第55章:テハン少尉の覚悟
――幻想郷・第3統合前線拠点(旧・人間の里郊外)
スリオンヘリのローター音が風を裂き、着陸とともに砂塵が舞い上がった。
「やっと戻ってきたな」
パク大尉が苦笑まじりに言い、隣で敬礼する若い男がいた。
チェ・テハン少尉――
かつて北朝鮮特殊部隊員として幻想郷に潜入した彼は、今やCIA諜報特別任務班に所属し、正式な協力者として帰還した。
彼の背筋は伸びていた。だが、その表情はどこか穏やかで、まるで過去の罪を振り払うかのようだった。
霊夢が最初に歩み寄った。隣には魔理沙、そして朝田三佐がいた。
「……あなたが、戻ってくるとは思わなかった」
霊夢の声は冷たくはなかった。ただ、真っ直ぐだった。
テハン少尉は深く一礼し、言葉を紡いだ。
「……あの時、私は間違った祖国に仕え、命令に従っていました。ですが、もう迷いはありません。私は、同胞たちを縛るその手から、守るために戦います」
魔理沙はにやりと笑った。
「いいじゃん、覚悟きまってるじゃん。歓迎するよ。前線は、誰でも来たいやつに優しいってわけじゃないけどさ」
朝田三佐は、静かにうなずいた。
「生きて戻ってきた。――それだけで、十分です」
そして、少し離れた場所には、ニコ中佐と山森一佐がいた。
テハンはゆっくりと歩み寄り、深く敬礼した。
「ニコ中佐、山森一佐。あの時は敵でした。今は……仲間として、任務にあたります。よろしくお願いします!」
ニコ中佐は肩をすくめて、笑みを浮かべた。
「まあ、俺らの部隊には、"元敵兵"だろうが、"鬼"だろうが"吸血鬼"だろうがいるからな。今さら驚かねえよ」
山森一佐は、真っ直ぐな眼差しでテハンを見つめ、頷いた。
「ならば、次に守るのは――命だ。わかるな」
「はい!」
その背中には、遠く祖国から脱出し、無事に保護された家族と婚約者の存在があった。
彼の覚悟は、決して自己満足ではない。守るべき者たちのための覚悟だった。
――かつての敵が、今、仲間として最前線に立つ。
幻想郷という奇跡の地で、1人の青年兵士の新たなターニングポイントとなった