敵地に落ちた巫女…
妖怪の山・0610時
霧と風が吹きすさぶ山間に、彼らは現れた。
「展開、2班は谷へ降りろ。左の尾根を警戒しろ」
低く鋭い声が、全員に緊張を走らせた。
戦闘服に身を包んだ男たちの動きには、まるで訓練された軍のような統制があった。実際、その通りだった。
この部隊――イエメンの反政府武装組織「フーシ派」に属する精鋭戦闘員たちは、2014年、ロシア陸軍第151自動化狙撃師団が運用していた山岳戦教範と連携ノウハウを基に行動していた。
彼らはロシア軍式の山岳戦術を吸収し、なおかつ、先日壊滅した北朝鮮特殊部隊が幻想郷で得た情報を、電波妨害直前に送信していた内容を活用していたのだった。
「東斜面、電磁波測定器に反応あり。こっちに誰かいる」
「発見次第、捕獲して連れて行け。あの良いぞ“巫女”なら、重要な交渉材料になる」
博麗神社・0625時
「つまり、敵は北朝鮮の情報網を経由して幻想郷の地形データを得ていたということですか」
朝田三佐は水筒を持ちながら、肩をすくめるように言った。
「厄介ですね…。北が壊滅する前に、こんなもんをテロリストにバトンパスしてたとは…動きが早いのはそういう
ことでしたか…」
マクファーソン准将の手元には、モサドが秘密裏に送ってきた資料が置かれていた。
イスラエルが手に入れた情報、それは「ザリヤ2号機」が再起動された事実――そして、それが幻想郷への戦闘員転送に使用されたという驚くべき内容だった。
マクファーソン准将「イスラエル諜報機関モサドが掴んだ情報だ。ハマスの拠点急襲中に偶然見つけた転送痕跡と搬入ログ。今、ガザとレバノンで戦争真っ只中だってのに、イスラエルはイケメン内戦地域の調査部隊も動かしてるらしい」
ナイジェル少佐「やっぱり、ネタニヤフ大統領も動いたんだな」
スターリング大尉「当然さ。奴は“もしこの装置がテルアビブやワシントンDCに転送されたらどうなるか”って、真っ青になったそうだ。今じゃ日本、アメリカ、そして幻想郷にまで協力を要請してる」
山森一佐は資料を指先で軽く叩きながら言った。
山森一佐「これは、国家レベルのテロリズムだ。俺たちがやらなきゃ、誰がやるってんだ」
妖怪の山・0640時
霊夢が山の斜面を登ると、風の匂いがいつもと違っていた。
「……なんか、空気が違うな」
背後にいた魔理沙が、警戒するように目を細めた。
「磁気の流れが歪んでる。それに、この辺……誰かが歩いてる」
「妖怪……じゃない。これは、人間の気配。でも……違う。軍人、か?」
霊夢がそう呟いた次の瞬間、乾いた銃声がこだました。
草木に偽装したフーシ派兵士がAk105を発砲した
タタッ!
すぐそばの木肌に銃弾が突き刺さる。反射的に飛び退く霊夢と魔理沙。だが――
「霊夢!」
木陰から飛び出した敵の兵士が霊夢に肉薄し、麻酔注射を行った。
「――ッ!」
一瞬の隙を突かれた霊夢は、麻酔で身体の力を奪われ、その場に倒れ込んだ。
「くっ……!」
魔理沙が魔法を撃とうとしたその瞬間、もう1人の敵が閃光弾"フラッシュ・バン"を投げつける。そして威嚇を射撃を行い魔理沙が動かないように牽制
辺り一面が真っ白に染まり、次の瞬間、霊夢の姿が――消えた。
NATO通信中継室・0655時
「確認、博麗巫女が敵に捕縛された。現在、捜索部隊を展開中。
E-8C“ピースアイ”による地上索敵範囲を拡大、アヴェンジャー無人機投入を要請」
「イタリア第11機甲連隊、チェンタウロIIが第3稜線に展開。イヴェコLMTも展開
敵はT-72BVを持っている可能性あり。NATO部隊との交戦が予想される」
連携が走り出す。
テロとの戦争――幻想郷の地で、本格的に幕が上がろうとしていた