ルート(バルカン経由)
イランの過激派との連絡ルート
西アフリカのテログループとの接触ログ
PMC(民間軍事会社)部隊の編成計画
ヴェルニエフ:「派遣はまだ先だ。1年でも2年でも構わん。“慣れ”と“油断”を幻想郷に根付かせろ。我々が再び牙を剥くその時まで、静かに…深く、染み込ませるように」
【CIA本部・対露作戦センター】
アドラーたちが帰還後、ブラックバードの偵察記録とロシアの報道が照合される。
アナリスト:「奴ら、あえて輸送を見せてきてる……罠の可能性も」
アドラー:「いや、違う。あれは“陽動”だ。本命はまだ水面下にある。やつらは計画を止めていない。むしろ、より深く潜った」
【幻想郷・博麗神社】
霊夢:「最近、外から来る奴が減ったと思ったら…」
魔理沙:「嵐の前の静けさ、ってやつか? なんか気味悪いぜ」
アリス(低く):「……今、動いてるのは人間だけじゃない。幻想郷の均衡が崩れようとしてるのよ」
【終幕ナレーション】
ヴェルニエフ大将の真の狙いは、幻想郷を即座に制圧することではなかった。
外から静かに浸透させ、内から崩す。
ザリヤ3号機は再びその機を伺い、沈黙の中で鼓動を始める。
そして――
世界の影の存在たちが、幻想郷へと静かに足を踏み入れようとしていた。