第25章:「山の眼、地の声、空の意志」
幻想郷に“外の国々”の足音が響き渡ってから、
最も静かにして、最も鋭くその動向を観察していた者たちがいた。
――妖怪の山。
守矢神社を頂にいただく山岳地帯には、
河童、天狗、そして神々が住まい、幻想郷の軍事的・技術的勢力としても知られる。
その山の上、濃い霧に包まれた神殿にて、
八坂神奈子と守矢諏訪子は互いに視線を交わしていた。
「…いよいよ外の世界の“本流”が、この幻想郷にまで届いたというわけだね」
「ええ。まさか、本当に軍隊を率いてやって来るとは…」
神奈子の声は決して敵意ではなく、むしろ“興味”に満ちていた。
そして彼女たちのもとには――山の中腹にある哨戒所からの報告が届く。
「各国の軍用車両が人間の里に入ってきたとのことです。
紅魔館での会合の後、人々との接触も増えてきています」
同席していた射命丸文が続けて報告した。
「私は彼らを近くで取材してきました。
彼らはただの軍人ではありません。心を通わせようとしている。
それが……記事を書く者として、とても興味深かったんです」
「文。君の目に狂いはない。だが、私たちは“守るもの”を間違えてはいけない」
神奈子はそう言うと、遠くにある“人間の里”の方向を見据えた。
「……彼らと対話すべき時が来たのかもしれないな」
◆人間の里 ― 交流と希望
同時刻――人間の里では、ある企画が静かに動き始めていた。
博麗神社を中心とする数名の村人、里の役人、そして
日本の外務省職員と米軍の広報担当者たちが、**“国際友好万博”**の計画書を見ていた。
「これは……いわば、幻想郷と外の世界の民間レベルでの初の国際イベントになります」
「自衛隊と米軍のブラスバンド演奏、各国の料理ブース、幻想郷の伝統芸能……面白そうですね」
魔理沙と霊夢が顔を見合わせる。
「なんだか、異変解決とは違うけど……これはこれで、面白そうね」
「幻想郷ってさ、いつも何かと“閉じた世界”だった。でも今回は違う。
これは……“開かれた未来”を目指す第一歩かもな」
◆幻想郷の“上”と“山”が動く時
そして、文の報告を聞いていた山の別の実力者――
河城にとりは、早速いくつかの外界兵器に目をつけていた。
目をつけた航空機にはアメリカ空軍将校が立っていた
「あのNATOの無人偵察機(MQ-9"リーパー")さ、興味あるんだけど。取材って名目でちょっと見せてもらえないかな?」
空軍将校は答えた『はい、構いませんよ』
にとりの目は好奇心に輝いていた。
同時に、犬走椛も、NATO兵士との訓練見学に興味を示す。
「戦術訓練の基礎はどこまで応用できるのか……幻想郷の戦い方と比較してみたいものです」
天狗の若手たちが地上の変化を受け入れようとするその時、
大天狗たちも会議を開いていた。
「もはや時代は変わった。
この地の安寧を守るには、“拒絶”ではなく“理解”が必要かもしれぬ」
「交渉役には、文殿と椛殿に任せよう」
◆未来を語る言葉を
霊夢は祭の準備を見ながら、ふと空を見上げた。
午後の太陽が白い雲に見え隠れしながら少女を垂らしている
天界からやって来た天子、紅魔館から顔を出すレミリア、
そして山から姿を現す神奈子たち――
幻想郷の各勢力が今、初めてひとつの“未来”を見据えようとしていた。
それは戦いでも異変でもない。
人と人が言葉を交わし、何かを築こうとする意志そのものだった。