表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/218

第48章:潜入と誤解が生むもの…

夕方、霧に包まれた幻想郷の山間部を、影のような存在が進んでいた。


 北朝鮮特殊部隊――その実態は、精鋭中の精鋭で構成された小規模対外工作部隊であり、二つの分隊から成る。第一分隊と第二分隊、それぞれ五名、総勢十名。彼らの装備は旧式ながらも手入れが行き届き、動きには訓練に裏打ちされた無駄のなさがあった。


 彼らが得た戦術は、ロシアのクルスク州での共同訓練と、実戦経験に基づくものだった。


 森林の中を進む第一分隊の隊長が、手信号で停止を指示する。前方には、地下から立ち上る蒸気のようなものと、大量の機材、そして緑色の車両が確認できた。


 「……確認しろ。あのトラック、アメリカ製か?」


 副官が双眼鏡を覗き込む。

 「間違いありません。M939シリーズ。兵站車両です」


 その報告に、隊長は顔をしかめる。

 「くそ……まさか、もう弾道ミサイルの配備か?ここで運用を始めているのか……?」


 幻想郷の地霊殿――豊富な熱源、地熱発電が可能な地下構造、地上との接触の少なさ。彼らの目には、あまりにも理想的すぎる戦略拠点に映っていた。そして極め付けに

LAV-25・M113・M1131が停中してあった


 誤解は、敵意を強化させる。

 彼らは知らなかった。そこに存在していたトラックと車両が、地霊殿の住人たちに"人道支援物資'を届けるためのものであることを――。


 ***


 その頃、第二分隊は北東へ展開し、NATOの仮設通信基地に接近していた。


 「……見ろ。アンテナが三基、暗号装置と衛星端末……あれは本格的な指揮統制中枢だ」


 若い隊員が呟いた。だが、隊長は無言で双眼鏡を構え続ける。視界の中に、青いNATOマークと英語で書かれた「GFS-Command」の文字が映る。


 『Global Force Survey』――NATO多国籍部隊 拠点。だが、彼らにはその意味がわからない。ただ、戦術的な指揮所が設置されているという事実だけが、認識される。


 「奴ら、本格的に幻想郷を手に入れようとしている……」

 第二分隊の副官がそう呟いた時、空気は緊張に包まれていた。


 情報の欠如が、疑念を生む。そして疑念は、行動を過激にする。


 ***


 その報告はすぐに、分隊長同士の間で共有された。彼らは合流ポイントを変更し、幻想郷の南東部、妖怪の山を経由して湖方面への移動を開始する。


 しかし、その動きは完全に把握されていなかったわけではない。


 ハンガリー軍を中心としたNATO諸国の偵察網は 

  北朝鮮部隊の移動痕跡を再び捉えつつあった。


 「前方の踏み跡と枝の折れ方……小隊規模の移動だな。だが、さっきまでの痕跡と方向が違う」

 チェルナク大尉が呟き、後ろの兵士に合図を送る。

 「奴ら、方向を変えている。湖方面……もしくは、『きりさめ』だ」


 その頃、**護衛艦「きりさめ」**では艦橋に緊張が走っていた。


 「敵は艦を視認した可能性があります」

 伊吹副長が静かに言うと、鬼頭艦長は苦い顔をした。


 「まさか、艦をミサイルプラットフォームと誤認したか……?」


 「あり得ます。陸地から見れば異常に映るでしょう。通常の軍港でもない場所に、護衛艦が堂々と停泊しているとなれば――」


 「……誤解が戦火を呼ぶ。それを防ぐのが、我々の責務だ」


 鬼頭艦長は、部下たちに向かって指示を出す。

 「電子偽装の強化。哨戒ヘリの警戒航行を再優先に。伊吹副長、演習計画は白紙に戻して再構築する。今は戦闘ではなく、誤解を解くための『作戦』の準備だ」


 ***


 紫もまた、すでに動いていた。


 「……誤解が憎悪を生む。そして、憎悪が戦を呼ぶ。それは人間も妖怪も変わらないわ」


 彼女は空間の狭間から、幻想郷全体を見渡していた。そこに写るのは、異邦から来た兵士たちの姿、そして怯える妖怪たちの表情。


 「……あなたたちはどう動くの? 博麗の巫女に、自衛官たち。いまこそ、“意味”を示すときよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