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第40章:空からの手紙・博麗神社の宴会への招待


護衛艦「きりさめ」の一般公開が無事に終了し、夕日が幻想郷の空を赤く染め始めていた。


艦上では、任務を終えた自衛官たちがホッとした様子で各所を巡回し、NATOやアメリカ軍の兵士たちも展示の撤収や情報共有に余念がなかった。鬼頭艦長と倉田三佐は、艦橋で報告書の確認を終え、静かに肩を落とす。


「やれやれ、大盛況でしたね」


「ああ。予想以上の来訪者だ。……伊吹副長も、よくやってくれた」


と、突如。


――ひらり。


空から、白い紙が舞い降りてくる。


最初に気づいたのは、見張りについていた藤原二等海尉だった。彼はその紙片をキャッチし、即座に上官へと手渡す。


「……これは?」


倉田三佐が目を通し、目を細めた。


「軍人の皆様へ

幻想郷にようこそ。

ささやかながら、博麗神社にて宴を開きます。

是非、代表の方々をお連れくださいませ。

お待ちしております。

霊夢より」


手書きの文字は丁寧で柔らかく、どこか遊び心さえ感じさせるものだった。倉田は苦笑し、鬼頭艦長を呼び寄せた。


「艦長、あなたも……呼ばれているようです」


「ほう、神社の宴か。我々向けとは、また面白い趣向だな」


手紙の末尾には、こうも書かれていた。


「※代表を数名お選びください。人数は問いませんが、神社の畳が持ちません」

その一文に、朝田三佐は思わず吹き出した。


「人数制限無ししかし畳が限界あり、と。霊夢さんらしいですね。さて、代表者を……」


一瞬の沈黙の後、選出は即決された。


マクファーソン准将(即応調査隊:Global Force指揮官)

マクファーレン中将(NATO軍代表・調整官)

朝田三佐(自衛隊の地上部隊代表)

伊吹副長(護衛艦「きりさめ」副長)

ラミレス大尉(Ghost Army・交渉班)

アレン少佐(Global Force:若手の代表)

山森一佐(妖怪の山との対話を行った陸自幹部)

鬼頭艦長(「きりさめ」艦長としての名代)


彼らはSH-60Lに搭乗し、夕暮れの空を越えて博麗神社を目指した。ローターの音が幻想郷の空に響く。


神社の鳥居が見えた時、静かに機体が降下を始める。


「……こういうのも、悪くないな」


マクファーソン准将が、ふと呟く。


「任務じゃない着陸は、いつ以来でしょうね」とラミレス大尉が苦笑しながら返す。


そして、神社の境内に降り立った瞬間――


提灯が灯され、宴の準備が整った境内で、霊夢・魔理沙・早苗たちが笑顔で出迎える。


「ようこそ博麗神社へ。今日は“戦今”じゃなく、“お酒”の時間です!」


「そう!自衛官も、将軍も、NATOも全部まとめて楽しんでいきなさい!」


そう言って差し出された杯は、まさしく幻想郷からの「平和のしるし」だった。


マクファーレン中将『ほほう、久しぶりに楽しめそうだ』


アレン少佐『中将…まさか』


マクファーソン准将『ああ…これは飲むな』



『宵、語らうは信念と共に』

紅く染まる夕空の下、博麗神社には提灯の灯が揺れていた。境内には特設の宴席が設けられ、幻想郷の住人と外の世界からの来訪者たちが一堂に会している。


やがて、選ばれた代表者たちが静かに神社の門をくぐる。先頭を歩くのは朝田三佐。その後ろに、統率された動きでマクファーレン中将をはじめとしたNATO軍の将校、自衛隊の幹部たちが続く。


