第50章:人を救う為に支払う代償
彼の死は、ただの作戦損耗ではなかった。
――ウィリアム・アルフレッド軍曹。
29歳。第75レンジャー連隊所属。
前線で数多の任務を遂行し、若手隊員の信頼も厚かった。
人間の里で、逃げ遅れた子供たちを庇って銃弾を受け、即死。
その報せは、幻想郷内のすべてのNATO拠点、自衛隊前線基地、そして神社にも瞬時に届いた。
グローバルフォース司令部――マクファーソン准将は報告書を握りしめ、硬く目を閉じた。
「……また、若い隊員を失ったか」
マクファーレン中将は准将の背中を優しく叩く
彼なりの労いの行動である
准将の声には、かつて数え切れぬ仲間を戦地に送り出し、そして帰らなかった者たちの顔が浮かんでいた。
イラク、アフガニスタン、シリア、アフリカの秘匿作戦……数々の任務の背後にある「代償」を、彼は誰よりも知っていた。
「……私の判断ミスか?」
そう呟いた准将の横で、アレン少佐が口を開いた。
「ウィリアム軍曹は、自分で選んだんです。『誰かを守るために動く』って、いつも言ってました。私は彼のその意志を、絶対に無駄にしたくありません」
マクファーソンは目を開き、冷静さを取り戻すように深呼吸する。
「よし……少佐、態勢を立て直す。アルフレッドの犠牲を無意味にはしない。次の交戦は最小限に、だが徹底的にやる。ラミレス大尉、SAS、空軍に連絡を」
「了解です!」
――その姿を見ていたのは、拠点を訪れていた森近霖之助だった。
静かに彼は呟く。
「……戦場で生きる者の姿か。怒りを抱えても、沈める術を持たなければ、隊は導けない」
***
一方、博麗神社では、全員が静かに整列していた。
霊夢を先頭に、魔理沙、華扇、早苗、そして複数の自衛官やNATO兵士たち。
「ウィリアム・アルフレッド軍曹に、敬礼!」
その言葉と共に、幻想郷における最初の「戦死者」へと頭を垂れた。
里の人々もまた、NATO兵から話を聞き、彼の行動に深い敬意を抱いた。
子供を守るために命を賭けた兵士。
戦いの意味すら知らぬ者が、その尊さに静かに手を合わせた。
その光景を見守る慧音は、心の中で呟いた。
「……軍人とは難しいものだ。奪うための力であっても、守るために使われるならば……人はそこに尊厳を見るのかもしれない」
そして、八雲紫。
神社の奥から静かに現れた彼女は、報告書を読み終え、冷たい瞳で霊夢に告げる。
「もう決まったことよ、霊夢。私たちは、幻想郷に混乱をもたらす者には容赦しない。……あれは『敵』よ。
話し合いの余地はないわ」
霊夢も深くうなずいた。
「わかってる。もう誰も、これ以上死なせないために、私たちがやるべきことをやるだけよ」
***
その頃――
北朝鮮の第1・第2分隊は、混乱の中すでに人間の里を脱出していた。
「……接触地点は危険だ。すぐに離脱しろ」
指揮官は無線で命令を飛ばしながら、次の任務地点に目を向けていた。
魔法の森。
そこにある仮設補給拠点、森林内のNATO・自衛隊設営地の偵察が次の目的である。
第1分隊はすでに森の外縁に到達。
第2分隊の発砲により、行動速度を速めていた。彼らの中には、まるで任務を狂信的に遂行する者もいた。
「……奴らは幻想郷を本気で“制圧”しようとしてる。自分たちが止めねば、ここは第二のDMZになるぞ」
任務への誤解と偏見は、彼らの行動にさらなる過激さを加えていく。
そして、その動きは、次なる衝突を避けがたいものへと導いていった――