鋼鉄の兵器と支え・観察する者たち
『見事な連携だ』
森林の陰、迷彩服に身を包んだ数名の兵士たちが、双眼鏡越しに戦闘演習の進行を観察していた。彼らの手元には記録端末と手帳があり、淡々と情報を記録していく。
演習場では戦車戦が本格化していた。
ドイツ軍所属のレオパルト2A7が滑らかに車体を旋回させ、チャレンジャー3がその砲塔をゆっくり敵に向ける。その砲声は大地を揺るがし、反応装甲を装備した標的車両を正確に打ち抜いた。
「命中確認!目標車両、撃破判定!」
その背後では、各国の装甲車・歩兵戦闘車両が連携して進撃。パンデュールII、パトリアAMVなどが素早く展開し、歩兵を降ろして市街地を模した演習区域に突入。
対する「敵役」として動くのは、旧ソ連系装備のBMP-2、ブルガリアのBMP-23、スロバキアのBVPシリーズなど。双方が慎重にラインを読み合い、模擬戦闘が緊迫感をもって繰り広げられていた。
その中で、一台の**PT-91(ポーランド製近代化T-72)**が鋭く転回し、遮蔽物からの機動射撃を成功させる。
敵役を任されたセルビア軍のM-84戦車たちに撃破判定を下す
「きゃはは!あの戦車(PT-91)、すごい!遊んでみたい!」
フランが目を輝かせて叫ぶ。彼女の瞳は、戦いに込められた意思と力を無邪気に読み取っていた。
「なかなかね、そう思わない? 咲夜」
「はい、お嬢様。統制が取れ、部隊の動きに無駄がありません」
レミリアと咲夜は、まるで貴族の舞踏会を評するように戦場を眺めていた。
一方――前線の後方では、別の動きがあった。
衛生支援・搬送演習である。
負傷兵(負傷者役を任された兵士)を想定し、M-ATV、ストライカーMEV型(医療用)、ハンヴィーのMEDEVAC仕様が順次現場に急行。サイレンを鳴らしながら地形を縫うように走り抜け、指定された救護所へと負傷者を搬送していく。
その車両の頑丈な防御力と機動力は、幻想郷の住人たちに大きな衝撃を与えた。
「見事な連携です、指揮官が優秀なんですね」
イナバ(鈴仙)が感心して呟いた。
「医療支援の大切さを理解しているわね。軍医や衛生兵の充実ぶり……地上の軍隊も、進歩したわ」
八意永琳は静かに、だが確かな眼差しで評価する。
「見事だな、地上の兵士諸君!」
比那名居天子は豪快に両手を広げて賛辞を送る。彼女らしい、素直な賞賛だった。
そして、演習を見つめる者は、幻想郷の住人たちだけではない。
月の勢力――綿月依姫を中心とした監視体制も、遠隔からリアルタイムの映像を観察していた。通信回線を通じて、輝夜や永琳が分析を加える中、依姫は静かに思案を深める。
「……地上の軍隊、かつてのそれとは違う。命を守る意識と、連携を重視した“現代の戦”だな」
幽々子や妖夢たちも、白玉楼で映像を確認していた。
「連携、格闘……見所が多いですね」
と妖夢は感心し、幽々子はゆったりと扇を開いて微笑んだ。
「戦っているのに、どこか“守っている”動きなのよねえ。面白いわ」
その時の兵士たちの姿――使命を帯び、訓練に魂を込める人間の姿は、幻想郷の者たちの心に、静かな印象を刻み込んでいた。
だがその背後では、再び"監視する者たち"が動いていた。
所属不明の偵察兵、謎の暗号通信、消えたドローン映像――
演習の完璧さの裏で、静かな戦いの兆候が、密かに進行し始めていた。
【22】「緊張と微笑みのはざまで」――フランと戦車と世界の目
「わーっ! ほんとに動いてる! これがさっきの“ぴーてぃーないち”って戦車!?」
フラン・スカーレットが、PT-91の車体に駆け寄って飛びついた。
