第59章:カウンター・テロリスト作戦
幻想郷──妖怪の山 南西側山腹・0400時
濃霧と冷たい風が、夜明け前の山を包んでいた。木々の隙間から、迷彩柄の装備をまとった影が音もなく進む。
それは明らかに、幻想郷の常識から外れた動きだった。
低姿勢。斜面を迂回する動線。哨戒の目を避け、要点ごとに索敵班と工兵班が展開。
彼らは単なるテロリストではない──訓練された戦闘集団。
指揮を執る男の腕章には、イエメンの国章と赤星。そしてロシア製の無線機が腰にぶら下がっている。
「ナジール少佐、前哨陣地は回避しました。数分で第2観測地点に到達できます」
「よし、ロシア式で進め。被発見率は20%未満だ」
彼らは、ザリヤ-2の試験転送で妖怪の山の地下ルートに送り込まれた150名の精鋭。
ロシア軍特殊部隊によって訓練を受けたフーシ派、いわば“イエメン版スペツナズ”。
彼らの目的は、幻想郷内部に潜伏し、西側勢力の情報・防衛体制を崩すことだった。
同時刻:幻想郷上空──NATO地上監視機「ピースアイ」
静かな電子の海に、1つの異常値が点滅した。E-8C ピースアイの戦術オペレーターが声を上げる。
「タリスマン少佐、北西セクターに熱源。数十名単位の非登録移動体です。確認を要請します」
「こちらタリスマン少佐、照合中──該当エリアは幻想郷警備区、通常は人の移動なし」
画面には、人間の戦術隊形を形成しながら山中を進む不審影がくっきりと映し出されていた。
「……これは、ただの武装組織じゃない」
「携帯式地対空ミサイル持ってるかもしれないぞ」
「くっアヴェンジャーを上げろ。必要なら即座に叩く」
博麗神社──0530時
「またなの……」
朝靄の中、霊夢は疲れたように呟いた。
朝田三佐がタブレットを見せる。
「これが、ピースアイが捕捉した画像です。明らかに軍事行動。標準的なロシア軍の前進パターンを踏襲しています」
「彼等は幻想郷で、戦争を始めようっての……?」
朝田は真剣な眼差しで答える。
「いえ、幻想郷ごとを紛争地帯に変えるつもりです。奴らにとって、ここは“利用できる統治領”にすぎない。兵器の実験場……あるいは、"新たな火薬庫"」
霊夢は黙り込む。そして、納得したように頷いた。
「なら、止めるしかないわね。幻想郷を守るってのは……そういうことよね、朝田さん』
朝田三佐『そうです、霊夢さん無理はなさらないでくださいね』
『わかってるわ』