第24章:「蒼穹の視座と交差する意志」
幻想郷に各国の代表団、そして兵士たちが足を踏み入れて以来、
その空気は目に見えて変わった。
軍靴の音が静けさを壊すことはなく、
むしろ“幻想と現実”が今、静かに溶け合おうとしていた。
人間の里で子どもたちと談笑するNATO将兵たち。
兵士に手製の団子を渡す少女たち。
互いの言葉を通じ合うことは難しくとも、表情と心がそれを超えた。
そんな幻想郷の地上を見下ろすように、天界では一人の少女が空を仰いでいた。
◆
「……面白くなってきたじゃない」
比那名居天子――天界に住まう“豪族の娘”であり、
我儘で奔放だが、幻想郷の変化に最も敏感な存在の一人だった。
かつては“異変”という形で地上に騒動をもたらしていた彼女だが、
今回の変化は、どこか異なるものを感じていた。
ただの軍隊ではない。
政治や戦略を超えた、**「未来」**を巡る物語――
「外の世界の人間たちそれも兵士達が、幻想郷の未来を語ろうとしている……ふぅん」
そう呟きながら、天子は一陣の風に乗り、空を滑るように飛び立った。
その目は鋭くも、どこか好奇心に満ちていた。
◆
天子だけではなかった。
魂魄妖夢は、日本の護衛艦「きりさめ」の自衛官と、剣について話し合った。
パチュリー・ノーレッジはアメリカの技術将校に、「理論」としての異世界転送の可能性を問う。
八意永琳は、日本政府が幻想郷を“自治国”とする構想に対し、医学と科学の立場から関心を示す。その医学には癌をはじめとする難病についての治療法も話し合われている
そして博麗霊夢と霧雨魔理沙は、あえて軍ではなく「人間」として兵士たちと膝を交え、語り合っていた。
「異変を解決するのが私たちの仕事だけど……
今は異変じゃなくて、もっと大きな“流れ”が動いてる気がする」
「だからこそ、変に敵視したり、閉じこもっててもしょうがないよね」
魔理沙が笑いながら言った言葉に、隣の米海兵隊中尉が頷く。
「そうですね……俺たちも、ただ戦うために来たわけじゃない。
知りたいんです、ここの人々が何を大事にしてるのかを」
その言葉は霊夢の胸にも深く残った。
◆
そして、天子はついに紅魔館へと現れた。
突如、上空に現れた彼女に各国代表・護衛の兵士等が一瞬身構えるが、
彼女は豪快に笑いながら降り立つ。
「ようこそ幻想郷へ。地上だけじゃなく、空の上からも歓迎するわ」
その場にいた各国の外交官たちは戸惑いながらも礼を返した。兵士達も銃口を下げ安堵の嘆息を漏らした
そして、フランス代表がぽつりと呟く。
「まるで、女神のようだな……我々を革命に導いた…
あの女神を見出したかもしれん…」
天子はにやりと笑った。
「違うわよ。私はただの、天の娘。でもね、未来を語るなら――私も混ぜなさいよ」
少女たちが未来を見据えはじめた。
彼女たちは、国や政治ではなく、“生き方”を知ろうとしていた。
幻想郷に根差す者たちが、世界を変える火種となる。
その始まりが、今この瞬間、確かに起きていた。