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第41章:宵の口からくるもの

宴もたけなわ、そして――

酒が進み、時が過ぎ、人々の笑い声は一層大きく、そして丸くなっていく。


酔い潰れたアレン少佐が木陰で寝そべり、にとりは軍用携帯ラジオに小細工を加えてはしゃいでいる。

山森一佐はやけに流暢な関西弁で、魔理沙と飲み比べをしては倒れこむ。華扇は鬼頭二佐の肩を叩きながら「もっと飲めるでしょ?」『もう本官は飲めませんから』と豪快に笑い、幽々子は「これは現世で一番おいしいわね」と三杯目の熱燗を啜っている。


誰もが心の鎧を脱ぎ捨て、日常の外で一夜限りの「非日常」を楽しんでいた。


萃香は赤くなった顔で伊吹副長に絡み、「うちの酒よりいい酒持ってきたな~」と嬉しそうに笑い、四季映姫でさえ目を細めてその様子を見守っていた。


そして、そんな喧騒の中で――


【11】霊夢、呼びかける

「朝田三佐」


突如、霊夢の澄んだ声が宵闇に響いた。


朝田三佐は、盃を下ろし、立ち上がる。霊夢は神社の境内へと歩み出ていく。彼女の背中を見つめ、朝田も静かに後を追った。


その様子を、少し離れた縁側から魔理沙と山森一佐が見ていた。


山森一佐「……霊夢さん、どうするんです?」


魔理沙「一佐、話すんだよ。ずっと気にしてたことをさ」


魔理沙はぼそりと呟くと、盃を傾けた。


山森一佐は頷き、静かに目を閉じた。


【12】境内にて、二人の対話

祭りの灯が遠のき、虫の声と風の音だけが満ちる境内。霊夢は朝田の方を見ずに、口を開いた。


「ねえ、あなたさ……どうして、そんなに人を信じられるの?」


「信じてるんじゃないんです。信じたいだけです」


「……どうして?」


「誰かを守るには、それが一番強い力になるからです」


霊夢はゆっくりと顔を向ける。


「私はずっとこの場所を守ってきた。でも……本当に誰かのためだったのか、分からなくなるときがある。信じたいと思っても、怖くなるの」


朝田は、霊夢のその目をまっすぐに見つめた。


「……そうですね、怖いのは、信じることじゃなくて、信じた結果が裏切られることです。でも――」


彼は境内の奥に視線を向けた。


「それでも信じる覚悟を持って戦う人間を、私は知っています。そして、あなたもその一人だと思っていますよ」


霊夢は驚いたように目を開き、それからふっと目を伏せて笑った。


「……あなた、本当に変な人ね」


「それは…東部総監にも言われましたし、駐屯司令にも言われました、皆によく言われますね…」


月が雲の切れ間から顔を出し、二人を照らす。どこか、長い夢の中のような静けさがあった。


【13】午前1時――宴の終わり

神社の本殿から鐘の音が一度、静かに鳴る。


午前1時。宴の終了を告げる合図だった。


酔い潰れた代表たちは迎えの仲間に担がれて帰路につき、にとりは発明品を片手にホロ酔いで山へ戻っていく。

魔理沙はいつの間にか華扇と阿吽に抱えられており、映姫は彼女らを見送りながら深く一


そして――


【14】夜の語らい

その夜、朝田三佐は帰らなかった。霊夢の勧めで、神社の縁側に腰を下ろしていた。


魔理沙、早苗、そして少し遅れてやってきた萃香と、こたつを囲むようにして酒を酌み交わしながら、それぞれの「本音」が語られていく。


朝田三佐はかつて演習中に不慮の事故により

友人を失った話をぽつりと語る。


早苗は外の世界の神々への疑念と、信仰という重荷の話をする。


萃香は何百年と見守ってきた人間の変わらなさ、そして変わりゆくことへの諦めと希望を語る。


朝田は、自分が自衛官になった理由、現場で感じた

「あの日、守れなかった悔しさ」、そして今、幻想郷という未知の場所で「守りたいと思ったものがある」と言った。


霊夢はそれを聞きながら、静かに頷く。


