:演習後のブリーフィング・霊夢と青年自衛官の交流
「戦いの後に残るもの」——戦術会議と幻想郷対応案
演習終了から数日後、仮説戦術会議が、旧人間の里防衛区画に設けられた合同作戦本部で開かれた。各国・各部隊の高官たちが顔を揃える。
主な議題は、「幻想郷という環境下での連携と戦術の最適化」および「今後の備えの方針」だった。
◆アメリカ陸軍レンジャー中隊長:スコット・H・メンデス
「森林地帯での接敵率が高く、視界の制限が極端だった。現地案内人や地理解析班の配置が必要になる。加えて、魔力探知装備とのリンクも不可欠」
◆NATO空挺部隊副隊長:ドイツ連邦軍降下猟兵
ヨーゼフ・グランスト中佐
「高度からの降下は風の流れが読めない。加えて“空の結界”が物理法則を狂わせます。特殊気象班を設けるか、幻想郷特有の『気流解析ユニット』が必要です」
フランス空挺・イタリア空挺からも同様の意見が出た
◆山森一佐(陸上自衛隊):
「特殊地形と非対称的存在への対応は、“思考型の柔軟戦術”が求められる。『型にはめる戦い』ではなく、『相手に応じて変化する力』。これは災害派遣の経験からも通じることかと」
彼の言葉に、一瞬場が静まり、数名の指揮官が深く頷いた。
◆マクファーソン中将(米・戦略統合作戦部):
「幻想郷は特殊空間であるが、軍事的には“次世代戦域”と捉えるべきだろう。次回以降の演習案、戦術対応マニュアル草案、連携強化プランをまとめ、八雲紫ら幻想郷側管理者に提示する予定だ」
「加えて、現場での判断力に優れたマクファーソン准将や山森一佐らの意見も反映する。幻想郷との“信頼の構築”には、軍だけではなく人の理解が鍵となるだろう」
【29】「ある神社の約束」——霊夢と朝田三佐
その夜、霊夢は演習場近くの仮設詰所を訪れた。そこには朝田三佐が、報告書の束を前に静かに佇んでいた。
「……あ、霊夢さん」
「朝田三佐、ようやく会えたわ」
霊夢は少し微笑んだ。
「演習中、無線越しに何度もあなたの声が聞こえた。はっきりしてて、冷静で、ちょっと安心したの。正直な話……あの混沌の中じゃ、どれが味方かすら分からなくなりそうだったから」
「……そう言ってもらえると、救われます。私たちも、幻想郷での任務は初めてで。ですが、我々が守りたかったのは“無事に帰すこと”ですから」
霊夢はしばらく黙ってから、ぽつりと呟く。
「たまには、博麗神社に寄って。そうね、お札でも渡してあげる。自衛官には必要でしょ? お守りと悪霊よけ」
「えっ……それは、縁起がいいんですかね?」
「もちろんよ。ついでに、お茶くらい出すわよ。ま、お神酒はないけど」
二人の間に、ほんの少しだけ柔らかな空気が流れる。戦術と武力、そして信仰と信頼。交わることのなかった二つの世界が、少しずつ交差し始めていた。