表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/218

第49章:忍び寄る足音・そして衝突へ

 夜の帳が迷いの竹林を包んでいた。


 北朝鮮特殊部隊・第2分隊の兵士たちは、無言でその深い竹林の中を進んでいた。彼らは地霊殿の偵察を終えた後、南へ移動し、竹林を抜けてさらに西の平地へと向かう任務を遂行していた。


 その途中、隊員のひとりが立ち止まり、手信号で部隊の進行を止める。


 「……見てください。地面にトレッドパターンの痕跡」


 副官がうなずいた。

 「大・中型のトラック……HEMTT・M1078か、もしくは日米の自衛輸送車両か。繰り返し通行した跡がある」


 この事実に、隊長は顔をしかめた。


 「こんな場所にまで、車両を出入りさせているのか……何を運んでいる? 兵器か? 補給か?」


 そんな彼らの視界に、突如、赤いマークが現れた。竹林の合間から現れたのは装甲車――**赤十字マークを施したアメリカ製MRAP『マックスプロ』**だった。


 兵員輸送兼緊急搬送用に改造されたその車両は、竹林の細いルートを滑るように走行していた。後方の北朝鮮兵たちは地面に伏せ、双眼鏡でその進行方向を追跡する。


 「追うぞ。あれは輸送車両だ。何を運んでいるのか……確認する必要がある」


 北朝鮮部隊は気配を殺して尾行を開始する。マックスプロが停止したのは、竹林の外れに設けられた仮設の衛生テントと医療拠点だった。M1078トラックが三台、

救護班の人影、立てられた白い幕の中から聞こえる苦しそうな呻き――そこは負傷兵を収容し、治療を施す拠点だった。


 だが、彼らにはその意図がわからなかった。


 「……クソ。ここにも軍事施設か」


 隊長が吐き捨てるように呟いた。


 「これは戦術的な布陣だ。彼らは幻想郷全域に拠点を築いている……我々の想像を超えている」


 彼の目には、救護所ですら**「拠点」として映っていた**。支援と救援の拠点は、敵の準軍事的拠点として誤認された。


 「ここにとどまるのは危険だ。次の目標地点へ移動する」


 しかしその時、彼らの頭上で、微かに「カチリ」という音が鳴った。

 地面には、小型の赤外線感知式の監視センサーが仕掛けられていたのだ。


 ***


 一方、博麗神社では、霊夢たちが神社の一室に集まり、敵の行動について協議していた。


 「竹林の拠点を見られたかもしれない……」

 魔理沙が難しい顔をして言った。


 「それに、人間の里への接近……あいつら、何を狙ってるの?」

 霊夢も不安げに呟く。


 朝田三佐が、霊夢と魔理沙、そして華扇を見回した。

 「今の動きから考えれば、偵察行動と判断できます。攻撃の準備というより、相手の情報収集が目的でしょう。ただし、それが誤解に基づいているのなら、こちらとしても無視できません」


 華扇が深くうなずいた。

 「彼らが幻想郷を“占領すべき土地”だと考えているなら、交渉や対話の余地はない……」


 「だけど、それでもこちらは誤解を解く努力をすべきよね」

 霊夢は神妙な面持ちで答えた。


 朝田はゆっくりと頷いた。

 「はい。ですが、里に侵入されれば話は別です。あそこは……我々にとっても、最後の一線ですから」


 ***


 そして、その時は訪れた。


 北朝鮮第2分隊は、**中立地帯である“人間の里”**の外れに、姿を現した。迷彩服に覆われた彼らの姿を、数人の住民が偶然目撃する。


 その目には明確な恐怖が宿った。


 彼らが手にしているのは銃であり、持っているのは沈黙と影であった。


 そしてその動きは、神社やNATO、きりさめ艦上へと、新たな危機の予兆として走った。


決断の瞬間


 午後一時。穏やかなはずの人間の里に、乾いた銃声が鳴り響いた。


 市場通りを歩いていた警衛の兵士たちが、突如現れた全身を迷彩服で覆った男たちに気づいたのは、ほんの数秒前のことだった。


 「――なに兵士!? 味方じゃない、あれは北朝鮮の武装部隊だ!」


 誰かが叫ぶ前に、銃を持った男たちが反応した。

 北朝鮮特殊部隊・第2分隊。彼らは民間人と兵士を一目見て、「自分たちが発見された」と判断した。


 MP「みんな!伏せろ!!」


 警衛の一人が叫んだ瞬間、自動小銃"AK-74"の連射音が狭い通りを貫いた。


 人々は悲鳴を上げ、逃げ惑う。

 地面に伏せる者、子どもを抱えて逃げる母親。混乱の中、一人の北朝鮮兵が少年と少女に銃口を向けた。


 「クソッ、やめろ!」


 その瞬間、アメリカ陸軍の兵士が身を挺して子供たちの前に飛び出した。


 ――銃声。血が舞う。


 子供は無事だったものの撃たれた、兵士はその場に倒れた。防弾ベストはボロボロ…心臓を貫かれ、即死だった。


 ***『緊急事態!アルフレッド軍曹が撃たれました!』


 その報告は即座に、幻想郷の複数の拠点に伝達された。


 博麗神社。神前に集められた霊夢たちは、その内容に言葉を失った。


 「……嘘、でしょ」


 霊夢が呟いた。報告を読み上げた朝田三佐が黙して目を閉じる。


 「民間人に発砲、しかも……子供に。兵士がそれを庇って殉職。部隊は今なお、民間区域に滞在中。接触困難……」


 「なにしてんのよ、あいつら……!!」


 霊夢が机を叩いた。怒りがこみ上げる。

 「守るべき人間が撃たれて、それを庇った兵士が死んだっていうのに……交渉? 話し合い? ふざけないで!!」


 華扇も険しい顔でうなずいた。

 「人間の里で血を流させた。しかも子供にまで銃口を向けたとなれば……これはもう、敵対行為よ」


 魔理沙も声を荒げる。

 「なんでこんなことになってんだよ……幻想郷ってのは、こんなことのためにある場所じゃないんだよ!」


 だがそのとき、山森一佐がゆっくりと立ち上がった。


 「落ち着いてください、霊夢さん。魔理沙さん。怒るなとは言いません、むしろ当然です……ですが、怒りに任せた行動は、最悪の結末を引き寄せます」


 朝田三佐も頷く。


 「我々は、戦いに慣れてしまった兵士です。だからこそ知っている。怒りで引き金を引く者は、自分が守るべきものすら見失う」


 沈黙が、空間を支配した。


 そのとき、衛星回線を通じて一報が届く。東部方面隊総監からの命令だった。


 《総監命令を伝達する。人間の里に侵入し、民間人に対する攻撃を実行した敵性部隊を確認。自衛隊はこれを非正規武装勢力と見なし、交渉を断念。事態収拾のため、排除または武装解除を実行せよ》


 霊夢は、ふっと目を閉じた。


 怒りの火は、まだ胸に燃えていた。だがその火を、冷たい理性で包み込むように、彼女は深く息を吐いた。


 「……いいわ。なら、こっちも覚悟を決める。幻想郷を、私たちの“家”を、これ以上汚させないために」


 その場にいた全員が、静かにうなずいた。


 そして、次の戦いの幕が上がろうとしていた――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