第22章:失われたもの、思い出すべきもの」
幻想郷――人間の里。
紅魔館での緊張に満ちた国際会合の直後、各国の代表団は、
異世界であるはずのこの地にあふれる「平穏」と「人間らしさ」に触れ、
静かに心を動かされていた。
陽が落ちる頃、子供たちは兵士に笑顔で手を振り、
地元の者たちは清蘭・鈴瑚を中心に各国の大使らに手作りの団子を差し出す。
どの国の言葉も、ここでは関係なかった。
言葉を超えた「気持ち」がそこにあった。
大使らはお礼の言葉を述べ『何れお返しする』と約束した
その時、ひとりの中東系の外交官――ヨルダン王国の特使が、夕焼けに染まる空を見上げながら、独り言のようにこう漏らした。
「我々は……複雑化したこの世界の中で、何か大切なものを――人として本当に守るべきものを……見失ってはいないか?」
その声に、誰もすぐに答えることはできなかった。
だが、その問いは確かに、多くの者の胸に響いた。
やがて、マクファーソン准将――米軍即応調査部隊
指揮官は、昔聞いたある言葉を思い出していた。
「国家があなたに何をしてくれるのかではなく――
あなたが国家のために何ができるかを問え」
― ジョン・F・ケネディ
その言葉が、静かに彼の胸を貫いた。
幻想郷という、まだ利害や思想に染まっていない場所。
その場所を守るために、自分たちに何ができるのか。
国家の意志、命令、軍事的枠組み……それだけでは足りない。
「……俺たちが、この場所を守りたいと“思える”限り、
俺たちはまだ“人間”だ」
マクファーソンはつぶやいた。
その傍で、アレン少佐は無言で頷き、
ラミレス大尉は焚き火の光に照らされた子供の笑顔を見つめながら呟いた。
「……この光景を、戦場にはしたくないな」
幻想郷という地は、世界の縮図でありながら、
今もなお「未来の可能性」を秘めた場所であった。
人々が利害や国境を超えて心を交わす。
それが幻想であろうとも――守る価値がある現実である。
そして、世界のどこかでひそかに進行する「計画」の気配とは裏腹に、
この夜の幻想郷には、確かな“希望の種”が芽吹いていた。