第3章:紫の来訪
護衛艦「きりさめ」の艦内に奇妙な静けさと緊張感に包まれた。
先ほどまでの嵐のように情報と霊夢の発言が、きりさめ艦内の空気を重くしている。
そして――それは、突然出現した
艦内通信機に一瞬ノイズを走らせ、照明が僅かながらちらついたかと思うと、艦長室の空間に裂け目が現れた。紫色の光に包まれたその亀裂は、まるで空間そのものに切り込みを入れたように見えた。
私は少し動揺した、そして異様なほど圧力を感じた、"権力者"が来る…
そう本能的に悟った
裂け目の中から、一人の女性が優雅に姿を現す。その様は美しい、なんとも美しいそして気品に溢れている
長い金髪に、紫と白の衣をまとい、目元を扇で隠した妖艶な女性――八雲紫。幻想郷の賢者にして、境界を操る存在。
我々は主に遭遇した…
「まあ、ごきげんよう。外の世界の自衛官さんたち。ようこそ、幻想郷へ」
彼女の声は静かだが、艦橋の誰もが無言のまま身構えた。89式小銃を携える精鋭の立入検査隊員たちでさえ、その場に拘束されたかのように動がない。これは凄い…何と例えるべきか言葉が見つからない…
重苦しい空気中で鬼頭艦長が冷静に応じる。
「あなたが、八雲紫さん――この幻想郷という空間の“賢者”ですか?我々でいうところの主導者の一人…」
「ええ、名乗られるまでもないでしょう? 私、少しばかりこの世界に詳しいだけよ。……それにしても、こんなにもこんな物騒で灰色の艦ごと迷い込んでくるなんて、驚いたわ」
霊夢が小さくうなずく。
「紫、やはり来たわね。間違いなくこれは、自然な転移じゃない。誰かが“意図的に”結界を操作した」
紫はその目元の扇を少し下げた。艦長以下乗員たちの目をじっと見つめる。凄い緊張感だ、海上自衛隊:幕僚長をはじめとする制服組トップに会ったように…
「――その通りよ。結界に、“外部からの干渉”があったの。正確には、幻想郷の外側から、なん等かの理由が誰かが“入り口”を開いたのよ」
「では誰が? なぜ、我々を巻き込むのですか?」
「それを探るのが、これからのあなたたち自衛官の仕事。そして、幻想郷の巫女や妖怪たちの役目でもあるわ」
鬼頭二佐は、深く息を吐きながら応じる。
「我々は自衛官です。探索と防衛はできるますが、“幻想”に詳しいわけではありません。相互に協力体制を取るなら、相応の情報と支援が必要になる」
紫は目を細めて微笑んだ。
「それで十分よ。あなたたちが“外の常識”を持っていること――それ自体が、この幻想郷における“異変”への最大の武器になる。だって、“常識”と“非常識”の境界を破ろうとしている者がいるのだから」
その言葉に、一同は息を呑んだ。
「つまり……この異変は、幻想郷を壊すだけではないと?。幻想と我々の現実、両方の世界の境界線を曖昧にしようとしている勢力がいる……と?」
「ええ。そして、そのために“外”から新たな要素――あなたたちのような“軍事力”が必要だったのかもしれないわね」
艦長室が静まり返る中、紫は最後に一言だけ、柔らかな笑みを浮かべて告げた。
「さあ、異変の幕が開いたわ。覚悟はよろしくて?」
次の瞬間、彼女の姿は空間ごと消え、艦内には再び、静寂だけが残された。先程まで重い空気が流れていたというのに…