「きゃははっ、すごい音してたよね!大砲も撃てるの?触ってもいい?中、見せてーっ!」
無邪気な笑顔と身軽な動きで戦車にしがみつくその様子に、演習場の一角が一瞬凍りつく。
「制止!制止ッ!」
駆け寄ってきたのは演習場の警備にあたるMilitary Police(軍憲兵)。フル装備の彼らが手信号を出しながら駆けつけ、即座にフランを車体から降ろす。
「立ち入り禁止区域です。お嬢さん即時退去をお願いします!危険ですから!」
だが、フランはまったく悪びれる様子もなく「えへへ、ごめんなさーい」と手を振って笑う。
そんな妹を見つめていたレミリアは、軍警に深く一礼し、
「……申し訳ありません、妹が無礼を働きました」と静かに頭を下げる。
その姿は、吸血鬼の主としての矜持と誠意をにじませていた。
一方、少し離れた場所から見ていた霊夢と魔理沙。
霊夢は口元にうっすらと笑みを浮かべながらも、目は真剣だった。
「……あの子、本当に無邪気。でも、軍というのはこういう時、どう動くのかも見たかったのよ」
魔理沙も頷く。「ああ、けど驚いたぜ。あの指揮官、ピクリとも顔色変えなかったな」
現場の指揮官――NATO所属のマクファーソン准将は、確かに一瞬だけ目を見開いたが、すぐに冷静な表情を取り戻し、各部署に「状況異常なし。通常運用を再開せよ」と指示を飛ばした。
「……冷静な判断と統制。さすがね」
傍らでその様子を見ていた茨木華扇は、指揮官の振る舞いに感心し、小さく吐息を漏らす。
「幻想郷ではああは動けないわね。人を守るという“責任”に慣れている証拠よ」
【23】「見えざる視線」――演習と国際情勢
そのころ――遠く、北朝鮮平壌の作戦室では、演習の映像を食い入るように見つめる高官たちがいた。
「……これは挑発だ」
軍幹部のひとりが低く呟く。
「韓国軍と台湾軍も参加している。加えて日本、アメリカ、NATOの精鋭部隊……我が国に対する包囲網ではないか。これは明確な“対抗策”だ」
「西側は幻想郷を手に入れるつもりなのか?」
演習の進行は確かに防衛演習とされていたが、投入された兵力、精鋭部隊、各種兵器は一国の総力戦を想定しているかのようにも見えた。
さらにその情報を暗闇から観測する者たちがいた。
所属不明部隊『ジョンドゥー』――正体不明、国籍不明、通信手段不明。
彼らは中立を装いながらも、各国の演習の情報を収集し続けている。
野戦服に覆面、バッジのない装備。正体は分からない。ただ一つ確かなのは――
幻想郷は世界の秩序を左右する「地政学上の鍵」として認識され始めているという事実だった。
【24】「終幕への歩み」
そんな裏の動きとは裏腹に、演習は終盤へと進行していた。
各部隊は最終目標地点「ポイント・デルタ」への前進を開始。空ではF-15J、ラファール、タイフーンが次々とフライパスを実施し、地上ではチャレンジャー3とレオパルト2が並んで目標区域へ侵攻、完全な制圧をもって演習の幕を閉じようとしていた。
その姿を見つめながら、再び魔理沙がつぶやいた。
空域には敵役を任されたSu-25・MIG-29・MIG-21がドッグファイトを繰り広げ、トーネードADV・F-2・F-15・F-35で迎撃体制を取る
電子戦が繰り広げられる中で空軍の強さを見せる
「……これが、本気の“防衛戦”なんだな」
霊夢も、静かに頷いた。
「幻想郷が試されてる。私たちも、逃げずに見ておかないとね」
そして、上空の衛星からこの様子を見ていた月の監視局でも、綿月依姫が小さく呟く。
「……地上の兵士達よ、何を求めるのか。どこまで行くつもりなのか」