境内が静まる中、マクファーレン中将が一歩前へ出ると、深く頭を下げ、短くも力強い言葉を口にした。


「この場に招いていただいたこと、心より感謝します。そして我々は、今日のような平穏と笑顔が明日も続くことを、心から願っています」


その声は高らかでありながら、どこか優しい響きを持っていた。神社に集まった者たちから自然と拍手が湧き、空気は和らいでいく。


**


境内の一角では、伊吹萃香が一升瓶を片手に笑いながら伊吹副長と向き合っていた。


「アンタ、伊吹っていうんだってな。偶然とは思えないなぁ」


「ええ、奇妙な縁ですね。私の祖父も酒が好きでしたが……あなたほどではなかったでしょう」


冗談を交えつつも、自衛官と鬼の間に穏やかな会話が生まれていく。


**


別の席では、霊夢、魔理沙、早苗たちが朝田三佐と囲炉裏を囲んでいた。香ばしい匂いが漂う中、霊夢がぽつりと語る。


「ねえ、朝田さん。あなたたちは、どうしてあんな重たい装備を背負ってまでここに来たの?」


「……守るため、です。自分が信じるものと、まだ知らない誰かの未来のためにです」


その言葉に、魔理沙は火を見つめながら頷き、早苗は祈るように手を組んだ。


**


境内の奥まった場所、静かな縁側に腰掛ける紫とマクファーソン准将。二人は盃を手に、沈黙の中で互いの瞳を見つめる。


「あなたの信念、少しだけ聞かせてくださらない?」


「……私は司令として若い兵士たちを、戦場に送ることが仕事です。しかしその前に、彼らが『なぜ』を見失わぬようにするのが、私の責任です」


「信念に裏打ちされた行動は、いずれ言葉を超えるわね」


どこか達観したような紫の言葉に、准将は静かに頷いた。


本殿の近く、華扇は鬼頭二佐と山森一佐の間に座り、豪快に並べられた料理を口に運びながら笑う。


「意外と食べっぷりがいいのね、鬼頭さん」


「戦場では、食える時に食わなきゃ損しますから」


「自分も阪神大震災のとき、配給のカロリーメイトが命綱でしたよ。食の大切さ、身に染みました」


そう言って山森一佐は、干物を丁寧にほぐして差し出す。華扇は目を細めながらそれを受け取り、彼らの人間味に心を和ませた。



やがて夜も更け、音楽や笑い声が神社の森に広がっていく。


それぞれが語りたいことを語り、食べたいものを食べ、笑いたいように笑う。

軍人も、妖怪も、巫女も、そして異世界の住人も。

この夜だけは、「立場」を越えた、等しい心だった。


【1】朝田三佐と霊夢・魔理沙・早苗

焚き火の揺らめきが三人の少女の表情を照らす中、朝田三佐は手元の湯飲みに口をつけ、静かに語り出す。


「……私は昔、災害派遣で被災地を歩いたことがあります。家をなくし、家族を失い、それでも前を向こうとする人々の姿がありました。自衛官として、その背中を支えることが、私の『戦い』でした」


霊夢は目を伏せ、魔理沙は火を見つめたまま黙っていた。早苗がそっと尋ねる。


「でも……軍じゃなくて『自衛隊』なんですよね。『戦わない』覚悟って、どういうことですか?」


朝田は少し微笑みながら答える。


「武器を持っても、それを使わない選択ができること。それが、日本の、自衛隊の存在意義なんです。もしそれが幻想郷でも通じるのなら、それを証明するのが私たちの役目です」


霊夢はそっと頷いた。


「……あなた、嫌いじゃないわ」


その言葉に、魔理沙と早苗も笑みを浮かべた。


【2】マクファーソン准将と八雲紫

夜風が静かに吹き抜ける縁側。盃を交わす二人の会話は、やがて深い哲学に及んでいた。


「あなたたち人間は、何故そんなにも争いに魅せられるのかしら?」


紫の問いに、マクファーソンは迷いなく答えた。


「我々は愚かなのはもうご承知です。しかし……愚かであるからこそ、正しさを探し続けることができる。私はそれを信じているんです」


「正しさなんて、時代と立場でいくらでも変わる。永遠の真実なんてないのに?」


「ええ、それでも。変わるからこそ、その時その時で最善を尽くす。その意志の連続が、信念という形になる、」


紫はその言葉に、一拍の沈黙を置いてから笑った。


「……あなた、気に入ったわ。幻想郷に来るには、もったいないくらいね」


【3】伊吹萃香と伊吹副長

萃香は頬を赤らめながら、伊吹副長にぐいと盃を差し出す。


「もう一杯どうだい? あんた、名前のせいか、妙に気になるんだよねぇ」


副長は苦笑しつつも盃を受け取る。


「光栄です。……でも私は、あなたのような豪快さには程遠いですよ。責任と秩序を重んじる方でして」


「そりゃ残念。だけど、秩序を守る人がいなきゃ、宴も開けないさ。あたしらの酒盛りだって、そういう真面目な奴らがいてこそなんだよ」


「……それは、ありがたいお言葉です」


杯を重ねるたびに、奇妙な信頼が芽生えていく二人だった。


【4】華扇と鬼頭二佐・山森一佐

鬼頭が豪快に焼き鳥を頬張るのを横目に、華扇は苦笑しつつ山森に話しかけた。


「……ところで、一佐。あなた、実戦に行ったことは?」


「いいえ。でも、災害派遣で現場を何度も見ました。人間の弱さと、強さも」


「……人を助ける覚悟、か。私たち仙人も、そのためにあるようなものよ」


鬼頭が酒をあおりつつ言う。


「理屈はともかく、人の命を救いたいって奴がいるからこそ、私はその背中を守る、それが自衛官です」


華扇は二人の言葉に、満足そうに微笑んだ。


「ふふ……戦わずして守る。幻想郷に、その姿を見せてくれるといいわね」


山村三佐『いずれお見せしましょう』



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