幕間:霧の喪失
バルト海某所
4月27日
米空母USS Ronald Reagan艦橋内は、混乱が広まり異常事態に直面していた。
「こちらは空母レーガン!コールサイン:きりさめ、応答せよ。こちらCVN-76ロナルド・レーガン、現在の状況を報告されたし!どうぞ!」
CIC内のダニエル無線通信士の声がむなしく艦内に響く。しかし、海上自衛隊の護衛艦【きりさめ】からの応答は皆無だった。あるのはノイズだけであった
「本艦の対水上レーダーから【きりさめ】が消えました。赤外線、ソナー、AIS信号もロスト。……まるで、霧の中に消えたまま、存在ごと消えたかのようです」
「くそっ……!」
レーガン艦長のダグラス・ベネット大佐は、眉間に深く皺を寄せた。
艦隊とのターニングポイントまで2.5kmに迫った中…その霧は突如として現れた。衛星気象データにも一切記録がなく、自然現象ではありえない構造だった。まるで空間の一点だけが“現実”から離れいるかのような異常現象である。
しかも、その中心に進入した「きりさめ」だけが、忽然と姿を消した。
まるで飲み込まれるかのように
「仮想敵国による電子戦による電波妨害か? どこの国だ?中国か北朝鮮、もしくはロシアの新型兵器じゃないだろうな……?」
「その可能性はありますが……衛星通信ごと切れているのは、説明がつきません。ソナーにもレーダーにも重力異常も観測されています。……これは、理論上存在しないタイプの時空干渉です」
ベネットは思わず机を叩いた。
「日本の横須賀基地・在日米軍司令部に緊急連絡!。事態はただの通信断ではない。“きりさめ”はレーダーから完全に喪失、原因不明の空間異常による機能消失として、これは最悪のシナリオを視野に入れ動くことになるぞ…」
艦そのものが“消えた”ように見えるということは……もしこれが自然現象ではなく、人為的なものだとすれば……」
「そうだ。何者かが、我々を観察している可能性がある」
艦長の目が鋭くなる。
「もしこれが兵器ならば、既存の兵器の概念を超えている。空間そのものを改変し、対象を“転移”または“隔離”するほどだ。一体どこの国の技術なんだ?」
「もしくは……この地球の技術ですらないかもしれません」
副長の言葉にしばしの沈黙が訪れる。
参謀の一人が囁いた。
その可能性を、空母艦内だけでなく艦隊に所属する誰もが頭の片隅で考えていた。しかし言葉にした瞬間、戦場の常識が崩れていく。戦場とはそういうものであると…
空母レーガン・ベネット艦長は、ひとつの決断を下した。
「くっ…副長!無線で本国に繋げそれからブリュッセル【NATO情報本部】、【CIA】、【DHS】、【NSA】、【市ヶ谷JSDF本部】、イギリス【MI6】、その他、関連機関全てに暗号化通信で状況報告を報告しデータを送信してくれ。これを**“不可視領域事象 No.145事案”**として仮定コードネーム化。以後本案件を“クワイエット・レーション”と名付ける」
その瞬間、空母艦橋に緊迫した空気が満ちた。
現実にも護衛艦「きりさめ」は、失われた。完全に消えた
だが、彼らはまだ知らない――それが「失われた」のではなく、異なる世界の“幻想郷という神々が住まう世界”にある実験によって飲み込まれたということを。