「なら、これからも一緒にいてくれる?」


「ええ。できる限り、できることを」


誰もが、その場を離れたくないと感じていた。


夜明けまでにはまだ時間があったが、心はどこか、少しだけ軽くなっていた。


【15】深夜の神社、そして――

魔理沙と早苗が布団に身を沈め、小さな寝息を立てる頃。


宴の喧騒は嘘のように静まり返り、幻想郷の夜が再びその静けさを取り戻していた。


阿吽も境内の隅でぐっすりと眠っている。華扇も酒の残り香とともに、社務所の一角で毛布を被っていた。


その中で、ただ一人、朝田三佐の足音だけが夜の神社を巡っていた。


ゆっくりとした、自衛官らしく規律ある歩調。物音ひとつにも気を配り、境内の木々や灯籠の影を一つひとつ確認していく。


ふと、縁側に戻ると、寝息が聞こえる。


その音の先に目をやると、布団にくるまった魔理沙と早苗の穏やかな寝顔が見えた。


朝田は一歩引き、微笑みを浮かべながら、静かに呟いた。


「……この寝顔を守るのも、我々の任務の一つです」


その声は誰に届くでもなく、夜の帳に溶けていった。


彼はふと空を見上げた。


満天の星。雲ひとつない空に、冬の星座が光を放っていた。人工衛星が一筋の線を描きながら、空を横切っていく。


『こんな場所に、こんな夜があるとは感激だ……』


そう思ったとき――


「……寝ないの?」


後ろから静かな声がした。


振り返ると、霊夢が寝室から出てきていた。巫女服のまま、袖に手を包みながら彼の隣へと歩み寄ってくる。


「はっ!警備任務がありますから。私は、寝ません」


「仮眠であれば取ってありますので、大丈夫ですよ」


「……そう。でも、ちゃんと寝てほしいわ」


霊夢はそう言って、彼の隣に腰を下ろした。


夜風が二人の間を抜けていく。静かに揺れる神社の鈴が、小さく音を立てた。


「……あなた、なんだかずっと緊張してるみたい。お祭りのときも、どこか遠くを見てた」


「……性分です。守る立場であれば、楽しむよりも、周囲を見るように育ちましたから」


「でも、それだけじゃ、壊れちゃうわよ?」


霊夢の声は、柔らかいけれど真っ直ぐだった。


朝田は少しだけ視線を落とし、それから星空に目を戻した。


「……壊れてはいけない立場だからこそ、私は壊れるわけにはいかないんです」


「じゃあ、私が壊れそうになったときは、どうするの?」


その問いに、朝田は静かに答えた。


「……もちろん全力で、支えますよ!」


霊夢は目を見開き、それからほんの少し微笑んだ。


「……変な人。でも、ありがとう」


風が止み、一瞬だけ、世界が完全な静寂に包まれる。


星の瞬きだけが、まるでその場に祝福を与えるように、ふたりの肩に光を注いでいた。


16】夜明け、そして再び歩き出す朝

静寂の中に身を置いた二人は、しばらく無言のまま、肩を並べて星空を見上げていた。


霊夢は時折、朝田の横顔をちらりと見やったが、彼はそのたびに穏やかに微笑むだけだった。


やがて――


夜が、静かに明け始める。


空の端に、かすかに薄紅の光が射し込み、夜を包んでいた帳がゆっくりと引き剥がされていく。


空気が変わった。冷たさの中に、柔らかな温もりを感じさせる気配が混じる。


「……夜明け、ね」


霊夢がぽつりと呟く。


「はい。今日がまた、始まります」


朝田三佐がそう答えたその瞬間、神社の鶏が静かに一声、鳴いた。


境内の石畳に、淡い光が差し始める。


魔理沙が、寝ぼけ眼で縁側に顔を出した。


「……んぁ、朝? あたし、どれだけ寝てんたんだ?」


「まだ始まったばかりよ、魔理沙」


霊夢がふと微笑みながら返す。


「そっか。……なら、ちょっとだけまた寝る」


そう言って、魔理沙はまた布団に潜り込む。


やがて早苗も目を覚まし、欠伸をしながら起き上がる。


