第57章:対テロ作戦.迫り来るオムスク計画の影
【中東・イエメン】
2025年――イエメン内戦は泥沼化の様相を見せ、親イラン武装組織であるフーシ派は、ガザ地区で活動するハマスや親パレスチナ勢力に連帯を表明。弾道ミサイル、無人機、機雷、さらには船舶への奇襲拿捕と、あらゆる手段を用い“神の敵”を排除する戦いを掲げた。
この動きに**ロシア軍参謀本部第12局(GRU)**は目を付ける。
かねてより進行していた極秘戦略――「オムスク計画」の一環として、幻想郷という「世界から切り離された場所」への軍事作戦の代理実施を、フーシ派に打診。
彼らは「十字軍に連なる新たな敵」として幻想郷駐留のNATO・自衛隊・神々・妖怪たちを認識し、“ジハード”としての作戦を遂行することを決意する。
【幻想郷・香霖堂】
霧雨魔理沙の姿が見えなくなって久しい午後、霊夢はひとり、香霖堂を訪れていた。
古びた木の扉を開けると、どこか懐かしい香りが漂う。霖之助は本を閉じて霊夢に目を向けた。
「珍しいな。君がここに来るなんて。お茶でも出そうか?」
霊夢は静かに首を振り、棚に寄りかかる。
「……ねぇ、霖之助さん。私、最近、ずっと考えてるの」
「考えてる?」
「戦いって、何のためにあるのかって。自衛隊の人たちや、あの若い兵士……テハン少尉とか、皆、誰かを守るために戦ってる。だけど今度の敵は、守るものなんてない、ただ壊しに来るだけの連中なんだって」
霖之助は黙って頷いた。
「そうか。……霊夢、君はそれが怖いんだな」
「ううん、違うの。怖いのは……私の心が曇りそうなこと。テロって、理屈じゃないでしょ? 恨み、怒り、神様の名を借りた憎しみ。そういうのと戦うと、こっちの心まで黒くなっていきそうで……」
静かな沈黙のあと、霖之助はゆっくり立ち上がり、彼女の肩に手を置いた。
「……霊夢。君は迷っても、最後にはいつも正しい道を選ぶ。だから大丈夫だ。僕は信じてる」
霊夢はその言葉に、少しだけ笑った。
「ありがとう。……今度は“守るための戦い”を忘れないようにする」
【地上世界・米軍情報センター】
「確認されたか?」
マクファーレン中将の問いに、情報士官が頷く。
「はい、イエメン内のフーシ派主力部隊が転送用ポータルの座標を受け取った可能性が高いです。目的は……『爆破・要人襲撃・社会不安の喚起』。完全な非正規戦となります」
マクファーソン准将が低く呟く。
「ついに来たか。幻想郷にとって最悪の敵――姿なき戦争だ」
「作戦コードを発令しろ」
「了解――対テロ作戦コードネーム:オペレーション・フロストバイト(霜焼け)、発令」
『これは対テロ作戦だ!』