第52章:誤認が生んだ悲劇と戦闘
ワシントンD.C.、地下深くに築かれた秘密施設。表向きは「災害対策センター」として登録されているその場所は、今や米中冷戦の最前線でありり世界の監視所でもあった。
重厚な扉の奥、冷たい蛍光灯の下で、ひとりの青年が怯え、うずくまっていた。北朝鮮軍所属、チェ・テハン少尉。紅魔館襲撃作戦の唯一の生存者である。
対面したのは、アメリカ特殊作戦軍出身の老将――マクファーソン准将。
「君たちは……間違った。だが、これはただの勘違いでは済まない。u"彼女たちの故郷”を攻撃したのだ」
准将の声には怒りと冷静さが同居していた。
テハンは俯き、口を開く。
「……館にあった軍用車両。監視装置。兵士の往来。……我々は、そこが“GHQ”だと本当に……そう教えられたんだ……!」
ガラス越しに見守っていた八雲紫が呟いた。
「誤認が生んだ戦争。……けれど、誤認を利用する者も、必ずいる。次は“彼ら”の番ね」
彼女の視線の先、モニターには中東の乾いた都市と、そこに潜む一団の男たちの姿が映っていた。
**幻想郷“第二の嵐”**が、静かにその輪郭を現し始めていた。
「……我々は、命じられただけだ。地図上の建物を、確認しただけで……」
テハン少尉の声は震えていた。その手は未だ、自らの喉元に残る痕をかすかに撫でていた。彼は、あの日、確かに死を選ぼうとした。だが、今は違う。
マクファーソン准将は彼の目をじっと見据え、語気を強める。
「君たちは“命じられただけ”で子どもたちがいる家を焼こうとした。君たちの上司は、そこにいた誰をも、軍人と見なしたんだ」
テハンは押し黙る。彼の脳裏には、紅魔館で対峙した咲夜や小悪魔、あの異形の少女フランの“怒りと悲しみ”がよみがえっていた。
「……それでも、僕たちは、帰れば英雄になれたんです」
その一言に、マクファーソンは目を細めた。
「いや……帰れたとしても、君は“使い捨てられた道具”のままだっただろう。祖国は君を讃えるどころか、口を封じようとしたはずだ」
その瞬間、テハンの顔が歪む。無意識のうちに涙が一筋、頬を伝った。
ガラス越しに尋問の様子を見ていた八雲紫は、軽く目を伏せた。
彼女の隣には、アレン少佐とCIA連絡官のリサ・トンプソンの姿があった。
「彼は、まだ“人間”としての良心を失っていない……」
「ええ、彼なら利用できるかもしれません」とリサ。
紫は視線を奥のスクリーンに移す。そこには、中央アジアの乾いた平野にある小さな村と、そこに潜伏する複数のテログループの構成員が写っていた。
「……北朝鮮は誤っただけ。でも、これから動く者たちは、“確信犯”として幻想郷を狙う」
アレン少佐が口を開く。
「IS残党、ハマスの過激派、東トルキスタン勢力、さらには“名を隠した旧アルカイダ”……奴らは幻想郷に“価値”を見出している。逃れた北の部隊員が持ち出した通信情報の一部が、ダークネット経由で複数のテログループに流れたようです」
紫の瞳が細くなる。
「幻想郷は、まだ“幻想”のままでいられるのかしらね」