阿吽も静かに身支度を始めていた。まだ朝日が神社を照らしきる前――そんな「始まりの静寂」が、境内を優しく包んでいた。


朝田三佐は最後に一度、神社全体を見回す。そして、静かに深呼吸をする。


『確認よし!異常なし!』


「……これが、守るべき日常ならば、僕は何度でもこの夜を越えます」


霊夢はその背中を見つめ、そっと一言を残した。


「あなたって、やっぱり不器用ね。でも……悪くないわ、そういうの」


そして朝が完全に昇る頃には、自衛隊員たちが再び神社へと姿を現し始める。


演習準備、地元との協議、幻想郷各地との交渉、そして月との対話に向けて――

それぞれがまた、自分の「守るべきもの」に向かって歩き出す。


宴は終わった。けれど、この時間が残したものは、確かにそこにあった。


互いの言葉、信頼、そして――共に在るという約束


【17】祈りと旅立ち

朝の神社には、ふたたび整然とした空気が戻っていた。


境内には迷彩服に身を包んだ自衛隊員たちが集まり、整列していた。演習を前に、神前で安全と武運長久を祈願するためだった。


部隊長が祝詞を唱える中、朝の空気が張り詰め、まるで自然そのものが祈りに耳を傾けているかのようだった。


「――本日これより、演習に向かいます。我々の任務が滞りなく遂行され、関係者全員が無事であることを、切に祈ります」


朝田三佐の厳かな一礼に続き、隊員たちも頭を垂れる。


祈願を終えると、それぞれが演習のための最終準備に取り掛かった。


朝田も神社の一角に戻り、温かい朝食を済ませると、静かに立ち上がる。


支度は手慣れたものだった。


制服から戦闘服へ。ポーチの配置、胸元の階級章の確認、ベストの調整。

その後は、丁寧に89式小銃を分解・点検し、再び静かに組み直す。


「作動良好、異常なし」


その声は自分に対する確認と周囲の仲間たちに正常であることの報告、これから迎える演習への覚悟の表れでもあった。


続いて、高機動車の点検。燃料、冷却水、通信機器、タイヤの空気圧……。簡単な日常点検を済ませ

すべてに異常がないことを確認した朝田は、車両のドアに手をかける。


そのとき。


「――朝田さん、行くの?」


霊夢の声が背中から届いた。


振り向くと、朝日を背に受けた霊夢が立っていた。その表情は、静かで、けれど確かな感情が込められていた。


「……気をつけてね」


その一言に、朝田は軽く微笑んで答える。

その表情は優しさと自衛官としての覚悟が伺える

「……はい。必ず無事に戻ります」


霊夢は少し黙ったあと、もう一歩だけ近づいた。


「……この前の夜、言ってたこと。ちゃんと、覚えてるわ」


「……ありがとうございます」


朝田は、車両のドアを閉める前に、もう一度だけ霊夢を見つめた。


「――ご心配なく、また来ますから」


その言葉は、誓いであり、希望だった。


霊夢は小さくうなずく。


魔理沙や早苗、阿吽、そして華扇も、境内の端から手を振る。


「おーい、三佐ー! 無茶すんなよー!」


「朝田さん、気をつけてくださいね!」


それぞれの声が混じり合い、笑顔とともに朝の空気を和らげていた。


朝田はゆっくりと頷き、運転席に乗り込む。

その瞬間、彼の顔は"戦う自衛官の顔"となる

エンジンが唸りを上げる。


境内の森を抜け、高機動車はゆっくりと力強く走り出す。


霊夢たちの見送りの中を抜け、自衛隊の車列は幻想郷の演習場へと向かっていく。


その背中には、ただの自衛隊員としてではなく――

幻想郷という「第二の任地」に対する誠意と責任が、確かに刻まれていた。


霊夢『彼等に博麗の加護がありますように』

巫女としてこれから演習に経つ全ての隊員等に

向け霊夢は祈った

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