決断と行動
魔法の森、外縁部。
密林の陰から観測を続けるのは、北朝鮮偵察部隊の第一分隊。
距離はおよそ1.4km。地形を巧みに利用しながら、彼らは無線を通じて逐一情報を送信していた。
「……軍用車両複数、迷彩ネットによる隠蔽を確認。陣地構築中。衛星通信設備あり」
偵察兵が双眼鏡を外し、小声で呟く。
「奴ら、本当にここを拠点にしようとしてる……幻想郷を占領するつもりなんだ」
それは事実誤認であったが、クルスク州の実戦経験と、厳格な情報統制の中で育った彼らにとって、“信じたい情報”は即座に現実と化す。
***
一方、人間の里にに近い警備陣地では、韓国軍中尉のパク・チョンと、ジョージア軍中佐のニコ・ザカリアが顔を合わせていた。
「……まさかまた奴らと向き合うことになるとはな」
ニコ中佐は、南オセチア紛争時の従軍経験者であり、3年前には非公式な“義勇兵”として、ウクライナ軍とともにドンバス戦争に参加していた。
「ここでは逃げ場もない、戦うしかないさ。幻想郷だろうが地上だろうが、守るべき人間がいる」
彼の言葉に、パク中尉は力強く頷く。
「俺はあの銃撃戦の夜再びを繰り返したくない。民間人の犠牲も、兵士の遺体も……あれで十分だ」
彼らは武装を再確認し、陣地の北側に戦力を再配備していく。既に赤外線センサーが北朝鮮部隊の動きを感知しつつあった。
「奴らは近い。……距離1.5kmを切るぞ」
***
その頃、同じ陣地内にいたマルク大尉は、アリス・マーガトロイドを呼び止めた。
「アリスさん、残念ながらここはもう安全とは言えないです。下がってください」
アリスは一瞬ためらったが、大尉の真剣な目を見て黙って頷く。
「ありがとう、マルク大尉。でも……無事でいて。貴方も兵士も、皆」
「もちろんですよ。貴方が手を貸してくれた補給線とシールド設計が、どれだけ役に立っているか。感謝しかないです」
大尉はそう言うとアリスを数名の護衛兵に預け、すぐさま通信網に戻っていった。
「こちら第3哨戒線、警戒レベルを最大に。熱源多数、接近継続中。目標は北朝鮮部隊と判断」
敵はまだ発砲していない。
だが、“その時”は、刻一刻と近づいていた――
***
そして、博麗神社。
霊夢は神社の本殿で、軍司令部からの新たな通達を手にしていた。
防衛省並びに東部方面隊総監からの命令――
「幻想郷内における敵性武装勢力に対する排除または武装解除任務、発令」。
その言葉の意味を、霊夢は静かに噛み締める。
「……これで、はっきりしたわね」
「やるしかないね」
隣にいた魔理沙が、重たい声でそう呟いた。
その場にいた山森一佐と朝田三佐は、冷静な視線で彼女たちを見つめながら言った。
「この先は、ただの戦いじゃない。“何を守り、何を許さないか”の選択になる」
「霊夢さん、魔理沙さん良いですか?感情に流されるなでください。怒りも悲しみも、動機にしても構わない、しかしそれに支配されたら部隊は潰れるのです」
言葉に、霊夢は静かに頷いた。
「わかってる山森さん。私は巫女、幻想郷を守るのが役目。……でも、今はそれ以上に、"あの子たち"を守りたい」
そして、空は徐々に茜色に染まり――
北朝鮮偵察部隊が潜む、“次の戦場”は、すぐそこに迫っていた。